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第三章「いざ、愛しき人の家へ」
第156話 策士梓織の必勝法
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イサベルの住む寮は学園からすぐのところにある。そして、双魔の住む寮、と言っても教員用のアパートなのだが。兎も角、双魔の家は学園から少し離れたところにある。
双魔から送られてきたメッセージに記されていた時間は十三時半、今は十三時少し前だ。
このまま普通に歩いていけば余裕で間に合うだろう。
双魔の住むアパートにお邪魔したことはないが、二年前に一度行ったことがある。
体調を崩し何週間も顔を見せなかった双魔が心配になってお見舞いに行ったのだ。
残念ながら会うことは出来なかったが、迎えに出てきた和服を着た人のよさそうな女性、左文にお見舞いの品だけ渡して帰った記憶がある。後日、快復した双魔にも礼を言われた。
休日の昼とあって、大通りではないにもかかわらず人は多い。
道沿いのカフェや生鮮食料品を扱う店は多くの人で賑わっている。
そんな人ごみの中をイサベルは胸の中で暴れまわる不安を押し込めた凛々しさと儚さを揃えた表情で歩いていく。
その物憂げな美少女に魅せられたのか、擦れ違う男たちの半分以上が目を奪われて振り返る。
中には一緒に歩いていた女性の機嫌を損ねてしまう者もいたが、そんな悲しき男の性などイサベルにはまったく関係がない。
イサベルの頭の中には昨夜、梓織から聞かされたお見合いを回避しつつ双魔との距離を縮める作戦がグルグルと回っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『そ、双、じゃなくて!伏見君に恋人役を頼む!?』
『そうよ。伏見くんに貴女の恋人になってもらうの。今回はあくまで振りだけどね。ベルは一人っ子だし、多分それでお父さんは何も言えなくなるわ。大事な跡取り、しかも可愛い一人娘が駆け落ちなんかしたら、一族の当主としても、親としてもたまったものじゃないもの』
梓織の言い分は確かに的を射ているのだがイサベルが抗議したいのはそこではない。
『そ。そういうことなら先に言っておいてくれればいいじゃない!』
『駄目よ。先に言ったらベルは絶対二の足踏んで伏見くんのところになんていけないもの。違う?』
『うぐっ…………』
間髪入れずに飛んできた梓織の言い分にイサベルは言い返せない。流石に長い付き合いなだけあって自分のことがよく分かっている。
もし、先に相談事、双魔に恋人役を頼むと言う内容を聞いていればイサベルは双魔と目も合わせられなかっただろう。
何しろ、今日、約束をするというだけで頭が沸騰しそうだったのだ。
『そ、それなら、別にわざわざ双魔君に頼まなくても…………私が相手に会ってしっかりと断ればいいじゃない』
『却下よ、貴女、変なところで押しに弱いもの。そのお見合い相手の性格にもよるけど、相手が本気だったらなんだかんだ言って断れなくなって、不幸になる姿がすぐに想像つくわ』
『うっ…………』
再び反論を試みたが、またも一瞬で切り返されてしまい、次の言葉を番えられない。
『観念なさい!親友としてベルが幸せになる最善手を勧めているの。貴女が伏見くんのことを好きなことなんてお見通しなんだから』
『な!なっなななな!』
気づかれている節は何となくあったのだが正面切って言われたことはなかったのでイサベルは面食らってしまい、何も言い返せない。
『それと、、さっきから”伏見くん”じゃなくて”双魔くん”になってるわよ?』
『はっ!?』
それが止めだった。決着は着いた。イサベルの完全敗北だ。
興奮と羞恥で顔が熱い。額に手を当てると、昨日双魔に額で熱を測られたのを思い出して更に顔が熱くなる。
『うーーー…………』
思わず、唸り声が出た。双魔はおそらく自分の頼みを断らないだろう。なぜなら、彼は優しい人だから。自分が困っていると言ったらきっと助けてくれる。
とは言っても、双魔は誰にでも優しい聖人ではない。自分で好ましいと思った人物と助けなければと思った人物にしか手は差し伸べないと言っていた。
双魔は初めて出会った時に、そして年末に魔力を暴走させた際にも自分を助けてくれた。
そうなると、だ。自分は双魔と仮初とは言え恋人同士として振る舞うことになる。
『っーーーーーー!!』
