54 / 161
第52話 ジオードと大人のお店
しおりを挟む「……お前は、ユークか」
ジオードは、ぶつかりかけた相手がユークだと気づくと、無表情だった顔をふっと緩めた。
「殿下……」
ユークは反射的にそう口にしていた。
「殿下はやめてくれ。ジオードでいい」
ジオードは親しげに笑いながら訂正を求めてくる。
「……分かりました。では、ジオード様で」
ユークが少しだけ間を置いて、そう答えた。
「うーん、まだ固いな。まあ、いいか」
ジオードは困ったように笑顔を浮かべると、どこか楽しげに言葉を続ける。
「で、どうしたんだ? 何か考え事でもしてたのか?」
そう尋ねられたユークは、言葉に詰まってしまう。
「あ~、えっと……その……」
視線を泳がせ、言い淀むユークを見て、ジオードは苦笑しながら手を振った。
「おっと、悪いな。困らせるつもりじゃなかったんだ。……ん?」
その時、ジオードの目線が鋭くなった。まるで、何かに気づいたように。
「ユーク、お前……女を経験したな?」
突然の言葉に、ユークの顔が真っ赤になる。
「そっ、それは……!」
目を見開き、狼狽するユークに対し、ジオードはニヤリと唇を吊り上げた。
「ふっ。立ち振る舞いに自信が感じられるようになったからな。男ってのは、女を通すことで初めて自分の価値ってやつを自覚できる生き物なんだよ」
その言葉に、ユークは何も言い返せなかった。
「相手はアウリン……ではないな。あのセリスとかいう娘か……」
ジオードはユークの反応を見て、相手がセリスだと見抜いた。
「な、なんで分かったんですか!?」
ユークは目を見開いて問い返す。
「なに、お前の反応を見てれば分かるさ」
ドヤ顔で笑みを浮かべるジオード。
そして少し真面目な表情を浮かべると、ユークに優しく言葉を投げかけた。
「もし、セリスと先に関係を持ったことを気に病んでいるなら、気にすることはないぞ。どうせアウリンの方から譲ったんだろう。貸しを作るためにな」
ユークを気遣いながら、ジオードは続ける。
「あの子は、ちょっと小賢しいところがあるからな……」
ジオードは小さくため息をつき、肩を落とす仕草を見せる。
「ジオード様……」
その言葉に、どこかユークの胸にあったわだかまりが少し和らぐのを感じた。
少しの沈黙のあと、ふと思い出したように口を開く。
「そういえば、まだこの街にいらしたんですね」
「ん? ああ。《賢者の塔》に行ってきたんだ。一度くらい試しておこうと思ってな」
何気ない口調で、ジオードはそう返した。
「えっ? 三人で、ですか?」
まさかと思いつつも確認するユークに、ジオードは当然のように頷いた。
「ああ、軽く三十階まで、な」
「……軽く、って」
ユークは目を見開いて絶句する。
「ふっ。俺をなめるなよ、ユーク。俺は近接最強ジョブ『剣聖』持ちだぞ? その程度、造作もないことだ」
ドヤ顔を決めるジオードに、ユークは首を傾げて純粋に問いかけた。
「じゃあ、どうして前にセリスにボコボコにされてたんですか?」
その一言に、ジオードの表情がピタリと止まる。
「うっ……あれは、まあ……なんだ」
図星を突かれたとでも言わんばかりに言葉に詰まり、視線を泳がせる。
格下に本気を出すのがダサいと思って手を抜いたら、思わぬ反撃を食らった――などとは、口が裂けても言えなかった。
なにせ、いまだにシリカからその一件をネタにからかわれているのだ。
なんとか誤魔化せないかと、ジオードは小さく唸った。
ジオードは落ち着きなく視線をさまよわせながら、突然何かを思いついたように指を伸ばした。
「そ、そうだ! ……あそこに入ってみないか?」
彼の指先が示すその先には、艶やかな光を放つ大人の店があった。
接待用の店舗として名高く、派手な衣装をまとった女性たちが客をもてなす、いわゆる“そういう”場所である。
「あんなお店に……行くんですか」
ユークは喉を鳴らしながら、呆然とその看板を見上げた。
「……うん。ま、まあ、ちょっとした息抜きってやつだ」
自分でも言ってしまってから後悔したジオードだったが、もう引き返すことはできない空気になっていた。
店内に一歩足を踏み入れると、視界いっぱいに金や赤を基調とした華美な装飾が広がった。
そこにいたのは、布面積の少ない服を身にまとい、笑顔を浮かべた女性たち。どこか現実離れしたきらびやかな空間が、ふたりを包み込む。
「いらっしゃいませ~、おふたりさまですね~?」
愛想よく声をかけてきた店員に案内されるまま、ユークとジオードはソファ席に腰を下ろす。
そのすぐ隣には、やはり露出の多い格好をした女性が、それぞれに寄り添うように座ってきた。
「とりあえず、適当に酒を。つまみも二人分、何か頼む」
ジオードが手慣れた様子で注文を済ませる。
「ジオード様って……こういうお店、よく来るんですか?」
ユークがやや戸惑ったように尋ねる。
「ま、まあな……たまにはな」
そう言いつつ、ジオードはごまかすように目を逸らした。額にじんわりと汗がにじんでいる。
(ジオードさん……大人って感じがする……)
そんなことを考えていると、隣の女性がふわりと体を寄せてきた。
「お客様、お名前はなんておっしゃるのかしら~?」
甘えた声で、ユークに問いかける。
「あ、ユークっていいます」
「ユーク様、ですか~。こんなお店に来られるなんて、お若いのに優秀なんですね~」
女性がほほえみながら褒めそやすと、ユークは顔をわずかに伏せた。
「そんな……俺なんて、まだまだです……」
謙遜する彼だったが、《賢者の塔》の二十階に手が届くほどの実力を持つパーティーは、ギルド内でも中堅以上と見なされる。
今まさに二十階を越えようとしているユークたちのパーティーは、文句なしに優秀と言える存在だった。
「すご~い! カッコいいです~」
「……俺、こういうお店に来たのって初めてで……どうすればいいんですか?」
女性が胸元を押しつけてくるが、ユークは特に意識する様子もなくジオードに向き直って聞く。
かつての彼であれば、顔を真っ赤にしてしどろもどろになっていたことだろう。
しかし今のユークには、多少の接触では動じない耐性が備わっていた。
それは──セリスとの関係が、彼を一歩大人にした証でもあった。
「気にせず、楽しめばいいさ……」
ワインの注がれたグラスを光にかざし、透かして楽しんでいるジオードが言う。
「楽しめば、ですか……」
あまり楽しそうではないユークの様子に、ジオードは不思議そうな顔をした。
「ふむ……そう言えば、さっき会ったときも何か考え込んでいたな。話してみろ。意外と、話すことで整理がつくかもしれんぞ?」
ジオードの言葉に、ユークはしばらく考え込んだあと、重い口を開いた。
◆◆◆
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ユーク(LV.20)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:高そうなお店だけどお金大丈夫かな……
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ジオード(LV.??)
性別:男
ジョブ:剣聖
スキル:??
備考:また無駄遣いするなとシリカに怒られる……
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
28
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
アポカリプスな時代はマイペースな俺に合っていたらしい
黒城白爵
ファンタジー
ーーある日、平穏な世界は終わった。
そうとしか表現できないほどに世界にモンスターという異物が溢れ返り、平穏かつ醜い世界は崩壊した。
そんな世界を自称凡人な男がマイペースに生きる、これはそんな話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる