魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は  の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。

精神感応4

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第三章「いざ、愛しき人の家へ」

第159話 傀儡姫、第二の試練

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 それからしばらく、学園での出来事などの世間話をして談笑の時間が続いた。

 そして、各々が皿の上のパイを食べ終わると、左文が新しく温かいお茶を注いで周り、落ち着いた雰囲気になった時、双魔は膝の上で三切れ目のパイを食べているティルフィングを降ろして、居住まいを正し、イサベルに向き合った。

 空気を察した左文がテーブルの上に広げられた残りのカボチャパイや食器を下げつつ、ティルフィングを連れて食卓の方に移った。

 双魔の真剣な面持ちにイサベルも姿勢を正す。和やかな雰囲気ですっかり忘れかけていたが、今日イサベルは双魔に大切な頼み、「お見合いでの婚約を回避するために恋人役をして欲しい」などと言うどう考えても常識外の依頼をしに来たのだ。

 自然と身体と表情は硬くなる。

 「さて、そろそろ相談事を聞くか…………ん?俺が出来る限りのことなら何でも言ってくれていい」

 イサベルが言い出しやすいように気を使ってくれたのか、張り詰めた雰囲気は一瞬で、双魔はすぐに柔らかな表情を浮かべた。

 身体を少し前のめりにして”話を聞く姿勢”を整えている。

 「…………ええと……その、ですね…………」
 「……その前に、ちょっと、ええ?」

 イサベルが相談事の内容を双魔に打ち明けようとした時、少しの間沈黙を保ち、イサベルの様子を窺っていた鏡華がそれを遮るかのように口を開いた。

 「ん?鏡華?」
 「うち、まだ、ちゃんとイサベルはんにきちん自己紹介してへんかったから……しといた方がいい思て……ほほほ」

 鏡華は微笑みながらイサベルを見た。

 「っ!?」

 イサベルはその笑みに何か嫌な予感を感じた。

 そう言えば、六道鏡華と名乗った彼女は何者なのだろうか。余りにも自然に自分を出迎え、自然と双魔の隣に座っている自分の同年代の見目麗しく、よく見るとどこか妖艶な少女。

 一度気になってしまえば鏡華への疑念は加速度的に大きくなっていく。

 ふと、双魔の傍らに立つティルフィングを初めて目にした時に胸の中で暴れ出した何かが沸々と息を吹き返してきていた。

 ティルフィングは双魔の契約遺物で恋人などではなかったから良かったものの、この少女はもしや、双魔の、想い人のそのような存在なのではないだろうか。

 そう考えた瞬間、胸の鼓動が激しくなり、呼吸が浅くなる。それを双魔に、そして鏡華に悟られないように必死に押さえつけるが、僅かに表情が歪む。

 「ガビロール、どうした?大丈夫か?」

 目聡くそれに気づいた双魔が声を掛けてくれる。

 「は、はい!何でもありません、大丈夫です!鏡華さんも、……続けてください」

 その声を聴いて徐々に荒ぶった動悸が収まりがはじめる。ああ、自分はなんて単純なんだろう。こんなにも双魔に心配してもらえるのが嬉しいなんて、そう思ったのも束の間だった。

 数瞬前に感じていた悪い予感は直後に的中してしまった。

 「改めまして、うちの名前は六道鏡華、歳はあんはんと双魔より一つ上、双魔の……この人の婚約者させてもろうてます。どうぞ、よしなに」

 そう言って鏡華はイサベルに優雅に頭を下げた。

 「…………え?……こ、婚……約…………者?」

 イサベルは自分の耳を疑った。今、鏡華は何と言ったか。あろうことか自分の想い人、恋人役を頼もうとしていた少年の婚約者だと宣った。

 縋るように鏡華から双魔に視線を移す。

 「…………」

 双魔はバツが悪そうに、と言うよりも照れているのを隠すのにわざと不機嫌な表情を浮かべているのか、片目を閉じて親指でこめかみをグリグリと刺激しているだけで否定はしない。

 「…………本当ですか?鏡華さんの……言っていることは…………」
 「…………ん、間違いない」

 消えてしまいそうなか細い声で問うたイサベルに、双魔は視線を合わせて確かな口調でそう言った。

 「っ!!……………………」

 イサベルは完全に沈黙してしまった。何が何だか分からない。先ほどまでの楽しくも照れ臭い気持ちなど何処かに消え失せてしまった。涙が、いつの間にか膝の上で強く握りしめていた拳の上に一粒落ちたかと思うと、後を追うように止めどなく落ちてくる。

 今まで浮ついていた自分は何だったのか、わざわざ服を用意してくれた梓織たちに申し訳ない。何より、自分が想い人と結ばれる可能性を断たれたのが耐え切れないほど悲しかった。

 「…………」

 双魔は、そんなイサベルを黙って見つめていた。イサベルが突然泣き出した理由はいまいち分からないが自分か鏡華が関わっているのは明らかだ。

 こういう時、下手に慰めたりしない方が良いというのが双魔のスタンスだ。

 一方、食卓でパイを食べていたティルフィングはオロオロと落ち着かなくなってしまっている。それを、左文が事の成り行きを静観しながら抱き留めている。

 そして、どれほど時間が経ったか、イサベルがすすり泣く声だけが響いていたリビングの静寂を、鏡華が破った。

 「…………双魔」
 「…………なんだ?」
 「ティルフィングはんとちょっと、席外してくれへん?」

 真剣な面持ちでそう言った鏡華だったが、すぐに双魔を安心させようと思ったのか柔和な笑みを浮かべる。

 「…………ん、分かった。ガビロールのことは任せたぞ」
 「うん」
 「ティルフィング、散歩に行こう。左文、見送りはいい」
 「む?出掛けるのか?分かった!はむっ!むぐむぐむぐ…………」
 「かしこまりました、行ってらっしゃいませ」

 左文の腕から解放されたティルフィングは困惑の表情から一転、にぱっと笑顔を咲かせ、残っていたパイを口いっぱいに詰め込み、飲み込むと廊下に足を向ける双魔の後をついていく。

 リビングを後にした双魔は階段を上がって自分お部屋から財布を取ってくると、コートを羽織り、右手に手袋を嵌めた。

 ティルフィングのコートのボタンを留めてやり、玄関を出た。

 外の空気は思ったより冷たい。吐き出した息が白く染まり、僅かに吹く風に流れていく。

 「ソーマ!どこに行くのだ?」
 「ん……そうだな、川の方にでも行ってみるか」

 双魔の手を引いて見上げてくるティルフィングの顔を見ながら、歩き出す。

 十歩ほど歩いたところで少し振り返って、赤レンガの我が家を見つめる。

 (…………事情は呑み込めないが…………鏡華に任せておけば大丈夫か)

 「フンフフーン♪」

 機嫌よく鼻歌を歌いはじめたティルフィングの手をしっかりと握り、双魔はテムズ川に向けて道を行くのだった。

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