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ユウマと動物たちの秘密の時間──「はじめての“にゃあ”」
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それは、春の雨上がりの午後だった。
宿り木の裏庭には雨粒がまだ残っていて、畑の土はしっとりと柔らかく、草木の香りが濃く漂っていた。
ユウマは三つになったばかりで、小さな手に父からもらった木のスコップを握りしめ、花壇のまわりで虫を探していた。
「……ぴしゃっ。……ぴしゃっ……」
雨どいから落ちる水の音に混じって、小さく震えるような声が聞こえた。
「にゃ……にゃあ……」
ユウマは顔を上げた。
その声は、庭の隅にある木箱の奥からだった。
慎重に近づくと、湿った布切れの下に、小さな黒いかたまりがうずくまっていた。
それは、やせこけた子猫だった。
黒い毛並みにぽつぽつと白が混じり、片方の耳が少し折れている。
目はまだあまり開いておらず、全身が震えていた。
「さむいの?」
ユウマがそうつぶやくと、胸の奥にふわりと、なにかやわらかいものが流れこんできた。
――こわい。さむい。おなか、へった。ひとり、こわい。
言葉ではなかった。でも、たしかに伝わってくる“想い”だった。
ユウマは戸惑いながらも、小さな手で子猫をそっと抱き上げ、古い薪小屋の隅に運んだ。
そこで干し草をかき集め、自分のスカーフを敷いて子猫を寝かせた。
「だいじょうぶ。こわくないよ。ここ、あったかいよ」
その声に、子猫はかすかに喉を鳴らした。ユウマは、その小さな“ゴロゴロ”の音が、とても嬉しかった。
それから毎日、ユウマはこっそり世話をした。
厨房からミルクをすくってきて、ほんの少しだけ分けてあげたり、布の切れ端で身体を拭いてあげたり。
そして、なにより――毎日話しかけた。
「きょうはおてんきだよ」「おとうさんがじゃがいもほってた」「おべんきょうはたのしいよ」
子猫は、言葉の意味はわからなくても、ユウマの声に安心したように寄り添ってきた。
やがて、ユウマはその子猫に名前をつけた。
「クロミ」
黒い毛と、ちょっと“ミ”のような模様がある額。それが理由だった。
クロミは日ごとに元気になり、数週間後には薪小屋の周りをぴょんぴょん跳ね回るほどになった。
けれど、ユウマが名前を呼ぶと、必ず駆け寄ってきて、小さな頭をすりつけてきた。
それはまるで、「わたしは、あなたのものだよ」と言っているようだった。
ある日、母ミーナが庭仕事をしていると、クロミがユウマのあとをちょこちょこ追いかけているのを見て言った。
「あら、その子……ユウマにべったりね。もう家族の一員かしら?」
ユウマは胸が温かくなるのを感じながら、小さくうなずいた。
「うん。クロミは、ぼくのともだち」
だがそのとき、ユウマは心の奥で感じていた。
クロミは「ともだち」ではあるけれど、ただの猫ではない。
言葉を超えた“想い”が、たしかに伝わる。
気持ちの揺れ、空気の違い、不安やよろこび――クロミの“心”が、ふとした瞬間に胸へ流れ込んでくる。
それは不思議な感覚だった。でも、なぜか自然で、こわくなかった。
そして、それがユウマにとっての“魔法”のはじまりだった。
クロミとの時間を通して、ユウマは少しずつ“感じ取る力”を深めていく。
その力はやがて、犬や鳥、森の獣たちにも届くようになり、
ユウマは気づかぬうちに、ミーム王国の人々から「動物と話せる子」として囁かれるようになるのだった。
宿り木の裏庭には雨粒がまだ残っていて、畑の土はしっとりと柔らかく、草木の香りが濃く漂っていた。
ユウマは三つになったばかりで、小さな手に父からもらった木のスコップを握りしめ、花壇のまわりで虫を探していた。
「……ぴしゃっ。……ぴしゃっ……」
雨どいから落ちる水の音に混じって、小さく震えるような声が聞こえた。
「にゃ……にゃあ……」
ユウマは顔を上げた。
その声は、庭の隅にある木箱の奥からだった。
慎重に近づくと、湿った布切れの下に、小さな黒いかたまりがうずくまっていた。
それは、やせこけた子猫だった。
黒い毛並みにぽつぽつと白が混じり、片方の耳が少し折れている。
目はまだあまり開いておらず、全身が震えていた。
「さむいの?」
ユウマがそうつぶやくと、胸の奥にふわりと、なにかやわらかいものが流れこんできた。
――こわい。さむい。おなか、へった。ひとり、こわい。
言葉ではなかった。でも、たしかに伝わってくる“想い”だった。
ユウマは戸惑いながらも、小さな手で子猫をそっと抱き上げ、古い薪小屋の隅に運んだ。
そこで干し草をかき集め、自分のスカーフを敷いて子猫を寝かせた。
「だいじょうぶ。こわくないよ。ここ、あったかいよ」
その声に、子猫はかすかに喉を鳴らした。ユウマは、その小さな“ゴロゴロ”の音が、とても嬉しかった。
それから毎日、ユウマはこっそり世話をした。
厨房からミルクをすくってきて、ほんの少しだけ分けてあげたり、布の切れ端で身体を拭いてあげたり。
そして、なにより――毎日話しかけた。
「きょうはおてんきだよ」「おとうさんがじゃがいもほってた」「おべんきょうはたのしいよ」
子猫は、言葉の意味はわからなくても、ユウマの声に安心したように寄り添ってきた。
やがて、ユウマはその子猫に名前をつけた。
「クロミ」
黒い毛と、ちょっと“ミ”のような模様がある額。それが理由だった。
クロミは日ごとに元気になり、数週間後には薪小屋の周りをぴょんぴょん跳ね回るほどになった。
けれど、ユウマが名前を呼ぶと、必ず駆け寄ってきて、小さな頭をすりつけてきた。
それはまるで、「わたしは、あなたのものだよ」と言っているようだった。
ある日、母ミーナが庭仕事をしていると、クロミがユウマのあとをちょこちょこ追いかけているのを見て言った。
「あら、その子……ユウマにべったりね。もう家族の一員かしら?」
ユウマは胸が温かくなるのを感じながら、小さくうなずいた。
「うん。クロミは、ぼくのともだち」
だがそのとき、ユウマは心の奥で感じていた。
クロミは「ともだち」ではあるけれど、ただの猫ではない。
言葉を超えた“想い”が、たしかに伝わる。
気持ちの揺れ、空気の違い、不安やよろこび――クロミの“心”が、ふとした瞬間に胸へ流れ込んでくる。
それは不思議な感覚だった。でも、なぜか自然で、こわくなかった。
そして、それがユウマにとっての“魔法”のはじまりだった。
クロミとの時間を通して、ユウマは少しずつ“感じ取る力”を深めていく。
その力はやがて、犬や鳥、森の獣たちにも届くようになり、
ユウマは気づかぬうちに、ミーム王国の人々から「動物と話せる子」として囁かれるようになるのだった。
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