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衝突
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「ごめんね、ユハ。今日は用事があって一緒に帰れないんだ」
放課後。
ミカイルが僕へ告げたのは、タルテ先生の予知通の言葉だった。
事前に身構えていたにも関わらず、思わず挙動不審な動きをしてしまいそうになり、慌てて取り繕う。
「っへえ……。それは残念だな。じゃあ僕は、先に帰ることにするよ」
「……本当は、寮まで送りたいんだけどね。ユハ、どこにも寄り道せず真っ直ぐ帰るんだよ」
「…するわけないだろ。ちゃんと部屋で待ってるから」
「うん。絶対だよ」
ミカイルの鋭い視線が僕を刺す。
もしやタルテ先生のところに行くのがバレているのではと思うほど強いそれに、僕は平常心を保つので精一杯だった。
教室の前でミカイルと別れ、一先ずは下駄箱を目指す。すぐに行っても良かったが、彼の瞳を思い出すと、なんとなくそうしない方が良いと思った。
それに僕が学園で一人になるのは稀だから、この時間を満喫したかったというのもある。別にミカイルのことが嫌いになったとか、そういう訳ではないが、四六時中一緒にいるため時々窮屈に感じてしまうのだ。
そのまま廊下を歩いていると、ふと後ろから大きな影が差して、それは僕の行く道を塞いだ。
振り返れば、その影の正体は眉間に皺を寄せ、しかめ面をしているジークだった。
編入当初のやり取り以降お互い全く顔を合わせていなかったのに、ミカイルがいなくなった途端これとは。相当我慢していたのかもしれない。
「ちょっとついてこい」
「……はあ?何で僕が」
「話があるんだよ。……いいからこい」
「悪いが僕は今から用事があるんだ。お前に付き合ってる時間はない」
「はっ……用事?それを俺が考慮してやるとでも思ったか?」
ジークは鼻で笑うと、僕を引きずるように首根っこを掴んで歩き出した。
「な、何するんだ!?離せっ!」
突然のことに抵抗が遅れ、足をもたつかせながらジークの腕を外そうともがく。
しかし僕の力だけでは全く離すことが出来なかった。ミカイルに対しても無理なのだから、それよりも筋肉質なジークになど到底敵うはずがなかったのだ。
それでも僕は諦めきれずじたばたと抵抗していれば、ジークが先に観念して手を離した。
「めんどくせえから暴れんな。そんなに嫌なら自分で歩いてついてこい」
「っだから、何で僕が行かないといけないんだ。話があるならここでしたらいいだろ」
「こんなに見られた状態で話が出来るかよ。……それとも、誰かが助けてくれんのを期待でもしてんのか?」
ジークが周りを見渡す様子に、僕もようやく周囲の人々がこちらを遠巻きに見ているのに気がつく。あの情けない姿を見られていたかと思うと、途端に恥ずかしくなり顔を俯けた。
ここで言い争っていても目立つだけだろう。それならば、さっさと話をしてタルテ先生の所へ行った方がいい。
「分かった。ついていくから、早く終わらせてくれよ」
僕が諦めたところを見てジークは無言で歩き出した。
まるで勝手についてこいとでも言わんばかりのその態度に僕はいらっとしながらも、じろじろと突き刺さる周囲の視線が気になって足早にその場を後にした。
連れて来られたのは東館の二階。
東館は一階の全フロアを図書室が占めており、二階以上になると音楽室や実験室といった特定の授業でのみ使用される教室が並んでいる。
