魔法少女は華麗に舞い散る

Cecil

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莉絵の苦悩

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新たな力の波動を確かに感じた。
 最初は、魔法少女が新たな命を産んだのかとも思ったが、それは少しおかしい。
 産まれたばかりの赤ん坊でも、魔法少女なら魔力の波動は感じるが、微弱で弱々しい波動であり、赤ん坊の近くに居なければ感じる事は難しい。

今回感じた新たな魔力は、荒削りではあるが、それなりの魔力だ。
 赤ん坊では説明がつかない。
 普通の少女だった者が、何かしらの拍子に魔法少女として、目覚めたと考える方が辻褄があう。
 波動を感じた方向と距離からして、こちらではなく、どうやら東側のようだ。
 
聖とここあの二人が気付いてない筈はない。仲間に引き入れるだろう。
 もし聖達が魔法少女としての戦い方を教えれば、少々厄介だ。
「今のうちに消すか」
「あら、誰を消すのかしら? エリナは相変わらず物騒な事を言いますこと」
 美代子がエリナに抱きつきながら、誰を消すのかしら? と聞いている。
 美代子は、エリナが大好きな女の子。
 エリナが自分以外の女の子と、関係を持たない様にと、常に一緒に行動している。
 エリナから言わせれば、私はそんなヤリマンではないと、美代子だけなんだけどと言いたいらしい。

「イチャイチャしてる所を悪いんだけど、私も誰を消すのか知りたいんだけど」
 莉絵は、イチャイチャする二人に対して、場所位は選びなさいと言いたげである。
 三人が居るのは莉絵の部屋である。
 一番広いからと言う理由で、いつも三人は莉絵の部屋に集まっている。
 やきもちかしら? と美代子は、いくら莉絵ちゃんでも、エリナだけは駄目よとエリナをガードする。
 そんなつもりはないからと、莉絵は美代子を無視して、誰を消すの? ともしかしてこの前感じた新しい力の娘? とエリナに詰め寄る。

七海の件があって以来、莉絵は魔法少女が死ぬ事をなによりも嫌い、なによりも恐れている。
 そんな莉絵だからこそ、仲間が同じ魔法少女を殺そうとするのだけは、何があっても見過ごせない。
「莉絵は変わったよね。前までは、ダークメアだけじゃなくて、東の魔法少女を殺す事にも躊躇いがなかったのに」
「確かに莉絵ちゃんは変わりましたわね。一年位前から」
 七海の事は二人にも話していない。だから、二人は一年前から私が、東の魔法少女だとしても、絶対に殺さないし傷つけないからと、二人に話した事を今でも不思議がっている。

それもそうだろう。
 以前の私なら、東の魔法少女と言うだけで、私の大切な二人に敵対してると思い込んで、容姿などしなかった。
 もう許してと泣いて助けを求める魔法少女を、容赦なく痛めつけた。
 もしかしたら、勢いで殺してしまった事もあるかもしれない。
 だけど、七海さんの事があってからは、東だろうがなんだろうが、魔法少女にだけは絶対に手を出さないと、ダークメアとの戦いで苦戦しているのなら、東の娘であっても助ける。

実際莉絵は、正体を隠して何度も東の魔法少女を助けている。
 エリナと美代子にバレたら、かなり怒られるとわかっていても、助けずにはいられないのだ。
 七海が自分を助けてくれた様に、私も彼女の様に分け隔てなく助けたい。
 彼女の意思を継ぐと決めたのだ。
 二人には言えない。
 本当は、もう東との争いは止めて、協力しようと言いたい。

「エリナ、どうして東と争うの? 昔から疑問だったんだけど、同じ魔法少女なのに」
「本当に変わったね。昔はそんな事気にしてなかったでしょ? 言いたくないならいいけど、本当に何があったの?」
 エリナの質問に、今はダークメア退治を優先したいのだと、だから今は争ってる場合じゃないと思ってると、正直に伝える。
 莉絵だから許される発言である。
 他の魔法少女なら、有無も言わさずにお仕置きが待っていたのだが、莉絵はエリナと美代子の幼馴染であり、一つ下の妹の様な存在でもあるので、二人は莉絵を兎に角可愛がっている。
 そんな莉絵だから、二人は莉絵が変わってしまった理由を知りたいと、本音では思っているのだ。

