偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました

羽村 美海

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崖っぷちに神様もとい俺様降臨!?


 もし仮にそうだとしても、男性恐怖症が完全に治った訳じゃない。

 どうしてかは不明だけれど、カレンには平気だったというだけで、このまま克服できるという確証もないのだ。

 その点においては、カレンにもいえることだと思うし。

 だったらプロポーズされたからといって、即刻OKなんてできる訳がない。

 ましてやカレンのことを好きかどうかもわからないのだ。男性恐怖症を克服するためにカレンを利用するような真似など言語道断。

 ーー稀有で大事な親友であるカレンに対してそんな不誠実なこと絶対にできない。

 もうこの時点で、カレンのことを特別な存在だと認識しているというのに、恋にはその自覚など全くなかったのだからしょうがない。

 カレンに対して誠実でありたい。

 ただただその一心で恋なりに言葉を選びいつつ、やんわりとお断りを入れたのだった。

「吃驚しすぎてどう反応すればいいかわからなくて……ごめんなさい。でも、私のことが好きだからプロポーズしてくれたって訳じゃないわよね。ずっとゲイだって思ってたんだし。だったらごめんなさい。私ーー」

 だがその言葉は全てを言い終える前に、カレンによって遮られてしまう。

「待て。誤解するな。お互いの利益のための結婚。俺はその提案をしているだけだ」

 これまた予想だにしなかった『利益』なんていう言葉が飛び出してきたために、恋はその場で再び固まってしまう。

 そんな恋の胸はツキンという不可解な鋭い痛みを訴えていた。

 ーー何? この胸の痛みは。

 カレンからの提案と不可解な胸の痛みに、恋は戸惑うばかりだ。

「……お互いの利益のための結婚、なんて言われても……」

 口からも戸惑いの音が漏れていた。

 そんな恋のことを存外優しい甘やかな眼差しで見遣りつつ、テーブルに身を乗り出してきたカレンがそうっと頬に触れてくる。

 あたかも困惑しきりの恋のことを宥めるように、頬を優しく撫でるものだから、あまりの心地良さにうっとりしそうになる。

 カレンの綺麗な相貌をぽーっと眺めていると、優しく言い含めるように囁きかけてくる。

「そう難しく考えるな。俺は後継者としての責任を果たさなきゃならない。そのためにも結婚は不可避だ。恋だってそうだろう? いつも言ってたよな。『お父さんをはやく安心させてあげたい。そのためにも仕事がんばらなきゃ』って。入院中の父親に、事故が原因で派遣切りにあったなんて言えないだろ」

「でも、だからって、お父さんを騙すようなことできない」

 恋が何を言っても、即座に、やけに熱っぽい口調で、もっともらしい言葉を返されてしまう。

「騙すんじゃない。俺は元来、人見知りで、異性にだけでなく、他人と関わるのが苦手だ。けど恋となら苦でもなんでもない。結婚するなら恋しか考えられない。恋だって、俺になら触れられても平気だったんだ。お互い唯一無二の特別な存在なんだから問題ないだろう」

「そんな簡単なもんじゃ」

「だったらこうしよう。俺は実家が経営する病院の後継者として、結婚して跡継ぎをもうけないとならない。そのために、恋には俺と結婚してもらう。その代わり、その報酬として、恋の男性恐怖症が克服できるよう協力させてもらうし、事故の相手から請求されている損害賠償も、全額肩代わりしてやる」

「そ、そんなことできないッ!」

「夫婦になるんだから、それくらい当然だろ。何より、これまでずっとゲイだと諦めてきた俺にとって、否、俺の家にとっては、それだけの価値があるんだ。こんな言い方はしたくなかったが。この提案断ったら、フラワーショップ可憐は売却することになるんじゃないのか?」

 最後には、どうにもならない厳しい現実を突きつけられてしまっては、返す言葉も見つからない。

「……うっ」

 ぐうの音も出ないとはこのことだろう。

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