魔法少女は華麗に舞い散る

Cecil

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過去を知っても、陽菜の心は変わらない

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話し終えた聖は、これがここあが西の魔法少女を恨んでいる理由よと、七海を殺したのはダークメアだけど、ここあは西の魔法少女が嵌めたと、そう思い込んでいるのと溜息を漏らす。
「聖さんは、どう思っているんですか? やっぱり西の魔法少女が七海さんを陥れたと思ってるんですか?」
「いいえ。西の魔法少女が関わってる可能性は否定出来ないけど、嵌めたとはそんな卑怯な手を使うとは思えないわ」
 西側とは歪み合ってはいるが、今まで不意打ちなどの汚い手を使ってきた事は、一度たりともない。
 だから、聖は西側が関わっているのだとしたら、西側の魔法少女が襲われてたのを七海が助けた。
 西側の魔法少女を逃して、一人で戦った可能性はあると考えている。

「どうして、そう思うんですか?」
「血痕よ。七海以外の血痕があったと話したわよね」
「はい。それが魔法少女のだと考えているんですか?」
「ええ。確証はないけど、もし普通の人間なら残酷だけど、身体の一部も残ってる筈なのよ」
 ダークメアに襲われて、捕食される。ダークメアが、綺麗に骨まで残さずに食べるのなら、血痕以外残らないが、奴らは綺麗に食事が出来ない。
 絶対に捕食した人間の身体の一部が残るのだ。
 しかし、七海が死んだ現場には死体の一部はなかった。
 聖は、襲われたのは魔法少女の可能性が高いと考えている。
 魔法少女なら、逃げ切れる可能性は遥かに高くなる。
 
「いくら七海が助けたとは言え、一般人ならあれだけの血痕を残す怪我をしていたのなら、逃げ切れる可能性は低いわ」
 現場に残されていたのは、殆どが七海の血痕だが、七海が倒れていた場所とは別の場所にも血痕はあった。
 それなりの量である。
 その事からも、命に関わる程度の怪我ではないにしても、自力で逃げるにはしんどい怪我だと予測していた。
「もし七海さんが助けたのが、魔法少女だとして、どちらの魔法少女なんでしょうか?」
 どちら側の魔法少女だとしても、言い出すのは難しいだろうと、聖は考えている。

東側なら、何故七海を助けなかったのかと、いくら七海が逃げろと言ったとしても、仲間を見捨てた事を糾弾されてしまう。
 特にここあが知ったら、それこそ大変な事になってしまうとわかっているから、言い出すのは難しい。
 西側なら、敵対してる東側の魔法少女に助けられたなんて、恥以外の何ものでもない。だから、言い出す事はないだろう。
「そう考えると、七海さんが助けたのは魔法少女なのか、一般人なのかわからないですね」
「ええ、どちらにしても七海が死んだ事には変わりはないわ」
 聖は、どちらにせよ七海が、命を賭してまで助けたのだから、その人には精一杯生きて欲しいと考えている。

陽菜も、その意見には強く同意した上で聖に、やっぱり私は今は協力すべきだと思いますと、自分の考えが変わらない事を正直に伝える。
 そうだろうとは、陽菜は多分考えを変えないだろうと思っていた。
 泣き虫で怖がりな女の子だとは、すぐに気付いたが、その中に七海と同じでこうと決めたら、それを貫こうとする強い意志を持ち合わせている雰囲気も、聖は感じていた。
「そう。多分そう言うとは思っていたわ。問題はここあね」
「聖さんは、私の考えに賛成してくれるんですか?」
「正直に言えば反対よ。認めたら、今までの全てを否定する事になるんだから」
 いくら生まれた時から、物心ついた時から西側との争いを強制されていたとは言え、自分の意思でも歪みあってきたのだ。

もし、ここで陽菜の言う事が正しいと言ってしまったら、今までしてきた事の意味を意義を失う事になってしまう。
 そうなったら、七海の死も西側との争いで傷ついて来た多くの仲間の頑張りも、全てが無駄になってしまう。
 そんな気がして、陽菜の意見を認めたくはない。
 認めたくはないのだが、七海もそれを望んでいたし、もしまた七海の様に犠牲者を出してしまったらと考えると、ダークメア退治が落ち着くまでは、陽菜の言う通りで西側と協力すべきだとも思う。

聖は、聖なりに考えて悩んでいた。
「聖さんや、ここあさんが否定しても、私は一度西側の魔法少女に会って、話しをしたいと考えています」
「朝比奈さん」
 もう何を言っても無駄だと思って、聖がわかったわと言おうとした瞬間に、ならうちを倒してから行くにゃと、怒りの形相で陽菜を睨んでいるここあが、扉の前に立っていた。

