魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は  の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。

精神感応4

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第二章「時計塔の眠り姫」

第233話 遺物科副議長の苦悩

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 「…………」

 身体に力を取り戻ししっかりと椅子に座りなおしたアッシュの目の前では何とも言えない光景が広がり続けていた。

 双魔とイサベルは手を取り合ったままで、双魔はイサベルに優しい眼差しを送り、イサベルは恋という名の熱に浮かされているのか潤んだ瞳で双魔の顔を見つめ返している。

 普段の覇気のない双魔とクールなイサベルのイメージとはかけ離れ過ぎていて、モルペウスやパンタソスに非現実的な夢でも見せられているのではないかと思ったがこれは紛れもなく現実だ。

 「…………コホンッ!」
 「っーーーーーー!!?ご、ごめんなさい!」
 「……………………」

 アッシュがわざとらしく咳払いをすると二人の世界は一瞬で崩れ去り、イサベルも双魔もこちら側に戻ってくる。

 イサベルは羞恥心が限界を超えてしまったのかまた両手で顔を覆い、双魔も双魔で少し顔を赤くしてバツが悪そうにこめかみをグリグリとしている。

 (…………双魔もこんな顔するんだ…………う、ううん!いいことだよ!うん!)

 短時間で今まで見たことのなかった双魔の顔を目撃したアッシュは心のそこで微かに針で刺されたような寂しさを具現化したような痛みを感じたが、気のせいだと思い込むことにして、笑顔を作り傷を塞いだ。

 「えーっと、その纏めると、ガビロールさんは前から双魔のことが好きで、お見合いを破談にする恋人役を口実に告白したら、本当に双魔とお付き合いすることになったってことでいいかな?」
 「っ!っ!」

 アッシュの質問にイサベルは顔を隠したままコクンコクンと頷く。

 「で、双魔はガビロールさんのお願い面食らったけど何故か鏡華さんがノリノリな上に、ガビロールさんのご両親に気に入られて、自分の両親と鏡華さんの保護者からも認められたからガビロールさんと付き合うことになったと…………」
 「ん…………概ね、間違ってないが……外堀を埋められたからという訳じゃなくてだな……まあ、その、俺も……イサベルのことが好きだから……こうなった…………うん…………」
 「ふーん、はいはい、ごちそうさま!」

 頭を掻きながら照れくささを隠そうと必死な双魔にアッシュは呆れたように棒読みでそう言った。

 胸の痛みは押し込めたはずなのに、双魔が幸せで嬉しい筈なのに何故か釈然としないアッシュであった。

 「……話はずれたがどうして議長と会計がいないかって話だったな」

 これ以上続けていられないと思ったのか、それともちょうど話の切れ目だと判断したのかやや強引に双魔は話の軌道修正に乗り出した。

 「え、ええ……そうだったわね」
 「そうそう!」

 イサベルもアッシュもこの空気は良くないと思ったのか双魔の軌道修正に乗っかった。

 「副議長が忙しいのは私も痛感してるけど……流石にここまでじゃないわ。双魔君、他の人の仕事も肩代わりしたりしてない?」
 「…………まあ、質問には一つずつ答える」

 心配するイサベルを誤魔化すように双魔は話を進めた。

 「まず、会計のフェルゼンは今日は休みだ。自分の仕事はしっかりこなしてるし、連絡もあった」
 「休み…………そうなの?」
 「うん、外せない用事があるんだってさ……ハハハ……」
 「?」

 何やら乾いた笑い声を上げたアッシュに不思議そうな顔をしたイサベルにすかさず双魔が捕捉を口に出した。

 「まあ、有体に言えば契約遺物のご機嫌取りだな。フェルゼンの契約遺物……カラドボルグは神話級遺物で国の一つや二つ簡単に潰す力を有している……万が一にも怒らせたら只事じゃ済まない…………まあ、遺物使いの宿命ってところか」

