訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました

羽村 美海

文字の大きさ
32 / 68
予想外な蜜夜

しおりを挟む

 さすがは、世界一と謳われているだけのことはある。

 展望台から望む異国情緒溢れる街並みの景色と夕陽が沈みゆく光景は、言葉に尽くせないほど素晴らしいものだ。

 あたかも美しい絵画でも眺めているようで、言葉を失い感嘆の溜息をほうと零した。そんな杏璃に央輔が、中東を象徴する特徴的な建築物についての説明をしてくれた。

 なんでも、この日のために下調べしてくれていたらしい。なんとも心憎い気遣いだ。だが、これ以上自分を惑わせてどうするつもりなのかと、思わずにはいられなかった杏璃である。

(……い、いけない。別のことに頭を切り替えなくちゃ)

 このままではいけないと、央輔の説明に耳を傾けつつ下界に広がる街並みに意識を移した。奇抜なものからお洒落なものまでバラエティーに富んでいて、街全体が美術館のようだ。

 異国情緒溢れるドバイの眺望と煌びやかな噴水ショーを楽しんだあとはホテルに戻り、ケバブやサローナ、ビリヤニなどなど、ドバイの人気料理の数々に舌鼓を打った。
 
 そうして夜も更け、ジェットバスで旅の疲れを癒やした杏璃は、レジデンスのバルコニーで寛いでいるところだ。
 椅子に腰かけ見上げた夜空には、宝石のような星がキラキラと瞬いている。

 アラビアの宮殿を思わせるホテルをオアシスのようにプールが悠然と取り囲んでいる。その紺碧色の水面に映る黄金色の月が揺らめく様がなんともロマンティックだ。

 あたかも、ファンタジーの世界にでも迷い込んでしまったかのよう。

 甘いカクテルを優雅に味わいながら杏璃は至福のひとときに酔い痴れていた。

(眺めも最高だし、カクテルも甘くて美味しいし、とっても幸せ……!)

 保育士である杏璃は、子どもの命を預かり成長を見守るだけでなく、付随する様々な業務を熟さなければならない。忙しい時期には仕事を持ち帰ったり、行事の準備に追われて残業が続いたりすることもある。

 大変なこともあるが、やりがいを感じることも多い。なにより、保育士の仕事に誇りを持っている。

 央輔もそれを理解してくれているので、結婚後も保育士を続けることになっている。

 保育士としての業務を遂行するため、日頃から体調を整えている。身だしなみや生活環境にも気を配っているので、普段はお酒など滅多に口にしない。お酒があまり得意ではなかったし、呑みたいと思うようなこともなかった。

 だが、ホテルの部屋に戻り央輔とふたりきりなのだと思うと、否が応でも意識してしまう。それをなんとか誤魔化そうと、カクテルを呑んでいる、というわけである。

 案の定、まだ半分しか呑んでいないというのに、微酔いかげんだ。

 頬をほんのりと薄桃色に染めた杏璃は、上機嫌で微睡んでしまっていた。

 そこに、甘やかな優しい声音が杏璃の意識に溶けいるように染み入ってくる。

「杏璃、もう酔ったのか?」
「あ、央輔さん? 酔ってなんかないですよ~」

 少々酔いは回っているが、酔いよりも眠気のほうが勝っている。

 とろんと潤んだ瞳で上目遣いに央輔のことを見遣った杏璃は甘えるような声を放った。そして両手を広げて抱っこをせがむのだった。

 ただベッドまで運んでほしかったのだ。もちろん、他意などまったくない。

「そんな甘ったるい声で抱っこをせがむなんて。酔ってないなら……誘ってるのか?」

 ぼやけた視界の中で、央輔が何かを口にしているようだが、ぼんやりした意識では理解が及ばない。

「おう……すけ、さん……?」

 ふにゃっと蕩けた顔で首を傾げ甘えた声で問い返す。

「……誘ったのは杏璃だからな」

 小さく呟いた央輔は、杏璃の身体をひょいと抱き上げた。そうして杏璃をお姫様のように抱き上げたまま広いデジレンスの寝室へと足を進ませる。

 杏璃は心地よい微睡みの中で、アーサー王子に姫抱きにされたアイリスにでもなった心持ちでいた。

 ふわふわと夢心地だった杏璃は、天蓋付きの大きなベッドに降ろされた刹那、あたかも夢が覚めるかのように我に返り、大いに狼狽える。

 なぜなら、エキゾチックな模様が描かれた広い天井をバックに、推しと同じ顔をした央輔に組み敷かれていたからだ。

「……えっと、これって……どういう状況ですか?」
「『どういう状況』って、初夜だからに決まってるだろ」
「あの、確認なんですが。〝初夜〟って、結婚して夫婦になったばかりの男女が子どもをもうけるために営む、あの、初夜のことですよね?」
「ああ。それ以外に何があると言うんだ?」
「いえ、その、それ以外にないんですけど……!」
「なら、夫婦なんだし、問題ないんじゃないか?」

(――いやいやいや、大ありです! だって、私たちは本物の夫婦じゃなくて、利害一致の〝ソロ活婚〟をしただけなんだから、初夜なんて必要ないと思うんですけど……!)

 杏璃は心中で盛大なツッコミを繰り広げるも、おどおどしどおしだ。だというのに、央輔は匂い立つほどの大人の色香を振り撒きつつ、やけに熱っぽい眼差しで見下ろしてくる。

 視線が交わった刹那、見目が整いすぎているせいか一見冷酷にも見える、央輔の冴え冴えとした切れ長の双眸が甘く眇められた。

(な、何だろう? この、狙った獲物を仕留めようとしているハンターのような目つきは……。女性には興味がないんじゃなかったの? も、もしかして、このまま食べられちゃうの?)

 杏璃がバカな思考を巡らせている隙に、央輔はゆっくりじりじりと距離を詰めてくる。

 あまりに現実とかけ離れているせいか、杏璃はその様をぼんやりと見つめることしかできない。

 ぼんやりしているうち、気づけば央輔の薄い唇が杏璃のそれへと優しく重ねられていた。

 こういう行為に不慣れな杏璃を気遣ってくれているのだろうか。

 そうっと優しく杏璃の反応を窺うようにして、幾度も唇の表皮を撫でながら甘く啄み続ける。

 何だか焦らされている気がして、もっともっとと強請りたくなるほどに、丁寧にゆっくりと唇に愛撫を施してゆく。

(――央輔さんと、こんなにエッチな大人のキスをしてるなんて、信じられない。夢みたい。それに何だか気持ちいい……)

 初めてキスをされた時にも感じたが、ただ唇と唇とが触れあっているだけなのに、この上なく心地よくて。このままずっとこうしていたい、なんて思ってしまう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

楓乃めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

【完結】あなたに恋愛指南します

夏目若葉
恋愛
大手商社の受付で働く舞花(まいか)は、訪問客として週に一度必ず現れる和久井(わくい)という男性に恋心を寄せるようになった。 お近づきになりたいが、どうすればいいかわからない。 少しずつ距離が縮まっていくふたり。しかし和久井には忘れられない女性がいるような気配があって、それも気になり…… 純真女子の片想いストーリー 一途で素直な女 × 本気の恋を知らない男 ムズキュンです♪

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

処理中です...