異世界宿屋の小さな相談役

月森野菊

文字の大きさ
6 / 24

双子の5歳、宿り木に咲くお祝いの日

しおりを挟む

宿り木の朝は、特別だった。

台所から漂う甘い香り。
リビングに隠されたカラフルな布。
動物たちのソワソワする気配。

そう、今日は――
トウマとユウマ、双子の5歳の誕生日!

 

「起きてるかー?」

とアベルが部屋を覗くと、ふたりはすでにぱっちり目を覚ましていた。

「おとうさん! きょう、ぼくたち……」

「たんじょうび!」

顔を見合わせてにっこり笑う双子に、アベルはぐしゃぐしゃと髪を撫でた。

「よし、支度ができたら、下に降りろ。特別なお客さんたちが待ってるぞ」

 

特別なお客さん――それはもちろん、宿り木の幽霊たちと動物たちだった。

 

◆ 宿り木特製・誕生日パーティー!

食堂には、朝からにぎやかな準備が進められていた。

ミーナが焼いたふわふわのケーキ。
アベルがこっそり作ったお手製の木剣セット(もちろん丸く安全加工済み)。

 

壁には、幽霊の吟遊詩人エイリオットが浮かびながら楽譜を貼り付け、
幽霊錬金術師リュミエールが光るガーランドをふわふわ漂わせ、
バルノスは、慣れない手つきでリボンを天井の梁に結びつけていた。

「……ぬう、リボンというのは、剣より難しいな」

(それでも、顔はとても楽しそうだった)

 

動物たちも負けていない。

クロミ(気まぐれな飼い猫)は、プレゼント用のリボンを前足で押さえ、リンリン(おしゃべりなリス)は、クルミの実をせっせと並べて「くるみケーキ」もどきを作り、グル(無口な伝書バト)は小さなメッセージカードを運んで回っていた。
そして、チャロ(近くの農家の犬。お人好し)は――
小さな背中に布を巻かれ、なぜか「誕生日隊長」のタスキをかけられて、誇らしげに立っていた。

「わふっ!」

 

◆ いよいよ登場!

「いいか? 目、つむってな」

アベルに手を引かれ、双子はぎゅっと目を閉じて階段を降りる。

「いいぞ、開け!」

ぱちっ。

目を開いた瞬間――

「「おめでとうーーー!!」」

幽霊たち、動物たち、両親、みんなの声が、宿いっぱいに響いた。

 

「うわぁぁぁぁ!」

「きらきらしてるー!」

トウマもユウマも、驚きと喜びで目をまるくする。

 

リュミエールの光るガーランドがふわふわ舞い、エイリオットの奏でる賑やかな笛の音が空気を弾ませる。

チャロが誇らしげに「わふっ!」と一声吠えたあと、プレゼント隊クロミ&リンリンが、それぞれ贈り物を届けた。

クロミからは、小さな青い鈴(ユウマに)

リンリンからは、木の実のブレスレット(トウマに)

 

バルノスは、トウマの前に膝をつき、静かに手を差し出した。

手のひらには、透明な剣の形をした小さな護符。
それは、「月影の守り」の証――バルノスが、心を込めて作った贈り物だった。

「トウマよ。これは、そなたが未来に歩むときの、ささやかな道しるべだ」

トウマは、そっと両手で受け取った。

「ありがとう……!」

 

ミーナが切り分けたケーキを囲んで、双子は嬉しそうに頬張る。

頬にクリームをつけたユウマを見て、トウマが笑い、クロミがそれをちょいと前足で拭いて、また笑いが広がる。

 

宿り木の食堂は、今までにないくらいにぎやかで、あたたかかった。

人も、幽霊も、動物たちも、みんなみんな――心から、この日を祝っていた。

 

◆ 夜更けに。

双子が疲れて眠りについたあと。

ミーナとアベルは、静かにコップを重ねた。

「……大きくなったなあ」

「ええ。あっという間に」

 

屋根裏では、幽霊たちが酒盛り(もちろん、霊体だけで)をしながら、静かに子どもたちの成長を祝っていた。

バルノスも、そっと目を細める。

(この宿には、確かに未来がある)

 

そして、風に乗って、エイリオットの笛が、静かに優しく流れていく。

それは、まだ小さな二つの命を、これからも見守っていくための――
宿り木の、ささやかな誓いの音だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界リメイク日和〜おじいさん村で第二の人生はじめます〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
ファンタジー
壊れた椅子も、傷ついた心も。 手を動かせば、もう一度やり直せる。 ——おじいさん村で始まる、“優しさ”を紡ぐ異世界スローライフ。 不器用な鍛冶師と転生ヒロインが、手仕事で未来をリメイクしていく癒しの日々。 今日も風の吹く丘で、桜は“ここで生きていく”。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...