久しぶりに地元へ帰ったら、昔いじめてきた男に告白された

髙槻 壬黎

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新たな生活

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「広崎、」
「うわっ……!?」

 後ろから突然抱き締められて、畳んでいたタオルを落としそうになる。
 あれから一週間。俺は狭山が住んでいる、独り暮らしにしては広すぎるマンションへとやってきていた。

「おっと、危ない……」
「っ、急にこういうことするのやめろって言ってるだろ……!」
「だって広崎が俺の家にいんの、マジで嬉しくてさ。俺、ずっと夢の中にいるみたいなんだ。だからちゃんと触って、幻覚じゃないか確かめたくて……」

 言いながら、狭山が俺の耳をすりすりと触る。普段そんなところを人に触られることはないからか、とてもくすぐったい。
 しかも、その手つきがやけにいかがわしいせいで、そんな気分でもないのに妙な気分を起こしかける。

「ちょっ……と!」
「ん?」
「へっ、へんな触り方するのやめろ……!」
「変? 酷いな……俺は愛情持って広崎に接してるだけなのに」

 悲しそうに狭山が眉を下げる。
 でも、俺はもうこの手には乗らない。こいつは絶対分かってやっているんだ。
 だから無視して離れようとしたのに、狭山は関係なく耳の中にまで指をすり寄せてくる。

「ん……っ! お、おい狭山っ……!」
「あはは、ビクッてなった。気持ちよかった?」
「うっ、……ぁ、うる…っ、さ、ッ…あ…!」
「はあ……マジでかわいいな……」
「っん、んぅ……!」

 愛おしそうにこちらを見つめていた狭山が、突然俺の顎を引き寄せ、唇を合わせてきた。
 咄嗟に目の前のシャツを掴む。狭山の舌が俺の引き結んだ唇をつつき、問答無用で割り込んでくる。引っ込んだ俺の舌に狭山のものが絡み付いてきて、逃げ出す隙もない。耳をひたすら弄られる刺激と、貪られるようにしてかき回すそれのせいで、俺の脳はたちまち沸騰した。
 けれど、俺が本当に嫌がっていないと知っている狭山は、自分が満足するまで行為をやめない。それが酷く憎たらしいのに、こうして受け入れてしまう俺も俺だ。

「……ぁっ、はあっ、さ……狭山……」
「あーー、可愛すぎて、頭から丸ごと食っちゃいたい……」

 息を切らした俺に、不穏な言葉を狭山が呟く。背中をつぅーっと伝った彼の指が、俺の背筋を震わせる。
 しかし、狭山は最後にもう一度軽くキスをすると、名残惜しそうに俺から顔を離した。

「はあ……受け入れてくれるだけでも十分だと思ってたけど、やっぱり早く俺のこと好きになってほしいなあ。俺も無理やり先には進みたくないし」
「……ご、ごめん……」
「ああいや、謝ってほしい訳じゃないんだけど……」

 顔に手を当てた狭山は、落ち着かせるように深くため息をつく。
 俺達は付き合ってないけど、狭山はこうやってキスもしてくるし、時々軽く体も触ってくる。でも、それ以上には決して進まず、俺の気持ちが追い付くまで待ってくれているようだった。

 正直、そうやって考えてくれる狭山のことが有難い。
 当選だけど、こうやって触れられても嫌悪感がない時点でもう好きなんじゃないか、そう考えたことはいくらでもある。
 ただ、それは狭山が俺のことを好きだと言ってくれているからであって、例え別の人間にそう伝えられたとしても、俺はきっと好きになってしまう。
 でも、それって何か違う気がする。好きになってもらえたから、俺も好きですっていうのはおかしいと思うんだ。
 俺は、狭山がくれる想いに見合うような、ちゃんとした気持ちを返したい。
 どうすれば、彼のことを心の底から好きだと言えるのか、それが最近の俺の悩みなのであった。

「ごめん。俺も焦りすぎた。一緒に住んでくれてるだけでも感謝するべきなのに、抑えが効かないんだよな。……本当は触んないのが一番なんだろうけど、そんなもん無理だし……」
「お、俺も……ちゃんと…考えてる」
「……分かってるよ。その代わり、俺のこと好きだ! って思ったらすぐに言ってな? 広崎にしたいこと、たっ……くさんあるから」

 厭らしく目を細めて微笑む狭山に対して、何故だろう。俺の体がぶるりと寒気を覚えた。

「あ、寒い……? 温度下げすぎたかも」

 しかし狭山は、そう言ってエアコンのリモコンがある場所へと歩いていく。多分今のは狭山の言葉のせいだったけど、彼は全くもって、自分のせいだとは気づいていない様子だった。

「あ、狭山…! 大丈夫だ、俺は別に寒くない」
「そう? ならいいけど。……つか腹減った。広崎は?」
「俺も……言われてみればお腹空いたな……」
「何食べたい?」
「うーん……、何でもいいけど、肉よりは魚の気分……」
「広崎は和食派だからな。……えーっと、材料……、冷蔵庫何あったっけ………」

 狭山がぶつぶつと呟きながら、キッチンへ向かう。
 
 ちなみに料理は基本、狭山が作ってくれている。俺も簡単なものは何度か作ったことはあるけど、どう見ても狭山の方が上手だし味も美味しいから、最近は遠慮してしまっている。それに、狭山自身も自分の作った料理を食べてもらうのが嬉しいみたいだ。
 だから俺は、その代わりに掃除や洗濯などの他にできる家事をやるようにしていた。

 ようやく畳み終えたタオルを棚にしまった後、対面キッチンから見える狭山を横目に、俺はやたらと質の良いソファで座って待つ。
 既に日が落ち初め、夕日が差し込んでいるこの部屋は、俺が来る前は生活感のないモデルルームのような様相だった。 
 でもここ最近は、カーテンやテーブルを俺好みのものに一新したり、俺の私物がそこらじゅうにあるおかげで、大分人間らしい空間になったと思う。以前はあまり家に帰ってくることがないと言っていたから、きっと入居して以降、何も手をつけていなかったんだろう。
 なんだかそれが少し嬉しくもあり、気恥ずかしい感じもするのは何故なんだろうか。
 俺は鼻腔をくすぐる匂いに目を閉じていれば、いつの間にか意識は微睡みに溶け、そのまま軽い眠りについてしまったのであった。


 
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