「どうしてと言われてもね。私達が生まれた時には、既に争ってたし、それを親から引き継いだだけってのが、私としての理由かな」
「私もですわ。別に憎いとかじゃないんですよ。ただ、お母さん達も争ってたから、私もみたいな流れなんですよ」
 そんな軽いノリで争ってたの?
 以前の私ならふざけるなぁ! と怒っていたかもしれない。
 もっと崇高な理由があると思っていた。争う大義名分があるのだと、だから容姿なく東の魔法少女を痛めつけていたのに、ただ親から引き継いだからだなんて、莉絵は二人の話しに愕然としてしまう。

もし七海さんが生きていて、こんな理由で魔法少女同士が争ってるなんて知ったら、きっと悲しむ。
 東の魔法少女達が、私達と争う理由までは知らないけど、きっと似た様な理由なんだろう。
 ただ親も争ってたからなんて言う。本当にくだらなくてどうしようもない理由で、私達と争っているのだと思うと、莉絵は自分を助けて亡くなった七海に、何て報告すればいいの? と思い悩んでしまう。

エリナと美代子の二人に、争う理由を聞いて七海の墓前に報告しようと、だから莉絵は聞いたのだ。
 因みに七海の墓前については、自分で必死に調べた。
「そう言う莉絵は、今は抜きにして、どうして争ってたの?」
「大好きな二人の為。二人が傷付くのを見たくないから、だから前線に立って戦ってたの」
 莉絵は、二人が大好きだ。
 だから、二人の事に特にエリナの事になると、歯止めが効かない部分が以前はあった。
 幼馴染で、いつも自分を可愛がってくれる二人の大切なお姉ちゃん。
 二人が恋仲なのも知ってるから、どちらかが悲しい思いをしない為にと、身を挺して二人を守ってきたのだ。

「本当に莉絵は優しいな」
「ええ莉絵ちゃんは、可愛くて優しい妹ですわ」
 二人の言葉が嬉しい。
 二人が大好きだから、七海がいた東の魔法少女とは争って欲しくないのだ。
 どうしたら、素直に伝えられるのだろうか?
 七海の事を話してもいいが、きっと二人は愕然とするだろう。
 東の魔法少女が、西の魔法少女を助けたなんて話しても、きっと信じてくれないと思う。
 その思いもあったが、莉絵は先ずは東の魔法少女である聖とここあに、七海の事を謝ってから、二人に話したいと考えていた。

考えてはいるのだが、どうすれば穏便に聖とここあに接触出来るのか、その方法がわからなくて、実行には移せていない。
「エリナ、美代子。今だけは争いを止めて欲しい。ダークメアとの戦いが落ち着くまでは……駄目かな?」
 何とか争いを止めたい。
 その一心で、二人にお願いするが二人は簡単にはいかないと、此方がそのつもりでも向こうもそうとは限らないと、だから直ぐには無理だよと莉絵を諭す。
 予想はしていたが、やはり簡単に行く問題ではないようだ。
 いつから歪み合う様になったのかは、わからないが長年歪み合ってきた両者を、和解させるのは、簡単な事ではない。
 わかっていたが、莉絵としては何とかして争いを止めさせたい。
 休戦と言う形でも構わないから、争いを止めて、お互いを知る時間を作りたい。
 お互いを知れば、きっと二度と争う事はなくなる筈だから、それを教えてくれたのは七海だった。

僅かな時間しか触れ合ってない。
 会話も殆ど交わしてなどいないが、彼女は自分の姿で、その背中で莉絵に魔法少女が歪み合う事の愚かさを教えてくれた。
 二人に出掛けて来るから、ゆっくりしててねと、愛し合うのは勝手だけど、ちゃんと後始末はしてねと言うと、莉絵は部屋を出て行った。
「莉絵ちゃん。どうしたのかしら?」
「そうだねぇ~恋の悩みって訳ではなさそうだし、莉絵なりに考えがあるんでしょ」
 エリナは、うちらは莉絵が暴走しない様に、危険に遭わない様に見守ればいいと言うと、美代子を強く抱き締める。
「もう、此処は莉絵ちゃんの部屋ですよ」
「本人が後始末すればいいって、そう言ってたけど」
「本当にエリナは、我慢出来ないんだから」
「性分ですから」
 そう言うと、エリナにキスをしてから、ゆっくりと美代子の服を脱がせていった。