そのため放課後のこの時間では、図書室はまだしも二階に行くような生徒はまずおらず、辺りは閑散とした空気に包まれていた。
ジークがある部屋の前に立ってその扉を開ける。
見上げるとそこには「美術室」と書かれているのが見えた。僕もまだ入ったことのない教室で、ジークは何の躊躇いもなく中へ入ると、僕を振り返って早く入れと顎で指し示す。
どうしてこいつはこうも僕を苛立たせるんだ。
内心不快に思いながら後に続く。
室内はキャンバスを立てる時に使うイーゼルが等間隔に置かれており、壁には学生が描いたと思われる絵が数枚飾られていた。
物珍しさに僕がキョロキョロと見回していると、面と向かったジークが険しい顔をしてこちらを見ているのに気がつく。
そういえば、ここに来たのは話を聞くためであった。我に返った僕はそっと気を引き締めてジークと相対した。
「それで、話って何なんだ?」
「単刀直入に言う。ミカイルから今すぐ離れろ。いい加減、目障りでしかたねえんだよ」
「────は?」
想像していなかった訳ではないが、思いの外直球で投げられた言葉に反論も出ない。
ジークは僕の様子を見ると、切れ長の瞳を更に鋭くして続ける。
「聞こえなかったならもう一度言ってやる。ミカイルに付きまとってこれ以上迷惑かけんのはやめろ。あいつがてめえと一緒にいんのはただ優しすぎる性格だからってだけで、本当はもううんざりしてんだよ。それなのに勘違いして、いつまでもミカイルに引っ付いてんじゃねえぞ」
心当たりのなさすぎる言葉の羅列に、僕は堰切ったように口から言葉が溢れ出た。
「は、な、何だって……?僕がいつ、ミカイルに迷惑をかけたんだ……?そんなこと、した覚えはない。それにそれを言うなら、いつも引っ付いてるのは僕じゃなくてあいつの方………」
「はっ……、本物の馬鹿みてえだな。そうやって、自分に都合のいいとこばっか見てる気か?ミカイルがいつまでもてめえのわがままに付き合ってやれると思うなよ」
「だから、何の話だよ!?僕には身に覚えはないって言ってるのに、お前は一体何を根拠にして、そんなことを言ってるんだ………!?」
「……っ!俺が直接聞いたからに決まってんだろ!さっきから訳わかんねえことばっか言いやがって……、てめえのそういうところが図々しくて嫌いなんだよ……!」
ガタンッと大きな音がして背中を思い切り扉にぶつける。どうやらジークに突き飛ばされたようで、当たった箇所がじんじんと痛い。
そのまま僕は逃げることもできず胸ぐらを掴まれると、怒りに染まった顔が目の前に迫ってくる。
「ミカイルの優しさにつけこんでよくもまあ、のこのこと姿を現せたもんだよなあ?小せえ頃からずっと付きまとって、挙げ句の果てにはてめえがミカイルに無理言ってこの学園に入ったのも知ってんだよ……!初めて会った時はその呑気さに反吐が出るかと思ったが、まさかここまで恥知らずな奴だったとは思わなかったぜ」
何だかあられもないことを言われたような気がする。が、そんなことよりもどこか聞覚えのある台詞にはっとした。
僕がずっと何かに引っ掛かっているような感じがしていたのは、これのせいだったのだ。思い当たることが無さすぎて記憶から薄れかけていたが、ジークは最初、僕のことを呑気な奴、恥知らずと罵っていた。
果たしてこれは、僕とミカイルの関係にただ嫉妬しているような者が言う言葉だろうか。
僕はハインツの話を聞いて、てっきりジークの怒りもそこにあるのだとおもっていたのだが、この言い方ではまるで、僕がこの学園に来る前に何か悪いことをしてしまったとでもいうような言い方ではないか……?