イサベルは声にならない声を出しながらベッドに倒れ込んだ。
『フフフ、頑張りなさい』
親友は文庫本のページを捲りながら悪戯っぽい声で自分を励ましてくれるのだった。
「はあ…………」
双魔から送られてきたメッセージに記されていた時間は十三時半、今は十三時少し前だ。
このまま普通に歩いていけば余裕で間に合うだろう。
双魔の住むアパートにお邪魔したことはないが、二年前に一度行ったことがある。
体調を崩し何週間も顔を見せなかった双魔が心配になってお見舞いに行ったのだ。
残念ながら会うことは出来なかったが、迎えに出てきた和服を着た人のよさそうな女性、左文にお見舞いの品だけ渡して帰った記憶がある。後日、快復した双魔にも礼を言われた。
休日の昼とあって、大通りではないにもかかわらず人は多い。
道沿いのカフェや生鮮食料品を扱う店は多くの人で賑わっている。
そんな人ごみの中をイサベルは胸の中で暴れまわる不安を押し込めた凛々しさと儚さを揃えた表情で歩いていく。
その物憂げな美少女に魅せられたのか、擦れ違う男たちの半分以上が目を奪われて振り返る。
中には一緒に歩いていた女性の機嫌を損ねてしまう者もいたが、そんな悲しき男の性などイサベルにはまったく関係がない。
イサベルの頭の中には昨夜、梓織から聞かされたお見合いを回避しつつ双魔との距離を縮める作戦がグルグルと回っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『そ、双、じゃなくて!伏見君に恋人役を頼む!?』
『そうよ。伏見くんに貴女の恋人になってもらうの。今回はあくまで振りだけどね。ベルは一人っ子だし、多分それでお父さんは何も言えなくなるわ。大事な跡取り、しかも可愛い一人娘が駆け落ちなんかしたら、一族の当主としても、親としてもたまったものじゃないもの』
梓織の言い分は確かに的を射ているのだがイサベルが抗議したいのはそこではない。
『そ。そういうことなら先に言っておいてくれればいいじゃない!』
『駄目よ。先に言ったらベルは絶対二の足踏んで伏見くんのところになんていけないもの。違う?』
『うぐっ…………』
間髪入れずに飛んできた梓織の言い分にイサベルは言い返せない。流石に長い付き合いなだけあって自分のことがよく分かっている。
もし、先に相談事、双魔に恋人役を頼むと言う内容を聞いていればイサベルは双魔と目も合わせられなかっただろう。
何しろ、今日、約束をするというだけで頭が沸騰しそうだったのだ。
『そ、それなら、別にわざわざ双魔君に頼まなくても…………私が相手に会ってしっかりと断ればいいじゃない』
『却下よ、貴女、変なところで押しに弱いもの。そのお見合い相手の性格にもよるけど、相手が本気だったらなんだかんだ言って断れなくなって、不幸になる姿がすぐに想像つくわ』
『うっ…………』
再び反論を試みたが、またも一瞬で切り返されてしまい、次の言葉を番えられない。
『観念なさい!親友としてベルが幸せになる最善手を勧めているの。貴女が伏見くんのことを好きなことなんてお見通しなんだから』
『な!なっなななな!』
気づかれている節は何となくあったのだが正面切って言われたことはなかったのでイサベルは面食らってしまい、何も言い返せない。
『それと、、さっきから”伏見くん”じゃなくて”双魔くん”になってるわよ?』
『はっ!?』
それが止めだった。決着は着いた。イサベルの完全敗北だ。
興奮と羞恥で顔が熱い。額に手を当てると、昨日双魔に額で熱を測られたのを思い出して更に顔が熱くなる。
『うーーー…………』
思わず、唸り声が出た。双魔はおそらく自分の頼みを断らないだろう。なぜなら、彼は優しい人だから。自分が困っていると言ったらきっと助けてくれる。
とは言っても、双魔は誰にでも優しい聖人ではない。自分で好ましいと思った人物と助けなければと思った人物にしか手は差し伸べないと言っていた。
双魔は初めて出会った時に、そして年末に魔力を暴走させた際にも自分を助けてくれた。
そうなると、だ。自分は双魔と仮初とは言え恋人同士として振る舞うことになる。
『っーーーーーー!!』
イサベルは声にならない声を出しながらベッドに倒れ込んだ。
『フフフ、頑張りなさい』
親友は文庫本のページを捲りながら悪戯っぽい声で自分を励ましてくれるのだった。
「はあ…………」
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