魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は  の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。

精神感応4

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第二章「時計塔の眠り姫」

第231話 書類の山?

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 「な、なんなの!?これは!?」

 イサベルが驚きの余り上げた大きな声が評議会室に響き渡る。

 室内には魔術科と同じように机が並べられている。

 「………………」

 手前に座って書類を整理しているストロベリーブロンドを長く伸ばした物静かな雰囲気の生徒、庶務のシャーロット=リリーが視線で挨拶をしてきたので咄嗟に同じように視線を返すイサベルだったが、それも一瞬で視線は正面に釘付けだ。

 そこには山があった。書類の山だ。大量の冊子やファイル、紙束が積み上げられて最早壁のようになっていた。

 「双魔、双魔、ガビロールさんが来たよ!」
 「………………………………ん?アッシュか、どうした?」
 「ガビロールさんが来たよ!学園祭のことで話したいことがあるんだって!」
 「ん?イサベルが?わかった」

 そして、書類の山の向こうからアッシュの声と疲れ切った双魔の声が聞こえてきた。

 「っ!?」

 イサベルは思わず身体が動いた。さっさと部屋に入り、書類の山の裏に回り込んだ。

 丁度そこでこちらを向いていた双魔と目が合った。

 その顔を見てイサベルの感情は一気に双魔に対する心配へと振り切った。

 自分が普段使っているのと同じデスクチェアーに腰掛け、片手にペンを持った双魔の顔はまさに病人のそれだったからだ。

 最近は大分体調が落ち着いているようだが元々病弱なこともあって、双魔の顔色は普段もあまりよくはない。が、今は明らかに青白い、目の下にはうっすらと隈も浮き出ていた。

 「双魔君、大丈夫?これは……どうしたの?」

 イサベルが知る限り、双魔は仕事をため込むようなタイプではない。何より体調が心配だ。

 「ん……ちょっと事情があってな……それより、用事なんだろ?話、聞くからお茶でも淹れるか……」

 そう言って立ち上がろうとした双魔をイサベルとアッシュが止めた。

 「そんなのいいわ!私の話も後ででいいから……まずは休憩した方が良いわよ……」
 「そうだよ!双魔はちょっと無理しすぎだよ!お茶なら僕が淹れるから少し休憩しよう、ね?」
 「……まあ、二人がそう言うなら……そうするかな……ふうー」

 そう言うと双魔は持っていたペンを机において椅子の背もたれに身体を預けてぐったりとした。

 「ガビロール先輩、よかったらどうぞ」

 声を掛けられて振り返るといつの間にかシャーロットが椅子を用意してくれていた。

 「え?あ、ありがとう、リリーさん」
 「いえ、仕事ですので」

 無愛想にそう言うとシャーロットは自分の席に戻り書類の整理を再開した。

 「お待たせー!」

 数分と経たない内にアッシュがトレーにカップを四つ乗せて戻ってきた。

 湯気が上がるカップからは糸が垂れている。

 「パックのお茶だけど許してね」
 「いえ、気にすることないわ。パックのお茶も美味しいから」
 「ん、悪いな、アッシュ」
 「気にしなくていいよ!シャーロットちゃんもどうぞ!」
 「……ありがとうございます」

 アッシュはシャーロットの机にカップを置くと戻ってきて双魔の机に椅子を寄せて腰掛けた。

 イサベルも用意してもらった椅子に座った。

 「…………」

 完全に休憩モードに入った双魔とアッシュだったが、シャーロットはチラリと一瞥するだけで黙々と自分の作業を続けている。

 「それで……これはどうしたの?マック=ロイさんとキュクレインさんは?」

 イサベルは部屋の中をぐるりと見回してから、双魔に視線を戻して訊ねる。

 そもそも、評議会は五人いるはずだ、三人しかいないのはおかしい。さらに、副議長一人に見るからに大量の仕事が割り振られているのはおかしい。

 同じく副議長をやっている身として各所との交渉や書類の一次チェックといったもので副議長の仕事が他の役職より多くなるのは理解できるがこの量は流石に異常だった。

 「…………あー、それは……だな……ん……」

 双魔はイサベルの真っ直ぐで自分を心配する視線に何やら後ろめたさがあるのか珍しく口籠った。

 「ねえ、ねえ、その前に一つ気になることがあるんだけどいいかな?」

 マグカップを両手で包み込むように持ったアッシュが如何にも興味津々と言った様子で前のめりに双魔と距離を詰めてきた。

 「……ズズズっ……ん?なんだ?」

 双魔はぐったりとしたまま紅茶を啜っていつも通り覇気の一切こもっておらず、いつもより気だるげな視線をアッシュに向けた。

 「ガビロールさんもいいかな?」
 「え?私も?え、ええ……構わないけど……あ、紅茶ありがとう。いただくわね。んっ……」

 自分に振られると思っていなかったのかイサベルは少し驚いたようだったが、頷いて了承するとカップに口をつけた。それが小さな悲劇になると知らずに。

 「…………それじゃあ、聞くんだけど…………双魔とガビロールさん、いつの間にか呼び方が変わってるけど……何かあったの?」
 「ブッ!!」
 「わあ!?ガ、ガビロールさん!!?大丈夫!?わっ!?双魔ごめん!」
 「……………………」

 アッシュの予想外の質問にイサベルは口に含んだ紅茶を思わず吹き出してしまった。

 それを見て慌てたアッシュの手の中のマグカップが揺れて中身が半分ほど宙を舞う。

 そして、その二つは当然のように双魔に降り注いだ。顔と履いているベージュのコーデュロイパンツにシミが出来る。

 が、双魔は気にすることなく、「また厄介なことを聞かれた」と言いたげに片目を閉じて面倒そうな顔をしていた。

 「そ、双魔君!?ご、ごめんなさい!」

 事態を瞬時に把握したイサベルはポシェットからハンカチを二枚取り出し、一枚をズボンに押し当て、もう一枚で双魔の顔を優しく拭う。

 「ん、気にしなくていいから……」
 「で、でも、私の口から出たものなんて汚いわ!本当にごめんなさい!ズ、ズボンも染みになってしまうわ!どうしましょう!?」
 「あー、家に帰ったらすぐに洗うから大丈夫だ」
 「そ、そう?で、でも……」
 「ん、分かった。今度買い物にでも付き合ってくれればそれでいいから……」

 律儀なイサベルはこのままだと気にしたままだろうと思い、双魔は自分から許す条件を提案してやる。

 「……そんなことでいいの?」
 「ん、いい。それで帳消しだ。ダメか?」
 「そ、双魔君がそれでいいなら………………ごにょごにょ……」

 双魔の提案を聞き入れたイサベルはほんのりと頬を染め、形のいい眉を曲げて申し訳なさそうな、それでいて嬉しそうな複雑な表情を浮かべていた。

 双魔はそれに優しい眼差しを送っている。

 「…………これって……どういうこと?そう言うことなの?でも……うーん……」

 そんな二人の甘い空気を感じ取ったアッシュは不思議そうな、納得したような、それでいて疑うような、混乱した気持ちを素直に呟くのだった。
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