22 / 91
思いがけないアクシデント
③
***
落ち着いた趣ある高級料亭の奥座敷には、酒も進み上機嫌な様子でお猪口を傾けながら談笑に耽っている浅葱と、その秘書である川谷、奏と柳本の姿があった。
末席に腰を落ち着けた穂乃香は、給仕を強要されることもなく、談笑に耳を傾け時折相打ちを打ちつつ空気と化している。
なぜなら、まだまだ男女の格差が問題視されている日本とは違い、女性の活躍がめざましい海外ではファーストレディがあたりまえ。女性が酌なんてする必要はない、という大学時代を海外で過ごした奏の意向故だ。
ちなみに、竹野内グループが働きたい企業ランキングで常にトップを独占しているのも、奏が先進国のそういう慣習をいち早く取り入れた改革案を打ち出し実現したからこそであるらしい。
というのは、穂乃香に何としてでも奏の良さを理解してもらおうという魂胆丸出しの柳本が得意満面に語っていたことである。
そんなわけで穂乃香はお酌することなく美味しい料理に舌鼓を打つ、などという気にはなれるはずもなく……。贅を極めた会席料理の数々にも目もくれず、これまでの経緯を思い返しては人知れずひっそりと溜息を零していた。
「いや~、それにしても見違えたよ。向こうでの奏くんの活躍ぶりは耳にしていたが、ますます男ぶりも上がって。会長もさぞかし心強いだろうねぇ」
「いえいえ、私なんてまだまだですよ」
「そんなことはないよ。奏くんも会長を支えるお母様のように、内助の功で支えてくれる伴侶を得たら、自信もつくんじゃないのかな。どうだろう? うちの娘なら気心も知れてるし、奏くんのことを昔から慕っていることだし。奏くんさえ良かったら」
(――きたきた。はぁ、気が重いなぁ)
浅葱の口から縁談話が出てきて、いよいよ自分の出番だ、と思うと沈んでいた気持ちがより一層重さを増していく。
心なしか胃まで痛くなってきた気がする。穂乃香は盛大な溜息を零していた。そこに、耳に心地よい奏のバリトンボイスが響き渡った。
「実は、就任の準備のために帰国した際に、素敵な女性とのご縁に恵まれましてね。結婚を前提にしたお付き合いをしております。……せっかくのお話ですが、お嬢様との縁談をお受けすることはできません」
浅葱の表情がにこやかなものから驚きの色に塗り替えられていく。
だがそれも一瞬のことだ。
しばし思案する素振りを見せた浅葱から祝いの言葉が飛び交った。
「それはおめでとう。会長もようやく肩の荷が下りて、さぞかしお喜びになっているだろうねぇ。これまで浮いた話などなかった奏くんの心を射止めるとは、さぞかし素敵な女性なんだろうねぇ。一体どこのお嬢さんかなぁ」
どうせまた縁談を断るための口実に違いない。とでも顔に書いていそうな疑いの眼差しで、浅葱は奏をじっと見据えている。
あからさまな浅葱の態度に奏が怯む様子はなく、堂々とした佇まいは堂に入っており、隙など全くない。
それどころか、末席でことの成り行きを静かに見守っている穂乃香に、ふっと笑んでみせるという余裕まであるようだ。
奏の笑顔ひとつで緊張感に苛まれていた穂乃香は、不覚にも安堵感を覚えてしまう。
そんな自身に対して戸惑うばかりだ。
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ワケあって、お見合い相手のイケメン社長と山で一夜を過ごすことになりました。
紫月あみり
恋愛
※完結! 焚き火の向かい側に座っているのは、メディアでも話題になったイケメン会社経営者、藤原晃成。山奥の冷えた外気に、彼が言い放った。「抱き合って寝るしかない」そんなの無理。七時間前にお見合いしたばかりの相手なのに!? 応じない私を、彼が羽交い締めにして膝の上に乗せる。向き合うと、ぶつかり合う私と彼の視線。運が悪かっただけだった。こうなったのは――結婚相談所で彼が私にお見合いを申し込まなければ、妹から直筆の手紙を受け取らなければ、そもそも一ヶ月前に私がクマのマスコットを失くさなければ――こんなことにならなかった。彼の腕が、私を引き寄せる。私は彼の胸に顔を埋めた……
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。
そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!?
貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
公爵夫人は愛されている事に気が付かない
山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」
「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」
「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」
「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」
社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。
貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。
夫の隣に私は相応しくないのだと…。
普通のOLは猛獣使いにはなれない
ピロ子
恋愛
恋人と親友に裏切られ自棄酒中のOL有季子は、バーで偶然出会った猛獣(みたいな男)と意気投合して酔った勢いで彼と一夜を共にしてしまう。
あの日の事は“一夜の過ち”だと思えるようになった頃、自宅へ不法侵入してきた猛獣と再会し、過ちで終われない関係となっていく。
普通のOLとマフィアな男の、体から始まる関係。