二人が愛し合ってる頃。莉絵は、七海の墓前を訪れていた。
 明里がいつも綺麗にしているのだろう。
 いつ来ても、本当に綺麗に掃除がされている。
 七海に明里と言う恋人が居た事を、七海が亡くなって、暫くしてから知った。
 謝りに行こうと、自分のせいで七海は死んだんだと、真実を伝えてごめんなさいと謝りたいのに、明里の辛そうな悲しそうな顔を見るのかと思うと、どうしても勇気が出なくて未だに謝りに行けていない。

「七海さん。私はどうすればいいですか? どうしたら、魔法少女が手を取りあえますか? どうしたら明里さんに謝れますか? 教えてください」
 本当なら、自分で考えて答えを出さなければいけないのだが、莉絵は答えを出せずにいる。
 身体は大人になってきたが、心は子供の部分が多い。
 魔法少女として、仲間が傷つく場面を何度も見てきてはいるが、魔法少女の死と直面したのは、後にも先にも七海一人だけだ。
 一年経った今でも、莉絵は七海の死を完全には受け入れられていない。

何度も自分のせいでと、悩んで沢山泣いて、それでも受け入れられなくて、正直魔法少女としての自信を失ってさえいた。
 七海が死ぬまでは、自分は強い魔法少女だと思っていた。
 だが、実際はダークメアとの戦いに苦戦して怪我をして、そして助けてくれた七海を死へと追いやってしまった。
 あれ以来、ずっと後悔している。
 いくら後悔しても、後悔しても自分を許せない。
 魔法少女として、自分の為に大怪我をした七海を置いて逃げた事が、七海を犠牲にした卑怯で、弱虫な自分がどうしても許せなくて、いつもこうして七海に会いに来てしまう。

此処に来れば、七海に会える気がして、何度も来ている。
「あら、七海のお友達?」
 その言葉に、ハッと我に還る。
 振り向いた先に居たのは、明里だった。
 考え事をしていて、明里が近づいて来る事に全く気が付かなかった。
「あ、あの……」
 そうですと、七海さんのお友達ですと言いたい。
 でも実際は違う。
 七海に命を救われた弱い魔法少女だ。
 明里に謝るのなら、今がチャンスなのに言葉が出てこない。

明里は穏やかな表情で、来てくれてありがとうと言ってくれる。
 七海さんを見殺しにした私は、ありがとうなんて言って貰える道理もない。
「七海と同い年位かしら?」
「ひ、一つ下になります」
「そうなの。七海とはどんな関係だったの? 学校のお友達かしら?」
「い、いえ、が、学校は違います」
 明里は莉絵を知らない。
 莉絵を助けて、七海が死んだ事を知らないので、莉絵に色々と質問をしてくる。
「お名前は?」
「愛川、愛川莉絵です」
「莉絵ちゃんか、可愛い名前ね。貴女は七海と同じ魔法少女かしら?」
 魔法少女と言うフレーズで、莉絵はもう隠し通せないと思ってしまった。
 明里が真実を知ってるとは思えないが、明里にだけは真実を伝えたい。
 だから勇気を出して、明里に真実を伝える事にした。
「あ、あの明里さん」
「あら、自己紹介したかしら?」
「調べたから、知ってるんです」
「調べたって、どう言う事?」
「七海さんが、死んだ後に私は、七海さんや七海さんの周りの人の事を調べました」
「貴女は何者なの?」
 明里は、莉絵と名乗った少女に一瞬恐怖を覚えた。

「真実を、七海さんが亡くなった日の事をお話ししたいと思います。本当は、もっと早くに話すべきだったのに、怖くて言えませんでした」
「莉絵ちゃんだっけ? ここはあれだから私の家に来て話してくれないかしら、誰も居ないし、聖ちゃん達も呼ばないから」
「わかりました」
 莉絵は、素直に明里について行く。
 例え聖達を呼ばれても、全てを話した結果聖達に拷問されても、自分は文句を言えない。
 七海を見殺しにしたのは、この私なのだから、だからどんな罰でも受けるつもりで、明里と共に七海の墓前を後にした。
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