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第六章「大樹の騒めき」
第190話 箱庭の異変
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一瞬、目を閉じて、開くと視界に収まりきらない巨樹の太い幹が入ってくる。
こちらは夜だったようで、元いた路地裏よりも暗く、しとしとと小雨が降っていた。
「……濡れるとまずいな」
そう思い視線を横にやるとヴォジャノーイがしまい忘れたのかパラソルが出されたままだった。
「ん、丁度いいや」
ローブを脱いで雨避けにしてパラソルの下へと走る。
「…………よし、崩れてないっぽいな」
セットした髪が崩れていないかを確かめる。この後、再びイサベルの両親に顔を見せるのであまりだらしない様になってしまうのもまずいだろう。
ローブを両手で軽く振ってついた水滴を払うと、もう一度羽織って椅子に座った。
「さて、違和感の種はなんだろうな…………ん?」
右手の親指をこめかみに当て、思案に耽ろうとした時だった。バタバタとこちらに慌てたような足音が聞こえてきた。
「坊主―!!」
足音の聞こえた方から蛙男、ヴォジャノーイが元々青い顔をさらに青くして跳ぶように走ってきた。
「おっちゃん、どうかしたのか?」
「ちょうどよかった!こっちに来てくれ!」
「な!?お、おい!」
そう言うや否やヴォジャノーイは広い背中に双魔を背負うとぴょーんと跳びはじめ、二人の姿は瞬く間に巨樹の根本の森へと消えていった。
何があったのかは聞いていないが余程のことがあったのかボジャノーイは一瞬たりとも足を止めなかった。
勿論、通るルートも選ばないので二人とも木の葉や土で汚れていく。
そして、木々の葉についた水滴で双魔の頭がびしょびしょになったあたりでようやくヴォジャノーイが動きを止めた。
「着いたぞ!坊主、ここだ!見てくれ!」
「……分かったよ……それにしてももう少し通る場所をだな……って、何だこりゃ!?」
地面に降ろされた双魔はスーツを着ているのも忘れて、濡れた顔を拭った。そして、目の前の光景に思わず大声を出した。
目の前に広がってるのは辺り一帯、広さで言えば大きめの公園ほどの広さに所狭しと生えていた草木が全て枯れ果てた光景だった。
少し前まで咲いていたと見られる花々は全て散り、葉や茎も茶色に変色して地に伏せている。
低木からも葉が全て落ち、常緑の木も葉が全てくすんでいる。
「ひどいだろ!?」
「…………」
ボジャノーイは相当混乱しているのか、大きな目をぎょろぎょろと忙しなく動かし、長い舌が口からはみ出てぶらぶらと揺れている。
「おっちゃん、いつからこうなってるんだ?」
「いや、気づいたのはさっきだ……いい感じに雨が降ってきたから散歩をしてたら見つけた。先週はこんなことにはなってなかったんだが……」
「そうか……」
双魔は無残な姿になった花々の中に足を踏み入れると屈んで地面に手を当てた。
(…………ここは薬なんて撒かれないからな……何が起きた?)
この箱庭に入れるのは双魔自身と双魔が許可した人物だけだ。
植物は出来る限り自然のままにしているので、このような多種の植物が一斉に枯れるのはおかしい。
魔力を帯びた特殊な植物たちとは言え周辺に繊細な植物は数種類のみで、他の植物は様々な要因に強かったはずだ。
ヴォジャノーイやルサールカが植物に害を与える薬剤などを撒くわけがない。
「…………ん?」
地面に触れた部分から波紋状に魔力を拡げていく。すると、一帯の地表、地下の極浅い、植物が養分を吸い取る部分に魔力が全く感じられないのだ。
「どうした?坊主、何か分かったか?」
ヴォジャノーイは双魔に代わって普段、植物たちの世話をしているので、我が子が病気になった親のように浮足立っている。
「……ここら辺の土から一切の魔力がなくなってるな……多分、急激な魔力不足が枯れたんだと思う」
「元に戻るのか?」
「…………とりあえずやってみる……フッ!」
双魔は地面に当てた手からありったけの魔力を地中に送り込む。
「おおっ!いいぞ!坊主!」
双魔の魔力があたりに行き渡り、植物たちは徐々に生気を取り戻し伏した身を起していく。
(ん、もう少し…………ん?)
双魔とヴォジャノーイが喜んだのも束の間のことだった。
復活しかけた、花々や木々はまたすぐに生気を失い元通り地にその身を倒してしまう。
「ああ…………ダメか…………坊主?」
一瞬見えた希望がすぐに消えてしまい、意気消沈したボジャノーイだったが、しゃがんだままの双魔は一言も発さずに何やら考えているようだった。
(…………あの規模の魔力が簡単に消えた……いや、吸い取られたのか!?)
