魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は  の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。

精神感応4

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第四章「暗雲のル=シャトリエ」

第170話 ハシーシュの見立て

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 「…………」

 準備室に戻った双魔は早速、先ほど約束した資料を作り始めたのだが、作業は順調に進んでいるとは言えなかった。

 「…………」

 授業に突如乱入し、暴言を吐き散らして去っていった新しく赴任した講師だというオーギュスト=ル=シャトリエがどうにも頭の中から出ていってくれない。

 そもそも、オーギュストが何が気に入らなくてわめいていたのか双魔にはよく理解できなかった。少し推測が出来るくらいだ。

 (…………まあ、「ガキガキ」連呼してたから俺が気に入らなかったんだろうが…………)

 何となく双魔が教壇に立っていたのが気に入らなかったのは分かる。

 が、その他の理由はよく分からない。と言っても分かる必要もないので思考の中からさっさと切り捨てればいいはずなのだがオーギュストと言う男は妙に絡みつき、引っかかってくる。

 (…………なんだろうな……)

 頭の片隅の靄に少し苛つきながら席を立ち本棚の魔術書に手を掛けた時だった。

 ガチャリとドアノブが回され、ノックもせず無遠慮に扉が開かれた。

 「おっす、また、なんか面倒ごとに巻き込まれたらしいな、ご愁傷様」

 からかうような声の主は白衣を身に纏い、オリーブグレージュの髪を適当に纏め上げ、モノクルをつけた顔色の悪い女、ハシーシュ=ペンドラゴンだった。

 「…………棟内は禁煙だぞ」
 「うるせー……噛んでるだけだからいいだろ」

 双魔に白けた目で見られたハシーシュは拗ねた子供のように口を尖らせながら扉を閉めた。

 「よっこらせっと!」

 そのまま身体を引き摺るようにズルズルと動いてソファーに倒れ込んだ。

 双魔はそれを横目に目的の本を棚から引っ張り出して椅子に座りなおした。

 そして、本を机の上に置き、広げていた書類を片付けると背もたれに身体を預けてソファーにだらりと寝そべったハシーシュに目を向ける。

 「で、何の用だ?」
 「おー、とりあえず、これここ最近の講義内容まとめたやつな」

 そう言いながらハシーシュが投げた封筒がくるくると回転し、そのままピタリと机の上に着地した。

 「ん、いつも悪いな」

 先週も代講で授業に出席できなかったので非常にありがたい。

 「まあ、お前もあの爺さんに目をつけられちまってるんだから仕方ないな……クックック」

 礼を言われたハシーシュは頭をガリガリと掻きむしりながらシニカルな笑みを浮かべた。

 ”爺さん”とは学園長のことだ。詳しく話を聞いたことはないがハシーシュは時折学園長から厄介ごとを頼まれているらしい。

 「あとこれ、そこでケルナーのおっさんから預かった」

 顔を上げると紙飛行機が飛んできたので慌てて受け止める。

 「ん?っと!……おい……人に預かったものを勝手に折るなよ……」

 折り目を解いて紙を広げるとケルナーの字で先程の男、オーギュスト=ル=シャトリエについてが書いてあった。

 ケルナーによるとオーギュスト=ル=シャトリエはやはり聖フランス王国の魔術の名門、ル=シャトリエ家の者で現当主の嫡男らしい。

 フランスの王立魔導学園の魔術科評議長を務め、卒業後は親が筆頭を務めるフランス宮廷魔術団に所属し、弱冠十九歳にして”導師”の称号を獲得。

 その後、五年間王族の護衛などを務め、今回は見聞を広めるためにフランス王立魔導学園の学園長の推薦を得て、ブリタニアに赴任してきたらしい。

 備考欄には「性格にやや難有り」と温和なケルナーには珍しい荒々しい字で書かれていた。

 「私も読んだけど、また、どうしようもないのが来たなー!クックック!」

 ハシーシュが楽しそうに笑いながら上半身を起こした。

 「勝手に中身を読むなよ……」
 「いいじゃんか、私と双魔の仲だろ?読んでるだけもプライド高そうな奴だし、二十四だろ?お前につっかっかてきたのは嫉妬だな、きっと」
 「……嫉妬?」

 心当たりのない双魔は訝し気な表情で紙から顔を上げるとハシーシュがニヤリと口元を歪めた。

 「ああ、嫉妬だ、嫉妬!そのオーギュストとか言うガキはそこそこ若くて才能もそこそこあるみたいだからなー、自分がこの学園で最年少の講師、天才だとでも思い込んでのこのこブリタニアまで来た。んで、いざ蓋を開けてみたら自分より年下に見える子供が教鞭を取ってたんだ!クックック!プライドが高い奴ってのは大体沸点が低いからな、それで双魔に喧嘩売ったんだろ?馬鹿だねぇ!」
 「…………そんなくだらない理由でわざわざ教室に乗り込んできて生徒にまで暴言を吐いたのか?」
 「ああ、間違いないね!いやー、爺さんも今回は貧乏くじだな!しばらくしない内にクビになるな、多分」
 「…………」

 ハシーシュはこの学園を卒業してそのまま講師になったため、職業柄多くの人間を見てきた、その目は確かだろう。

 しかし、それでなるべく近づかず、まともに相手をしない方が良いと納得したはずなのにやはり何かが引っかかった。

 「よっ……と!」

 左手でこめかみをグリグリと刺激して渋い表情を浮かべているとハシーシュがのそりとソファーから立ち上がった。

 「じゃ、私も仕事が残ってるから戻るわ。あんまり気にすんなよ」

 ニヤリと双魔に頼もしい笑みを向けてくれる。

 「ん、そうだ。そこに置いてある瓶」
 「これか?」

 双魔がソファーの前のテーブルの上に置いてある包装された瓶を指差すとハシーシュはそれを手に取った。

 「渡しそびれてたけど、帰省した時に買ってきたお土産。仕事終わってから飲むといいよ」
 「お!日本酒か!流石、気が利くな!有難く頂戴しますよっと!じゃあ、また明日講義でな」
 「たまには時間通り来いよー」
 「クックック!……努力はするよ」

 ハシーシュは一升瓶を大事そうに抱えると心持ち、来た時より軽い足取りで準備室を出ていった。

 「……さて、資料作るか」

 ハシーシュが来てくれたおかげで随分思考を切り替えることが出来た。

 今日はティルフィングは家で左文と留守番しているので早めに帰ってやりたい。

 一旦、片付けた書類を再び広げ、魔術書の該当ページを開いて付箋を張り、作業を開始した。

 その後、休憩を挟みつつ集中して作業を進め、二時間ほどで資料が出来上がった。

 荷物を纏め、出来上がった資料を事務棟の窓口に提出し、外に出ると丁度陽が傾き暗くなりはじめた頃だった。

 「双魔、お疲れさま」
 「ん?鏡華?」

 校門に差し掛かったあたりで後ろから聞き慣れた声で呼び掛けられた。振り向くとそこには鏡華が立っていた。

 「どうしたんだ?講義は昼前には終わっただろ?」
 「フフフ、ちょっとクラスの子たちとお茶してたんよ。そろそろ終わりにしよう言うてたら双魔の背中が見えたから」
 「ん、そうか……じゃあ、一緒に帰るから」
 「フフフ、そやね」

 鏡華は周りを見回して誰も見ていないことを確かめると双魔にピタリとくっついてきた。

 「……なんだよ」
 「この方が温いから」
 「…………ん」

 双魔はぶっきらぼうに短く答えたが振り払うようなことはしない。

 二人の距離はアパートにつくまで片時も離れなかった。
 
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