異世界宿屋の小さな相談役

幽霊と動物たちの見守り日記──「ちいさな手伝い係、出動！」

　朝の陽が差し込む、宿り木の食堂。

　パンの香ばしい匂いと、スープの煮える湯気の中で、今日も「小さな手伝い係」たちが元気に動き出す。

「ユウマ、これ、おさらー！」

「はーい！　でも、まだちょっとぬれてるよぉ……」

　木の踏み台によじのぼったユウマが、ふきんで一生懸命お皿を拭いていると、すぐ隣ではトウマがフォークとスプーンを並べるのに悪戦苦闘している。

「うーん、こっちがフォークで……あれ？　スプーン逆？」

「トウマ、あっちのおさら、ゆれてるよ！」

「えっ、うわっ、バランスくずれ──」

　ガシャァン！

　見事に皿が滑って床に落ちた。破片は出なかったものの、大きな音に厨房がぴたりと止まる。

　と、その瞬間──

　天井の梁の上で浮かんでいた幽霊の騎士レオンが、ぴしっと空中で姿勢を正した。

「むっ、これは一大事……応急戦術か、包囲網か……いや、まずは掃除道具だな！」

「レオン、掃除道具は戦術じゃありませんわよ」

　と、隣でふわふわ浮かぶ元・錬金術師の幽霊マルグリットが呆れたように笑う。
　彼女はそのまま、ぴゅるると空気を巻き上げて、ほこりを一気に飛ばした。

「ふふ、手助けは風のように。見えぬ手こそ、気品の証ですわ」

　床に残った皿の水を拭こうと、今度は宿屋の飼い猫・クロミがスッと現れた。

「にゃ」

　器用に前足でふきんを引き寄せると、ユウマの足元にぽとんと落とす。

「わぁ、ありがとクロミ！」

　天井裏の梁では、ほかにも吟遊詩人の幽霊ノエルが三拍子のリズムで、トウマの足元に転がったスプーンを“音楽的に”誘導中。

「♪ すてーきなスプーンが、ころころり～ん、少年よ、取れ～それは運命の～♪」

「運命はそんなとこに落ちてないよ！」

　と、ツッコミながらもトウマは器用に拾い上げる。

　すると次の瞬間、厨房の奥でリスのリンリンがチチッと鳴きながら棚を指差した。

「あっ、スープのふた閉めてなかった！」

　今度は双子の息がぴたりと合って、ふたり同時に駆け寄る。
　ユウマが椅子を押さえ、トウマがよじ登って、スープ鍋のふたをちょこん。

「セーフッ！！」

　幽霊たちは天井で拍手。動物たちはしっぽを振って応援。

「いい連携だ！　かの戦場でもこれほど見事な支援はなかったな！」

「……それ、スープのふた閉めただけですけど？」

　こうして宿り木では、人も、幽霊も、動物も、みんながちょっとずつ手を貸し合いながら、今日もにぎやかで、温かい一日が始まっていくのだった。

　そして誰もが、心のどこかで思っている。


　――この双子がいる限り、この宿屋はきっと、今日も笑顔が絶えないだろうって。