双魔は勢いよく立ち上がると、上を見た。
視界一杯に巨樹の幹と枝葉が映る。気の大きさにあった巨大な葉や枝がざわざわと揺らめいている。
(風もないし…………雨も強くない……何があった?)
双魔が巨樹を見上げているのでヴォジャノーイも同じように見上げてみた。
「……あ!?坊主、あそこ!」
「……ん?」
何かに気づいたボジャノーイが巨樹の一点を指差したので双魔もそちらを見てみる。
すると、今まで見たことのない光景が目に入った。
「あれは……燃えて、いや……赤く光ってるのか?」
夜闇に包まれた巨樹の枝の一部が燦々と赤い光を放っている。
(…………原因はあれか?)
数瞬で消え去った魔力、これまで一度もなかった巨樹の発光現象。異常な現象の根源は巨樹で間違いなさそうだった。
「おっちゃん、あの樹の根元まで連れていってくれ」
「よしきた!しっかりつかまれよ!」
双魔がヴォジャノーイの背に乗る。ヴォジャノーイは手足をバネのようにして思い切り跳躍した。
一度地面を離れるたびに一キロほど進んでいるはずなのだが、それでもすぐには着かない、それほどこの箱庭の主ともいえるそれはそれほど巨大な樹だ。
「よし!着いたぞ!」
「ん、ありがとさん」
五分と掛からなかったがかなりの距離を移動した。今のところ気にしてはいないが、羽織ったローブや身に纏ったスーツは濡れて、所々には泥も跳ねていた。
双魔はひらりと背中から着地すると、改めて巨樹を見上げた。
大きい、そんな感想しか出てこないほど巨大だ。世界で一番の高さを誇るセコイア種も比べ物にならない。
「…………植えた時は普通の木と変わりなかったんだけどな……」
双魔がぽつりと呟いたその一言に、ヴォジャノーイ大きなの目がぎょろりと動いた。
「…………この樹……坊主が植えたのか?」
「ん?ああ……師匠に苗を貰ってな。おっちゃんとルサールカさんと会う二年位前かな?気づいたらこんなにデカくなってた」
「にわかには信じられないぜ…………」
「まあ、いいや、ちょっと調べてくるからおっちゃんは待っててくれ」
「おう!」
そう言うと双魔はヴォジャノーイの返事を背に、神殿の柱ほど巨大な根に近づいていった。
こちらは夜だったようで、元いた路地裏よりも暗く、しとしとと小雨が降っていた。
「……濡れるとまずいな」
そう思い視線を横にやるとヴォジャノーイがしまい忘れたのかパラソルが出されたままだった。
「ん、丁度いいや」
ローブを脱いで雨避けにしてパラソルの下へと走る。
「…………よし、崩れてないっぽいな」
セットした髪が崩れていないかを確かめる。この後、再びイサベルの両親に顔を見せるのであまりだらしない様になってしまうのもまずいだろう。
ローブを両手で軽く振ってついた水滴を払うと、もう一度羽織って椅子に座った。
「さて、違和感の種はなんだろうな…………ん?」
右手の親指をこめかみに当て、思案に耽ろうとした時だった。バタバタとこちらに慌てたような足音が聞こえてきた。
「坊主―!!」
足音の聞こえた方から蛙男、ヴォジャノーイが元々青い顔をさらに青くして跳ぶように走ってきた。
「おっちゃん、どうかしたのか?」
「ちょうどよかった!こっちに来てくれ!」
「な!?お、おい!」
そう言うや否やヴォジャノーイは広い背中に双魔を背負うとぴょーんと跳びはじめ、二人の姿は瞬く間に巨樹の根本の森へと消えていった。
何があったのかは聞いていないが余程のことがあったのかボジャノーイは一瞬たりとも足を止めなかった。
勿論、通るルートも選ばないので二人とも木の葉や土で汚れていく。
そして、木々の葉についた水滴で双魔の頭がびしょびしょになったあたりでようやくヴォジャノーイが動きを止めた。
「着いたぞ!坊主、ここだ!見てくれ!」
「……分かったよ……それにしてももう少し通る場所をだな……って、何だこりゃ!?」
地面に降ろされた双魔はスーツを着ているのも忘れて、濡れた顔を拭った。そして、目の前の光景に思わず大声を出した。
目の前に広がってるのは辺り一帯、広さで言えば大きめの公園ほどの広さに所狭しと生えていた草木が全て枯れ果てた光景だった。
少し前まで咲いていたと見られる花々は全て散り、葉や茎も茶色に変色して地に伏せている。
低木からも葉が全て落ち、常緑の木も葉が全てくすんでいる。
「ひどいだろ!?」
「…………」
ボジャノーイは相当混乱しているのか、大きな目をぎょろぎょろと忙しなく動かし、長い舌が口からはみ出てぶらぶらと揺れている。
「おっちゃん、いつからこうなってるんだ?」
「いや、気づいたのはさっきだ……いい感じに雨が降ってきたから散歩をしてたら見つけた。先週はこんなことにはなってなかったんだが……」
「そうか……」
双魔は無残な姿になった花々の中に足を踏み入れると屈んで地面に手を当てた。
(…………ここは薬なんて撒かれないからな……何が起きた?)