「ここあ」
「ここあさん、私は七海さんの意思を継ぎたいんです。七海さんも、協力した方がいいと言ってたって」
「確かに言ってたにゃ。でも、嵌められて死んだにゃ」
「証拠はあるんですか? 西側の魔法少女が七海さんを嵌めたって証拠が」
 証拠なんてある筈ない。
 現場に残されていたのは、倒れていた七海と七海以外の人物の血痕。
 その血痕も魔法少女の血痕なのか、一般人の血痕なのかもわからない。
 例え調べても、魔法少女も人間である以上は、明確な違いなどない。

「証拠もないのに、西側の魔法少女が嵌めたって決めつけるのは、私は間違いだと思います」
 震える身体を必死に押さえつけながら、陽菜はここあを見据えて、自分の考えをここあに伝える。
「私は、私は七海さんは西側に嵌められたなんて思いません。仮にそうだったとしても、七海さんは恨んでなんていないと思うし、ここあさんに復讐して欲しいなんて、絶対に思っていません」
「何がわかるにゃ! お前に七海の何がわかるって言うにゃ。七海の事を何も知らない癖に!」
 ここあは、今にも飛び掛かって陽菜を襲う勢いである。
 怒りが頂点に達しているここあに、陽菜は怯む事なく、七海さんは皆んなの幸せを願っていたんじゃないんですかと、だから最後に幸せだったって、後はお願いって自分の願いを託したんじゃないんですか! と臆病な陽菜が初めて、怒りを露わにした。

「煩い! 煩い! 煩い! お前には、やっぱり教育が必要にゃ!」
 ここあが陽菜に飛び掛かろうとした。その時に「私も、そこの可愛らしいお嬢さんの意見に賛成ね」と明里がここあを止めた。
「あ、明里さん?」
「どうして、明里さんがここにいるにゃ?」
 聖とここあの二人は、驚きから目を丸くしている。
 ここあは、驚きから怒りを忘れてしまったようだ。
 陽菜は、明里と呼ばれたお姉さんを見つめながら、この人が七海さんの恋人だった人なんだと、何て綺麗で大人の魅力溢れる女性なんだろうと、二人とは違う意味で明里を見つめていた。

「ここあちゃんは、相変わらず激情家さんなのね」
「そ、そんな事は……ないにゃ」
 明里に言われてしまうと、自分はそうなのかもしれないと、否定したいのに否定出来ない。
「それで、明里さんはどうしていらっしゃるんですか?」
 聖が、再度明里が此処にいる理由を尋ねる。
「緋さんから、新しい魔法少女が誕生したって、それでここあちゃんが凄く怒ってるから助けて下さいって言われてね」
 明里は、緋さんに迷惑掛けたら駄目よと言いながら、陽菜の前まで来て七海の恋人だった前島明里ですと、自己紹介をする。
「は、始めまして朝比奈陽菜です」
 陽菜もちゃんと自己紹介をして、明里に頭を下げる。

明里は、話しは聞かせて貰ったけどと、緋に事情を聞いていた事と、陽菜とここあが揉めていた場面を見ていた事を告げる。
「ここあちゃんの気持ちもわかるけど、私は陽菜ちゃんの意見に賛成よ」
「どうしてにゃ? 七海は西側の魔法少女に嵌められて」
「陽菜ちゃんも言ってたけど、証拠はあるの?」
 それはと、ここあは口を噤んでしまう。
「それに、もしそうだとしても七海が言わなかったのは、七海が相手を憎んでも恨んでもいないからよ。あの娘は仲間を同じ魔法少女を憎む娘じゃないわよ」
 恋人だった明里に言われてしまうと、ここあは何も言えない。

自分達以上に七海を知っている。
 自分達の知らない七海を知っている。
 そんな明里が、七海は西側の魔法少女を恨んでなんていないと、もし助けたのが西側の魔法少女だったとして、その魔法少女が助かったのなら、七海は喜んでいると、だから出来るのなら協力しなさいと、そして陽菜ちゃんとは揉めない様にと、結構きつめに言われてしまった。
「うちは、ただ七海が死んだのが悲しくて、認めたくなくて、今でも帰って来るんじゃないかって」
「ここあちゃん。その気持ちはわかるわ。私も、七海ならふらっと帰って来るんじゃないかって、でも七海は死んだの。悲しいけどお葬式もして、火葬もしたのよ。ここあちゃんもいたでしょ」
 
七海のお葬式にも火葬の場にも、そして納骨にも立ち会った。
 だから、七海はもう死んでしまったのだとわかってはいるのに、どうしても心がそれを許してくれない。
 七海が死んだのは、西側の魔法少女が七海を嵌めたんだって、そう思わないとここあはやり切れなかった。
 悲しみに、七海を助けられなかった悔しさに、自分の不甲斐なさに押し潰されてしまいそうで、だから西側に責任を転嫁した。

ここあの話しを聞いていた陽菜は、もし自分がここあの立場なら、同じ事を考えてしまっていたかもと、ここあの前に立つとごめんなさいと謝った。
「どうして、陽菜にゃんが謝るにゃ。陽菜にゃんのせいで、七海が死んだ訳じゃないのに」
「そうですけど、私はここあさんの気持ちを何も考えずに、ただ協力した方がいいって、その方が犠牲が少なくなるって、だからごめんなさい」
「うちも言い過ぎたにゃ」
「で、でもやっぱり私は、今は協力した方がいいと思います。落ち着いた後に歪み合うなら、私は関わりませんから」
 聖とここあの二人は、この娘は本当に七海と同じ事を言うんだなと、七海も同じ事を言っていたなと、七海の言葉を思い出す。

ここあは、今すぐには答えは出せないにゃと言うと、今日は疲れたから寝るにゃと言って部屋を出て行った。
 ここあが居なくなった後に、聖は陽菜と明里と今後について話し合っていた。
 緋は、話しは聞いてはいるが、明里同様に普通の人間なので、お嬢様達に任せますと聞き役に徹する。
 明里も普通の人間だが、聖達の為になるならと、アドバイスはくれる。

「先ずは、西側との接触の前に陽菜ちゃんがある程度の実力を身に付ける事が、私は大事だと思うわ」
 ダークメアを退治出来る程度の実力がなければ、向こうは話しも聞いてはくれないだろうと、そして陽菜自身の為にもダークメアと戦える力は必要だとアドバイスしてくれた。
「はい。私も、それは考えていました。私は昨日魔法少女になったばかりで、知識も実力もありませんから」
「うんうん。それにしても、その女神様とやらは、何者なんだろうね。普通の女の子だった陽菜ちゃんを、魔法少女にしちゃうんだから」
「わかりません。でも、女神様のお陰でわたしはこうして生きてますから、だからきっと悪い事は考えてないと思います」
 女神様が助けてくれなかったら、ダークメアに捕食された自分は、既にこの世に存在していない。
 
陽菜が、ダークメアに捕食されたと聞いて、緋と明里は辛そうな顔をする。
 明里は、ダークメアによって、最愛の恋人である七海を失った。
 緋もダークメアには因縁がある。
 陽菜以外は、事情を知ってはいるが緋本人が、陽菜に話すまでは誰も話す事はないだろう。
「捕食されて、でも今は生きてます。今は役には立ちませんけど、七海さんの代わりには程遠いですけど、私は明里さんや緋さんや大切な家族を守りたいです」
 本当に素直ないい娘ねと、明里は思わず陽菜を抱きしめてしまった。

抱きしめられた陽菜は、そのまま固まってしまった。
 両親以外に抱きしめられた経験なんて、皆無だったから、同じ女性とは言え緊張から固まってフリーズしてしまった。
「これじゃ話しは無理そうね」
「そうですね。明里さん、お話しは明日で宜しいですか?」
「大丈夫。それにしても、こんな事でフリーズするなんて、陽菜ちゃんって可愛い」
「明里さん。天国の七海に怒られますよ」
「大丈夫よ。別に取って食おうとか、処女を貰おうなんて考えてないし、今でも七海を愛してるしね」
 そう言いながらも、陽菜を気に入ったのか、明里は暫く陽菜を抱きしめていた。

陽菜にゃんの言う事は、きっと間違ってないにゃ。
 今は協力して犠牲を減らすのが、先決なのはわかってるにゃ。
 でも、どうしても認めたくない自分がいるにゃと、ここあは七海どうしたいいのかにゃ? と1人部屋で悩んでいた。
 普段は聖と同じ部屋だが、今日は陽菜がいるので、別の部屋で寝る事にした。

陽菜は、凄く良い女の子だとは思う。
 仲間になってくれて、良かったとも思ってる。
 でも、七海に似てる部分があるから、七海の様に居なくなってしまうのではないかと、ここあはその事が凄く不安で、今日は中々寝付けないにゃと、一人で天井を見つめながら七海を思い出していた。
 七海の優しい笑顔と、透き通った声を思いだしながら、いつの間に笑顔になっているここあだった。

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