実際、ジークは僕がミカイルに頼み込んで学園に来たと思っている。
だがしかし、そんな事実はどこにもない。何故ならば僕は、ミカイルから提案され、悩んだ上でここに来たからだ。一度だってそんなこと頼んだ覚えもないし、無理やり言い聞かせたこともなかった。
ならば、誰がそんな馬鹿げたことを言いふらしたのか。それに、さっきからずっと話が噛み合っていないのも気になる。
誰かが意図的に僕の評判を落とすために、ありもしないことを吹聴しているとしか思えなかった。
「そんな事実は、万に一つもない。特待生のこともそうだが、一体誰が僕に対してそんなことを言ってるんだ?」
「………………」
その言葉を聞いたジークは、何も言わず力を強める。
僕はあまりの息苦しさに上を向いて顔を歪めるも、それが緩められることはなかった。
「誰が、だと?分かってて聞いてんのか……?」
「っ知らない!だから、教えてくれ……、」
「ッミカイル以外に誰がいんだよ……!」
「え、ミ…カ、イル?」
予想外の名前に目を大きく見開く。
「はっ、本当に知らなかったのかよ。いや、気づこうとしなかっただけか?」
「な、なんでミカイルが、そんなこと……、っそんなのは、ありえない……!」
「じゃあクラスの他の奴にでも聞いてみろ。全員知ってるぜ?まあ、てめえと話してくれるのなんざディーゼルぐらいしかいねえだろうがな」
「なっ………!」
ハインツも知っているのなら、僕が聞いたときに教えてくれるはずだと思った。
それなのに彼が言わなかったのは、単に知らなかったか、それとも僕に遠慮していたからなのか……。
どちらにせよ、確認はしなければならない。
けれども、先に聞くべきなのはミカイルの方だ。どうせ、ジークは僕のことが気に食わなくてそう言っているだけだろう。
ずっと一緒に過ごしてきたミカイルが僕を鬱陶しく思っていたなんて、到底信じることはできなかった。
「っハインツにも、もちろん、聞くが……ミカイルにもっ、確認…させてくれ……」
「おい、ミカイルの弱みを握ったからってそれで言うことを聞かす気じゃねえだろうな…?」
「そんなことっ、するわけ、ないだろ……!?お前のことだって、言うつもりは…ない、から……」
いまだ険しい顔つきのジークが投げ捨てるように僕を突き放した。
再び僕の体は扉にぶつかり、背中に鈍い痛みが走る。これはもしかしたら赤くなってしまっているかもしれない。
しかし、息苦しさから解放されたことに対する安堵の気持ちの方が大きかった。
「てめえのことは一ミリも信じちゃいねえが、ミカイルに確認してみろよ。すぐに自分のしたことの愚かさに気がつけるぜ。……ああでも、ミカイルは優しいから本当のことは言わねえかもな」
「けほっ、…………そうしたら、ハインツに聞くから大丈夫だ……」
「だったら早いとこ聞いて、さっさとこの学園から出ていけよ」
吐き捨てるようにジークは言うと、そのまま別の扉から出ていった。
ばんっ、と力強く開け放された音が耳に残る。
取り残された僕は、そのまましばらくそこから動くことができなかった。
放課後。
ミカイルが僕へ告げたのは、タルテ先生の予知通の言葉だった。
事前に身構えていたにも関わらず、思わず挙動不審な動きをしてしまいそうになり、慌てて取り繕う。
「っへえ……。それは残念だな。じゃあ僕は、先に帰ることにするよ」
「……本当は、寮まで送りたいんだけどね。ユハ、どこにも寄り道せず真っ直ぐ帰るんだよ」
「…するわけないだろ。ちゃんと部屋で待ってるから」
「うん。絶対だよ」
ミカイルの鋭い視線が僕を刺す。
もしやタルテ先生のところに行くのがバレているのではと思うほど強いそれに、僕は平常心を保つので精一杯だった。
教室の前でミカイルと別れ、一先ずは下駄箱を目指す。すぐに行っても良かったが、彼の瞳を思い出すと、なんとなくそうしない方が良いと思った。
それに僕が学園で一人になるのは稀だから、この時間を満喫したかったというのもある。別にミカイルのことが嫌いになったとか、そういう訳ではないが、四六時中一緒にいるため時々窮屈に感じてしまうのだ。
そのまま廊下を歩いていると、ふと後ろから大きな影が差して、それは僕の行く道を塞いだ。
振り返れば、その影の正体は眉間に皺を寄せ、しかめ面をしているジークだった。
編入当初のやり取り以降お互い全く顔を合わせていなかったのに、ミカイルがいなくなった途端これとは。相当我慢していたのかもしれない。
「ちょっとついてこい」
「……はあ?何で僕が」
「話があるんだよ。……いいからこい」
「悪いが僕は今から用事があるんだ。お前に付き合ってる時間はない」
「はっ……用事?それを俺が考慮してやるとでも思ったか?」
ジークは鼻で笑うと、僕を引きずるように首根っこを掴んで歩き出した。
「な、何するんだ!?離せっ!」
突然のことに抵抗が遅れ、足をもたつかせながらジークの腕を外そうともがく。