この箱庭に入れるのは双魔自身と双魔が許可した人物だけだ。
植物は出来る限り自然のままにしているので、このような多種の植物が一斉に枯れるのはおかしい。
魔力を帯びた特殊な植物たちとは言え周辺に繊細な植物は数種類のみで、他の植物は様々な要因に強かったはずだ。
ヴォジャノーイやルサールカが植物に害を与える薬剤などを撒くわけがない。
「…………ん?」
地面に触れた部分から波紋状に魔力を拡げていく。すると、一帯の地表、地下の極浅い、植物が養分を吸い取る部分に魔力が全く感じられないのだ。
「どうした?坊主、何か分かったか?」
ヴォジャノーイは双魔に代わって普段、植物たちの世話をしているので、我が子が病気になった親のように浮足立っている。
「……ここら辺の土から一切の魔力がなくなってるな……多分、急激な魔力不足が枯れたんだと思う」
「元に戻るのか?」
「…………とりあえずやってみる……フッ!」
双魔は地面に当てた手からありったけの魔力を地中に送り込む。
「おおっ!いいぞ!坊主!」
双魔の魔力があたりに行き渡り、植物たちは徐々に生気を取り戻し伏した身を起していく。
(ん、もう少し…………ん?)
双魔とヴォジャノーイが喜んだのも束の間のことだった。
復活しかけた、花々や木々はまたすぐに生気を失い元通り地にその身を倒してしまう。
「ああ…………ダメか…………坊主?」
一瞬見えた希望がすぐに消えてしまい、意気消沈したボジャノーイだったが、しゃがんだままの双魔は一言も発さずに何やら考えているようだった。
(…………あの規模の魔力が簡単に消えた……いや、吸い取られたのか!?)
双魔は勢いよく立ち上がると、上を見た。
視界一杯に巨樹の幹と枝葉が映る。気の大きさにあった巨大な葉や枝がざわざわと揺らめいている。
(風もないし…………雨も強くない……何があった?)
双魔が巨樹を見上げているのでヴォジャノーイも同じように見上げてみた。
「……あ!?坊主、あそこ!」
「……ん?」
何かに気づいたボジャノーイが巨樹の一点を指差したので双魔もそちらを見てみる。
すると、今まで見たことのない光景が目に入った。
「あれは……燃えて、いや……赤く光ってるのか?」
夜闇に包まれた巨樹の枝の一部が燦々と赤い光を放っている。
(…………原因はあれか?)
数瞬で消え去った魔力、これまで一度もなかった巨樹の発光現象。異常な現象の根源は巨樹で間違いなさそうだった。
「おっちゃん、あの樹の根元まで連れていってくれ」
「よしきた!しっかりつかまれよ!」
双魔がヴォジャノーイの背に乗る。ヴォジャノーイは手足をバネのようにして思い切り跳躍した。
一度地面を離れるたびに一キロほど進んでいるはずなのだが、それでもすぐには着かない、それほどこの箱庭の主ともいえるそれはそれほど巨大な樹だ。
「よし!着いたぞ!」
「ん、ありがとさん」
五分と掛からなかったがかなりの距離を移動した。今のところ気にしてはいないが、羽織ったローブや身に纏ったスーツは濡れて、所々には泥も跳ねていた。
双魔はひらりと背中から着地すると、改めて巨樹を見上げた。
大きい、そんな感想しか出てこないほど巨大だ。世界で一番の高さを誇るセコイア種も比べ物にならない。
「…………植えた時は普通の木と変わりなかったんだけどな……」
双魔がぽつりと呟いたその一言に、ヴォジャノーイ大きなの目がぎょろりと動いた。
「…………この樹……坊主が植えたのか?」
「ん?ああ……師匠に苗を貰ってな。おっちゃんとルサールカさんと会う二年位前かな?気づいたらこんなにデカくなってた」
「にわかには信じられないぜ…………」
「まあ、いいや、ちょっと調べてくるからおっちゃんは待っててくれ」
「おう!」
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