232 / 268
第二章「時計塔の眠り姫」
第230話 ふわふわ傀儡姫
しおりを挟む
二月のとある日曜日、ブリタニア王立魔導学園、事務棟の三階の一室。シンプルながら豪奢さを醸し出す扉の上には”魔術科評議会室”の文字が刻まれた木札が掲げられている。
「じゃあ、遺物科の評議会と学園祭についての交渉をしてきます」
「ほいよー、いってらー」
吞気な声に送られて扉が開き、リノリウムの廊下に一人の少女が姿を現した。
動きやすそうな白のシャツブラウスと紺のスキニーパンツの上に魔術科指定のローブを羽織り、紫黒色の髪の美しい、凛とした風貌。魔術科評議会の新副議長イサベル=イブン=ガビロール、その人だ。
日曜日は基本的に講義はないのだが、今日は評議会の仕事で学園に来ている。
出て来た部屋の中から聞こえてくる間延びしたやる気のなさそうな声を遮るように手早く扉を閉めると手にしたファイルの中の書類を確認し、それから歩きだした。
イサベルは人のいない廊下を音も立てずに一定のリズムで進んでいく。
それに合わせてトレードマークのサイドテールが前後にフリフリと揺れている。
イサベルの表情は普段通りの真面目さを保っているのだが、足取りと言い、髪の揺れ具合と言い、心なしか嬉しそうに見える。
そして、それは歩いているうちに表情にも伝播し、口元には笑みが浮かび、顔色もつやつやと輝いているようだ。
イサベルのテンションが目に見えて上がっているのは何故か。その理由はすぐに視界に入った。
歩くこと一分と少し、目の前にイサベルが出てきた部屋と同じような扉が見えてきた。
扉の上の木札には”遺物科評議会室”の文字。その名の通り、遺物科評議会の執務室だ。
魔術科評議会と同じく事務棟の三階の時計塔に近い位置にその部屋はある。
時計塔に近いのは時計塔にある職員や学生の契約遺物たちの社交の場である”サロン”に近い方が何かと便利であるとのことらしい。
しかし、イサベルにとってそんなことはどうでもいい。大事なのは遺物科評議会室に誰がいるということだった。
遺物科評議会室には遺物科の評議会メンバーがいるに決まっている。
つまり、愛しの双魔がいるのだ。
昨年末、双魔が遺物科の副議長になったことを契機にイサベルは魔術科の選挙で必要以上の実力を見せつけ双魔と同じ副議長になった。
副議長は各科間の交渉を担当することが多いため必然的に双魔と話せる機会が増えるに違いないとの下心があったことに後ろめたさを感じないでもなかったが、それはそれ。やはり好きな人に会えるのは嬉しい。
先月にはひょんなことから互いの両親公認の仲になることができた。
双魔には鏡華と言う正妻がいるので独り占めという訳にはいかないが、その鏡華も実に聡明な人で自分を排除しようとはせずに、友人として、同じく双魔を好いた者として受け入れてくれた。あらゆる面でイサベルは絶好調だ。
鏡華のように長い付き合いとは言えないので少々ぎこちない所はあるが、鏡華も加えて三人で出掛けたり二人きりでデートも何度かした。
過激なことをしたわけではないが短期間で自然に手を繋げる程に仲は進展している。
(わ、私ったら……な、何を考えているのかしら!?い、今はそういう時じゃないわ!)
気づくと遺物科の評議会室の目の前まで来ていた。
双魔との甘い時間を思い出し、朱に染まった顔をぶんぶんと振って浮ついた気分を振り払う。
ここ数日は会えていなかったので、会えると思うと自然と心も身体ものぼせ上ってしまうのだ。
「…………スー……ハーーー……スー……ハ――……よし!」
ついでに深呼吸をして騒ぎだした胸の鼓動を落ち着かせると意を決して扉を叩く。
コンッ、コンッ、コンッ!
