魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は  の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。

精神感応4

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第四章「暗雲のル=シャトリエ」

第167話 パリより来た男

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 ブリタニア王立魔導学園、新年の授業が開始されてから二週目の月曜日。始業の鐘がなって少し過ぎた頃。時計塔の学園長室には見慣れない人物が訪れていた。

 「フォッフォッフォ……よく来てくれたのう、聞いていたより一週間ほど早いが……どうかしたのかね?ル=シャトリエ君」

 椅子にゆったりと掛けて笑みを浮かべる学園長、ヴォーダン=ケントリスを前にした男も柔らかい笑みを浮かべた。

 「こちらで少々用事が出来まして……私も少し早いとは思ったのですが、参らせていただきました」

 恭しく答える男の名をオーギュスト=ル=シャトリエ答えた。

 長身に整った顔に掛けた銀縁眼鏡と七三分けにした渦巻いた金髪が特徴の魔術師だ。

 フランス王国の名門の出であり、少し前にフランス王立魔導学園の学園長を伝手にして自らを売り込み、ヴォーダンの許可を得て、魔術科の講師として赴任してきた。

 歳は二十四と若いが、高い実力と確かな才を持っており、将来を期待された若き俊英であり、現在、魔術協会が定める称号の内、上から三つ目に当たる”|導師”の上位に位置している。

 「フォッフォッフォ……うむ、特に問題もなし、早く来た分、ロンドンになれる時間が出来ようて!住む場所などは決まっておるのかね?まだなら手配することもできるが……」
 「お気遣い感謝致します。ですが、既に決まっておりますのでお心だけ頂戴いたします」
 「ふむ、そうかそうか……それなら良い」

 長く伸ばした髭を撫でながら笑っていたヴォーダンの目がふと、ある点で止まった。

 その目にはオーギュストの足元に置かれた厳重に封が施してある革のトランクが映っていた。

 「ときに、そのトランクには何が入っているのかね?」
 「ああ、これですか……流石、お目が高い!」

 訊ねられたオーギュストはトランクを両手で持ち上げてヴォーダンに見えやすいように自分の胸の前の辺りまで持ってきた。

 「これは我が家の当主に代々受け継がれる”増幅器”でして……このように厳重な封が施してあるのでいざという時以外は開けることが許されていないのです。故にお見せすることはできません……お許しいただきたく……」

 ”増幅器”とは文字通り、魔術師が魔術を発動する際に己の魔力を増幅するものである。古く、また基本的には杖の形をとるが様々な形状の者が存在する。

 通常の魔術師は自身のみの魔力生成量では中規模魔術、己の身を中心として半径三十から六十メートルが限界とされるが”増幅器”を使えば中規模魔術の負担を軽減し、大規模魔術も行使が可能になる。

 つまり、魔術師にとっては必須の器具であり、各々が調整を施したものを所持している。

 オーギュストのように一族、一門が代々受け継いでいるというのは少々稀だった。

 「ふむ、そうか。並々ならぬ力を感じたので気になったのだが……そう言うことならよいよい。ご先祖から伝わるものならば大切にしなさい」
 「はい、ありがとうございます」
 「うむ……さて、勤務等の詳しい話は事務で書類を受け取りなさい、準備室と一緒に手配はしてある。正式な勤務は来週からになるが…………何か気になることや要望はあるかね?儂の名において出来る限りのことはしよう……フォッフォッフォ!」

 ヴォーダンが高笑いする様子を見て、オーギュストはトランクを片手に持ち直し、笑みを浮かべ空いた方の手を胸に当てて首を垂れた。

 「それでは、二つほど……お願いしてもよろしいでしょうか?」
 「うむ、言ってみなさい」

 ヴォーダンは髭を撫でながら頷いた。それを聞いたオーギュストは頭を上げた。

 「一つ目は、学園の中を見て回るのをお許しいただきたい。自分の働く場所です。施設や、他の講師の方々がどのような授業を行っているのか見ておきたいのです」
 「ふむ、熱心でよろしい。許可しよう!して、もう一つは何かね?」
 「ガビロール家のご令嬢、イサベル=イブン=ガビロール殿はどちらのクラスの所属かを教えて頂きたいのです」
 「ガビロール君かね?」
 それまで目を細めて笑っていたヴォーダンが眉尻を上げて、目を見開いた。少し意外だったようだ。
 「はい、我がシャトリエ家はフランスにおけるガビロール一門の筆頭ですのでご挨拶をしておきたいのです」
 「ふむ…………」

 真剣さを保ちながら穏やか表情を浮かべたオーギュストをヴォーダンは数瞬見つめた。

 「…………」

 ただ見られているだけにもかかわらず、オーギュストの身体に緊張が走った。眼帯の向こう側の失われたはずの左眼から眼光が放たれ射抜かれているようだ。

 「いいじゃろう。グングニル」
 「はい、かしこまりました。事務にお伝えしておきます」

 ヴォーダンの斜め後ろに控えていたグングニルが頭を下げた。

 「うむ、それでは以上じゃ。慣れない内は大変じゃろうが頑張ってくれ」
 「はい、ありがとうございます……それでは、失礼いたします」

 オーギュストは恭しく一礼すると学園長室を後にした。

 広い部屋の中にはいつも通り、ヴォーダンとグングニルの二人になる。

 「…………ふむ、グングニル」
 「はい」
 「あのトランクじゃが…………何か感じたか?」

 ヴォーダンの脳裏には微かに感じたトランクの中身への疑念で満ちていた。オーギュストは中身を増幅器だと言っていたが、それが事実だとしても異質なものが入っているのは間違いないように思えた。

 「そうですね…………忌々しき力を……微かに感じましたが……アレはもう現世には存在しないはずです」

滅多に余計な感情を表に出さないグングニルの瞳に不快感が滲んだ。

 「ふむ…………」

 ヴォーダンは椅子にもたれ掛ると目を閉じて髭を数度撫でた。そして、しばらくすると目を開いた。

 「…………一応、警戒だけはしておくかの。まあ、いいじゃろう。グングニル、紅茶を淹れておくれ」
 「畏まりました。事務への連絡も済ませますので少々お待ちください」
 「うむ」

 グングニルは奥に下がっていく。残されたヴォーダンは椅子をクルリと回し、窓の外の虚空を見つめる。

 「…………巨人は滅びた……あの時に……幾千の彼方に…………もういないはずじゃ……」

 賢翁の呟きは雲の流れる空へと吸い込まれ、何処かに消えていくのだった。

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