偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました

羽村 美海

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女装男子の裏事情


 至って正常な成人男性そのもの。

 そういう男のギラギラした感情を女装男子カレンという偽りの仮面を被り、必死に押し隠してきた。

 それほどに、恋のことを一途に想い続けてきたのだ。

 恋のためならなんだってできる。

 だがまさか自分が女装男子になるなんて夢にも思わなかった。

 昼間は、脳外科の権威である病院長の優秀な一人息子として、白衣を翻し、鮮やかなメス捌きを披露しているというのに……。

 女装なんてしている姿を病院の関係者に見られたら社会的に即死だ。

 そんな大きなリスクを冒すことになろうとはーー。

 それもこれも恋のためだ。

 そう自身に言い聞かせているうち、一年も経っていた。

『さっさとしないと、あの子襲われちゃうわよ!』

 文からのその一言で秀は女装男子にならざるを得なかったのだ。

 そしてそのことをことあるごとに持ち出されているのだった。

 今だって、此度の互いの利益にための契約結婚のことでやいやい言われている真っ最中だ。

「だからって、普通するかね。あんた俺様だけじゃなくて、鬼畜だったんだぁ。へぇ。好きな女の子のために女装までしちゃう、俺様で鬼畜な変態だったなんて知ったら。愛しの恋ちゃんはどう思うのかしらねぇ。引かれるんじゃないの」

 ーー心根の優しい恋に限って、そんなことあるはずないだろ。

 そうは思いながらも、この一年の間、いくら事情があったとはいえ、己を偽ることでしか恋と向き合えなかったヘタレな己が恨めしい。

 ーーだがしょうがなかったんだ。

 正体を明かしたところで、恋の中には男である秀の記憶が残っていないだろうし。

 仮に残っていたとしても、忘れ去りたい忌まわしい記憶でしかないのだから。

 ーーそれでもいい。今は親友カレンとして、これからは、偽りだとはいえ、夫婦として一緒にいられるんだ。

 同じ時間を共有していく中で、いつか本物の夫婦になりたい。

 ーー否、絶対になってみせる。恋は俺がこの手で絶対に幸せにしてみせる。

「どうとでもいえ。けど、俺が幸せにしたら問題ないだろ」

 思いの外熱が入ってしまった秀の言葉にも、文はいつものように、痛いところを突いてくる。

「あんたみたいなヘタレにできるのかしらねぇ。好きな女の子が傍にいるのに手さえつなげなかったようなヘタレに」

 秀は、少しでも憂さを晴らそうと、目の前のウイスキーがなみなみと注がれたグラスをグイッと一気に煽った。

 そんなことをしてみても、一向に晴れはしないが、そうでもしないとやってられないという心地だったのだ。

「うっさい。だいたいお前が女装なんてさせるのがいけないんだろうが」

「あら、彼女の体質を考慮すれば仕方ないでしょう。そのおかげで、女装したあんたには平気だってわかったんだし。感謝してほしいぐらいよ。お礼は、女装男子の実態調査でいいわよ」

「勘弁してくれ。知り合いにでも見られた日には、社会的に死ぬ」

「残念。あんた女装すれば可愛いから潜入できると思ったのに」

「……」

 終いには、毎回こうだ。

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