しかし僕の力だけでは全く離すことが出来なかった。ミカイルに対しても無理なのだから、それよりも筋肉質なジークになど到底敵うはずがなかったのだ。
それでも僕は諦めきれずじたばたと抵抗していれば、ジークが先に観念して手を離した。
「めんどくせえから暴れんな。そんなに嫌なら自分で歩いてついてこい」
「っだから、何で僕が行かないといけないんだ。話があるならここでしたらいいだろ」
「こんなに見られた状態で話が出来るかよ。……それとも、誰かが助けてくれんのを期待でもしてんのか?」
ジークが周りを見渡す様子に、僕もようやく周囲の人々がこちらを遠巻きに見ているのに気がつく。あの情けない姿を見られていたかと思うと、途端に恥ずかしくなり顔を俯けた。
ここで言い争っていても目立つだけだろう。それならば、さっさと話をしてタルテ先生の所へ行った方がいい。
「分かった。ついていくから、早く終わらせてくれよ」
僕が諦めたところを見てジークは無言で歩き出した。
まるで勝手についてこいとでも言わんばかりのその態度に僕はいらっとしながらも、じろじろと突き刺さる周囲の視線が気になって足早にその場を後にした。
連れて来られたのは東館の二階。
東館は一階の全フロアを図書室が占めており、二階以上になると音楽室や実験室といった特定の授業でのみ使用される教室が並んでいる。
そのため放課後のこの時間では、図書室はまだしも二階に行くような生徒はまずおらず、辺りは閑散とした空気に包まれていた。
ジークがある部屋の前に立ってその扉を開ける。
見上げるとそこには「美術室」と書かれているのが見えた。僕もまだ入ったことのない教室で、ジークは何の躊躇いもなく中へ入ると、僕を振り返って早く入れと顎で指し示す。
どうしてこいつはこうも僕を苛立たせるんだ。
内心不快に思いながら後に続く。
室内はキャンバスを立てる時に使うイーゼルが等間隔に置かれており、壁には学生が描いたと思われる絵が数枚飾られていた。
物珍しさに僕がキョロキョロと見回していると、面と向かったジークが険しい顔をしてこちらを見ているのに気がつく。
そういえば、ここに来たのは話を聞くためであった。我に返った僕はそっと気を引き締めてジークと相対した。
「それで、話って何なんだ?」
「単刀直入に言う。ミカイルから今すぐ離れろ。いい加減、目障りでしかたねえんだよ」
「────は?」
想像していなかった訳ではないが、思いの外直球で投げられた言葉に反論も出ない。
ジークは僕の様子を見ると、切れ長の瞳を更に鋭くして続ける。
「聞こえなかったならもう一度言ってやる。ミカイルに付きまとってこれ以上迷惑かけんのはやめろ。あいつがてめえと一緒にいんのはただ優しすぎる性格だからってだけで、本当はもううんざりしてんだよ。それなのに勘違いして、いつまでもミカイルに引っ付いてんじゃねえぞ」
心当たりのなさすぎる言葉の羅列に、僕は堰切ったように口から言葉が溢れ出た。
「は、な、何だって……?僕がいつ、ミカイルに迷惑をかけたんだ……?そんなこと、した覚えはない。それにそれを言うなら、いつも引っ付いてるのは僕じゃなくてあいつの方………」
「はっ……、本物の馬鹿みてえだな。そうやって、自分に都合のいいとこばっか見てる気か?ミカイルがいつまでもてめえのわがままに付き合ってやれると思うなよ」
「だから、何の話だよ!?僕には身に覚えはないって言ってるのに、お前は一体何を根拠にして、そんなことを言ってるんだ………!?」
「……っ!俺が直接聞いたからに決まってんだろ!さっきから訳わかんねえことばっか言いやがって……、てめえのそういうところが図々しくて嫌いなんだよ……!」
ガタンッと大きな音がして背中を思い切り扉にぶつける。どうやらジークに突き飛ばされたようで、当たった箇所がじんじんと痛い。
そのまま僕は逃げることもできず胸ぐらを掴まれると、怒りに染まった顔が目の前に迫ってくる。
「ミカイルの優しさにつけこんでよくもまあ、のこのこと姿を現せたもんだよなあ?小せえ頃からずっと付きまとって、挙げ句の果てにはてめえがミカイルに無理言ってこの学園に入ったのも知ってんだよ……!初めて会った時はその呑気さに反吐が出るかと思ったが、まさかここまで恥知らずな奴だったとは思わなかったぜ」
何だかあられもないことを言われたような気がする。が、そんなことよりもどこか聞覚えのある台詞にはっとした。
僕がずっと何かに引っ掛かっているような感じがしていたのは、これのせいだったのだ。思い当たることが無さすぎて記憶から薄れかけていたが、ジークは最初、僕のことを呑気な奴、恥知らずと罵っていた。
果たしてこれは、僕とミカイルの関係にただ嫉妬しているような者が言う言葉だろうか。
僕はハインツの話を聞いて、てっきりジークの怒りもそこにあるのだとおもっていたのだが、この言い方ではまるで、僕がこの学園に来る前に何か悪いことをしてしまったとでもいうような言い方ではないか……?
