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双子の5歳、宿り木に咲くお祝いの日
しおりを挟む宿り木の朝は、特別だった。
台所から漂う甘い香り。
リビングに隠されたカラフルな布。
動物たちのソワソワする気配。
そう、今日は――
トウマとユウマ、双子の5歳の誕生日!
「起きてるかー?」
とアベルが部屋を覗くと、ふたりはすでにぱっちり目を覚ましていた。
「おとうさん! きょう、ぼくたち……」
「たんじょうび!」
顔を見合わせてにっこり笑う双子に、アベルはぐしゃぐしゃと髪を撫でた。
「よし、支度ができたら、下に降りろ。特別なお客さんたちが待ってるぞ」
特別なお客さん――それはもちろん、宿り木の幽霊たちと動物たちだった。
◆ 宿り木特製・誕生日パーティー!
食堂には、朝からにぎやかな準備が進められていた。
ミーナが焼いたふわふわのケーキ。
アベルがこっそり作ったお手製の木剣セット(もちろん丸く安全加工済み)。
壁には、幽霊の吟遊詩人エイリオットが浮かびながら楽譜を貼り付け、
幽霊錬金術師リュミエールが光るガーランドをふわふわ漂わせ、
バルノスは、慣れない手つきでリボンを天井の梁に結びつけていた。
「……ぬう、リボンというのは、剣より難しいな」
(それでも、顔はとても楽しそうだった)
動物たちも負けていない。
クロミ(気まぐれな飼い猫)は、プレゼント用のリボンを前足で押さえ、リンリン(おしゃべりなリス)は、クルミの実をせっせと並べて「くるみケーキ」もどきを作り、グル(無口な伝書バト)は小さなメッセージカードを運んで回っていた。
そして、チャロ(近くの農家の犬。お人好し)は――
小さな背中に布を巻かれ、なぜか「誕生日隊長」のタスキをかけられて、誇らしげに立っていた。
「わふっ!」
◆ いよいよ登場!
「いいか? 目、つむってな」
アベルに手を引かれ、双子はぎゅっと目を閉じて階段を降りる。
「いいぞ、開け!」
ぱちっ。
目を開いた瞬間――
「「おめでとうーーー!!」」
幽霊たち、動物たち、両親、みんなの声が、宿いっぱいに響いた。
「うわぁぁぁぁ!」
「きらきらしてるー!」
トウマもユウマも、驚きと喜びで目をまるくする。
リュミエールの光るガーランドがふわふわ舞い、エイリオットの奏でる賑やかな笛の音が空気を弾ませる。
チャロが誇らしげに「わふっ!」と一声吠えたあと、プレゼント隊クロミ&リンリンが、それぞれ贈り物を届けた。
クロミからは、小さな青い鈴(ユウマに)
リンリンからは、木の実のブレスレット(トウマに)
バルノスは、トウマの前に膝をつき、静かに手を差し出した。
手のひらには、透明な剣の形をした小さな護符。
それは、「月影の守り」の証――バルノスが、心を込めて作った贈り物だった。
「トウマよ。これは、そなたが未来に歩むときの、ささやかな道しるべだ」
トウマは、そっと両手で受け取った。
「ありがとう……!」
ミーナが切り分けたケーキを囲んで、双子は嬉しそうに頬張る。
頬にクリームをつけたユウマを見て、トウマが笑い、クロミがそれをちょいと前足で拭いて、また笑いが広がる。
宿り木の食堂は、今までにないくらいにぎやかで、あたたかかった。
人も、幽霊も、動物たちも、みんなみんな――心から、この日を祝っていた。
◆ 夜更けに。
双子が疲れて眠りについたあと。
ミーナとアベルは、静かにコップを重ねた。
「……大きくなったなあ」
「ええ。あっという間に」
屋根裏では、幽霊たちが酒盛り(もちろん、霊体だけで)をしながら、静かに子どもたちの成長を祝っていた。
バルノスも、そっと目を細める。
(この宿には、確かに未来がある)
そして、風に乗って、エイリオットの笛が、静かに優しく流れていく。
それは、まだ小さな二つの命を、これからも見守っていくための――
宿り木の、ささやかな誓いの音だった。
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