 やれやれと言った風に椅子にもたれかかる双魔を見ながらイサベルはティルフィングのことを思い出していた。

 そう言えば双魔もよくティルフィングに餌付けするようにお菓子を食べさせているのはそう言うことなのだろうか。微笑ましい二人の様子を思い出して自然と表情が緩む。

 「じゃあ、議長さん、キュクレインさんは?」

 緩んだ表情に釣られて明るい声で訊ねたのだが、その質問に双魔は何とも言えないといった顔をした。

 「…………ん……議長は……まだ一度も来てない…………だから俺も会ったことがない。選挙の時に一目見ただけだな」
 「え?……どういうこと?」

 イサベルの頭の上に疑問符が浮かぶ。一度も来ていないとはどういうことだろうか。

 魔術科の議長はかなり適当でいい加減だが流石に集まりがある日は出席して自分の仕事をしている。

 議長が来ないとはどういうことなのだろうか。そして、議長が来ないということで割を食うのは必然的に副議長、つまり、双魔だ。

 その一度も出席しない議長のせいで双魔が要らぬ苦労をしているというならイサベルはそれを看過できない。

 しかし、疑問も湧いてくる。遺物科の議長は去年からの続投だが一度もそう言った怠惰であると言う噂など耳にしたことはない。

 逆に人気が高く、主に女子からなる科を渡ったファンクラブも存在していたはずだ。

 それにちょくちょく姿を現しているようで目撃したと言う噂は耳にしたことがあった。

 「うーん…………ロザリンさんは何か事情があるみたいで中々学園に来ないんだよね……」

 イサベルの不満と疑念を感じ取ったのかアッシュが口を開いた。

 「…………初めて聞いたぞ、そんなこと」
 「だって、双魔聞いて来ないんだもん」
 「…………面倒なことに巻き込まれたくないから余計なことは聞かないようにしてるんだよ……知ってるだろ……」
 「まあ、知ってるけど…………」

 双魔とアッシュはいつもこんなやり取りをしているのだろう。が、やはり双魔は疲れているように見える。

 「…………キュクレインさんはこれからも来ないのかしら?」
 「ん、それは分からん……が、まあ、来ないんだから俺がやるしかない。アッシュもフェルゼンも手伝ってくれるし、魔術科の方の講義もしばらく休むってケルナー先生に言っておいたからこっちに集中できるしな」
 「…………そう…………」

 仕方のないことだと分かってもやはり納得はできない。だからといって、ロザリンについて何も知らない故に手放しに批判するのも良いことではない。結局のところ双魔やろうとしていることは間違ってはいないのだ。

 それと、双魔がしばらく臨時講師としての仕事を休むということにイサベルは少々、否、かなりショックを受けた。

 イサベルのクラスの担当講師であるケルナーは魔術科主任を務めているため週に一回以上は双魔に代講を依頼している。双魔がそれを断るということは必然的に双魔と会う時間が減るということになる。

 以前と違い気軽に会って一緒に時間を過ごすことができるようになった、とは言いつつイサベルは未だに緊張してしまうのだが、それはそれ、これはこれだ。普段の双魔も勿論好きだが講義中の双魔にはその時ならではの良さがある。それが見ることができなくなるのは中々に厳しいものがある。

 そう考えた時、イサベルが取るべき手は一つしかなかった。

 「…………分かったわ」
 「ん?何がだ?」
 「ガビロールさん?」
 「私も手伝うわ。この書類の山の整理と処理。こんなに無防備に積んであるってことは機密書類もないでしょう?」

 イサベルの申し出に双魔は困ったような嬉しそうな笑みを浮かべ、アッシュは意外だったのか目を真ん丸に見開いている。

 「駄目かしら?」
 「…………ん、イサベルが手伝ってくれるなら百人力だが……そっちはいいのか?」
 「ええ、大丈夫よ。魔術科の議長はいつも出席する癖に少しサボっている節があるから。折角の機会だしいつも私がやっている細かいことを議長にやってもらえば私はいなくても大丈夫よ……遺物科の案件が滞っていたら魔術科や錬金技術科との共同案件も進められないでしょう?」
 「ほえー…………」
 「?オーエン君、何かしら?」

 双魔とイサベルのやり取りにポカンと口を開いていた見ていたアッシュをイサベルが不思議そうな表情で見返した。

 「あ、うん……その気を悪くしないで欲しいんだけど……ガビロールさんって仕事はできるけど杓子定規な人じゃないかって勝手に思ってたから…………」
 「フフッ、そう思われても仕方ないわ。でも私だって全体を見て柔軟な対応を取るように意識しているわ…………それに…………」
 「?」

 何か言い淀み、凛々しくも柔和だったイサベルの顔が少し赤らんだ。

 「そ、双魔君と一緒にいられる時間が増えるのは…………その嬉しいから……」

 恥ずかしそうに、語尾を萎ませながらぽしょぽしょと口にした惚気はアッシュの耳にバッチリと届いた。

 「…………双魔、愛されてるね!」

 ニヤリと普段は見せない粘り気のある笑みを浮かべてアッシュは双魔の脇腹をつついた。

 「…………ああ、知ってる……」
 「そ、双魔君!?き、聞こえてたの!?」

 双魔の反応にイサベルの首はグリンと勢いよく回り、視線と視線がぶつかる。

 「…………手伝ってくれるならさっさとはじめるか」
 「こ、こういうのって普通聞こえないものなんじゃないの!?」

 照れくさそうにフイっと視線を逸らす双魔。耳まで紅潮させるイサベル。

 (…………いいなぁ)

 そんな二人をアッシュは微笑まし気に見守りながら、内心、一言ではとても表しきれないモヤモヤを感じるのだった。
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