『はーい、どなたですか?』
少し疲れているようだが明るい声が扉の向こうから聞こえてきた。この声は聞き覚えがある。双魔の友人で書記のアッシュ=オーエンの声だろう。
「魔術科のイサベル=イブン=ガビロールよ。来季の学園祭について確認したいことがあって来たわ」
『あ、ガビロールさんですか、どうぞー』
「失礼するわ」
慣れてきたとは言え、双魔と会うのはやはりドキドキする。
胸のときめきを感じながら、イサベルはドアノブに手を掛け、扉を押した。
「こんにちは、双魔君はいるかしら……って……え?な、なにこれ!?」
室内の光景を目にした瞬間、イサベルの表情から乙女な色は消え去り、驚愕に染まるのだった。
「じゃあ、遺物科の評議会と学園祭についての交渉をしてきます」
「ほいよー、いってらー」
吞気な声に送られて扉が開き、リノリウムの廊下に一人の少女が姿を現した。
動きやすそうな白のシャツブラウスと紺のスキニーパンツの上に魔術科指定のローブを羽織り、紫黒色の髪の美しい、凛とした風貌。魔術科評議会の新副議長イサベル=イブン=ガビロール、その人だ。
日曜日は基本的に講義はないのだが、今日は評議会の仕事で学園に来ている。
出て来た部屋の中から聞こえてくる間延びしたやる気のなさそうな声を遮るように手早く扉を閉めると手にしたファイルの中の書類を確認し、それから歩きだした。
イサベルは人のいない廊下を音も立てずに一定のリズムで進んでいく。
それに合わせてトレードマークのサイドテールが前後にフリフリと揺れている。
イサベルの表情は普段通りの真面目さを保っているのだが、足取りと言い、髪の揺れ具合と言い、心なしか嬉しそうに見える。
そして、それは歩いているうちに表情にも伝播し、口元には笑みが浮かび、顔色もつやつやと輝いているようだ。
イサベルのテンションが目に見えて上がっているのは何故か。その理由はすぐに視界に入った。
歩くこと一分と少し、目の前にイサベルが出てきた部屋と同じような扉が見えてきた。
扉の上の木札には”遺物科評議会室”の文字。その名の通り、遺物科評議会の執務室だ。
魔術科評議会と同じく事務棟の三階の時計塔に近い位置にその部屋はある。
時計塔に近いのは時計塔にある職員や学生の契約遺物たちの社交の場である”サロン”に近い方が何かと便利であるとのことらしい。
しかし、イサベルにとってそんなことはどうでもいい。大事なのは遺物科評議会室に誰がいるということだった。
遺物科評議会室には遺物科の評議会メンバーがいるに決まっている。
つまり、愛しの双魔がいるのだ。
昨年末、双魔が遺物科の副議長になったことを契機にイサベルは魔術科の選挙で必要以上の実力を見せつけ双魔と同じ副議長になった。
副議長は各科間の交渉を担当することが多いため必然的に双魔と話せる機会が増えるに違いないとの下心があったことに後ろめたさを感じないでもなかったが、それはそれ。やはり好きな人に会えるのは嬉しい。
先月にはひょんなことから互いの両親公認の仲になることができた。
双魔には鏡華と言う正妻がいるので独り占めという訳にはいかないが、その鏡華も実に聡明な人で自分を排除しようとはせずに、友人として、同じく双魔を好いた者として受け入れてくれた。あらゆる面でイサベルは絶好調だ。
鏡華のように長い付き合いとは言えないので少々ぎこちない所はあるが、鏡華も加えて三人で出掛けたり二人きりでデートも何度かした。
過激なことをしたわけではないが短期間で自然に手を繋げる程に仲は進展している。
(わ、私ったら……な、何を考えているのかしら!?い、今はそういう時じゃないわ!)
気づくと遺物科の評議会室の目の前まで来ていた。
双魔との甘い時間を思い出し、朱に染まった顔をぶんぶんと振って浮ついた気分を振り払う。
ここ数日は会えていなかったので、会えると思うと自然と心も身体ものぼせ上ってしまうのだ。
「…………スー……ハーーー……スー……ハ――……よし!」
ついでに深呼吸をして騒ぎだした胸の鼓動を落ち着かせると意を決して扉を叩く。
コンッ、コンッ、コンッ!
『はーい、どなたですか?』
少し疲れているようだが明るい声が扉の向こうから聞こえてきた。この声は聞き覚えがある。双魔の友人で書記のアッシュ=オーエンの声だろう。
「魔術科のイサベル=イブン=ガビロールよ。来季の学園祭について確認したいことがあって来たわ」
『あ、ガビロールさんですか、どうぞー』
「失礼するわ」
慣れてきたとは言え、双魔と会うのはやはりドキドキする。
胸のときめきを感じながら、イサベルはドアノブに手を掛け、扉を押した。
「こんにちは、双魔君はいるかしら……って……え?な、なにこれ!?」
室内の光景を目にした瞬間、イサベルの表情から乙女な色は消え去り、驚愕に染まるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
霊力ゼロの陰陽師見習い
三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。
……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」
その言葉は、もう何度聞いたか分からない。
霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。
周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。
同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。
――俺だけが、何もできない。
反論したい気持ちはある。
でも、できない事実は変わらない。
そんな俺が、
世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて――
この時は、まだ知る由もなかった。
これは――
妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる