訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました

羽村 美海

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美容外科医であるために

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 時を遡ること一週間前。

 目の前でスヤスヤと眠り続ける女の寝顔を前に、央輔は複雑な心境だった。

 女と呼ぶには違和感を覚えるほど、穢れを知らない少女のように愛嬌のあるあどけない顔をしている。

 この女――高邑杏璃の伯母の話では、夏には二十三を迎えるらしい。

 だが、童顔に加え小柄なせいか、随分と幼く見える。未成年と言われても信じていただろう。

 そもそも見合い相手でもないのだから、さして興味も湧かなかった。

 偶然居合わせた、洋輔の知り合いの連れに過ぎない。初見での印象も曖昧だ。

 だいたい、歳が十も離れている。

 央輔にとって杏璃は、恋愛対象外でしかなかった。

 鷹村グループの御曹司にして、業界ナンバーワンと名高い、鷹村美容整形クリニックの副院長。齢三十三という若さでこの肩書きである。

 擦り寄ってくる女性は後を絶たない。

 不謹慎かもしれないが、生け簀にたとえるなら、入れ食い状態である。それは今に始まったことではない。

 美形揃いの旧家である鷹村家の三男坊として生を受け、物心ついた頃から現在進行形で継続中である。

 けれども央輔は、これまで女性に対して、特別な感情など持ったためしがなかった。

 央輔の見かけに惹かれただけならまだしも、鷹村家と近づくための手っ取り早い手段として利用しようとする女ばかりなのだから、当然だ。

 幸い、家業を継がなくてもいい気楽な身分だったのと、秀でた頭脳のおかげで、なろうと思えば何にでもなれた。

 ちなみに、これも、類い希なる美貌と同じく、一族間で引き継いだものである。

 幼い頃より、洋輔に可愛がられてきた央輔は、その影響からか美容外科医を志すようになり、この道を選んだ。

 その一歩として、医大に進学してからは医師になるために。卒業してからは、美容外科医としての腕を磨くために。

 そして何より、女性のつけいる隙を与えないためにも。

 寸暇を惜しんでひたすら研鑽を重ねる日々を送ってきた。

 それでも、央輔に取り入ろうとする女性は懲りもせず果敢に挑んでくる。

 その都度、近づくなオーラを纏い、無表情を決め込んでブリザードのごとく冷ややかな視線でひと睨みすれば、大概の女は恐れをなして逃げていく。

 央輔にとって女性は、煩わしい存在。つまりは、撃退する対象でしかなかった。

 だからこそ、気楽なソロ活を謳歌しているのだ。

 なのに、何故だろう……。杏璃のことが気になって仕方がない――

 別に、年下が好みというわけではない。ましてや、ロリコンでもない。

 だからって、男に興味があるわけでもない。

 そんなわけで、央輔自身、他者に対して恋愛感情を抱くことのない――アロマンティックなのかと思い始めていたところだ。

 だというのに、寝ぼけた杏璃に腕を抱え込まれ、意図せず杏璃を組み敷く体勢になり、奇妙な感覚に陥りそうになった。

 オペ直後の高揚感とでも言おうか。

 それも、鼻や頬骨、骨切りなど――難易度の高い術式に挑み成功した直後のような、あの感覚。

 長時間緊張感に苛まれていた神経が昂ぶってなかなか鎮まらず、ドバドバとアドレナリンを放出しているような興奮状態のような……

 そういえばあの時、腹の奥底がムズムズしたような気がしないでもない。

 腹の奥底が煮えたぎるような。

 その熱が下腹部にまで及んで、勃起に至るまでのような――あの感覚。

 杏璃が気を失わず、あのままの状態が続いていたら、勃起していた……とでもいうのか……?

(……いや待て。それじゃまるで、変態じゃないか!)

 神に誓って、勃起などしてはいない。あれは疲労によるただの生理現象だ。

 だが、何とか平静を保とうと、医者らしく振る舞うのに必死だったのは確かだ。

 といっても、そんな素振りなどおくびにも出してはいない。

 これまで数多の女性を撃退してきたのだ。クールに装うことなど、造作もない。

 ――おそらく、アレのせいに違いない。

 央輔は晴子に聞かされた、杏璃についての情報を思い浮かべた。
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