実際、ジークは僕がミカイルに頼み込んで学園に来たと思っている。
だがしかし、そんな事実はどこにもない。何故ならば僕は、ミカイルから提案され、悩んだ上でここに来たからだ。一度だってそんなこと頼んだ覚えもないし、無理やり言い聞かせたこともなかった。
ならば、誰がそんな馬鹿げたことを言いふらしたのか。それに、さっきからずっと話が噛み合っていないのも気になる。
誰かが意図的に僕の評判を落とすために、ありもしないことを吹聴しているとしか思えなかった。
「そんな事実は、万に一つもない。特待生のこともそうだが、一体誰が僕に対してそんなことを言ってるんだ?」
「………………」
その言葉を聞いたジークは、何も言わず力を強める。
僕はあまりの息苦しさに上を向いて顔を歪めるも、それが緩められることはなかった。
「誰が、だと?分かってて聞いてんのか……?」
「っ知らない!だから、教えてくれ……、」
「ッミカイル以外に誰がいんだよ……!」
「え、ミ…カ、イル?」
予想外の名前に目を大きく見開く。
「はっ、本当に知らなかったのかよ。いや、気づこうとしなかっただけか?」
「な、なんでミカイルが、そんなこと……、っそんなのは、ありえない……!」
「じゃあクラスの他の奴にでも聞いてみろ。全員知ってるぜ?まあ、てめえと話してくれるのなんざディーゼルぐらいしかいねえだろうがな」
「なっ………!」
ハインツも知っているのなら、僕が聞いたときに教えてくれるはずだと思った。
それなのに彼が言わなかったのは、単に知らなかったか、それとも僕に遠慮していたからなのか……。
どちらにせよ、確認はしなければならない。
けれども、先に聞くべきなのはミカイルの方だ。どうせ、ジークは僕のことが気に食わなくてそう言っているだけだろう。
ずっと一緒に過ごしてきたミカイルが僕を鬱陶しく思っていたなんて、到底信じることはできなかった。
「っハインツにも、もちろん、聞くが……ミカイルにもっ、確認…させてくれ……」
「おい、ミカイルの弱みを握ったからってそれで言うことを聞かす気じゃねえだろうな…?」
「そんなことっ、するわけ、ないだろ……!?お前のことだって、言うつもりは…ない、から……」
いまだ険しい顔つきのジークが投げ捨てるように僕を突き放した。
再び僕の体は扉にぶつかり、背中に鈍い痛みが走る。これはもしかしたら赤くなってしまっているかもしれない。
しかし、息苦しさから解放されたことに対する安堵の気持ちの方が大きかった。
「てめえのことは一ミリも信じちゃいねえが、ミカイルに確認してみろよ。すぐに自分のしたことの愚かさに気がつけるぜ。……ああでも、ミカイルは優しいから本当のことは言わねえかもな」
「けほっ、…………そうしたら、ハインツに聞くから大丈夫だ……」
「だったら早いとこ聞いて、さっさとこの学園から出ていけよ」
吐き捨てるようにジークは言うと、そのまま別の扉から出ていった。
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