魔女は微笑みながら涙する

Cecil

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地下室の幽霊さんがアドバイスをくれる

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もう何日経ったのか?
 昼夜の感覚がわからない地下室での生活で、沙霧と雫の二人は時間の間隔が既に無くなっていた。
 彼女達がするべき事はただ一つ。
 自らの魔力を高めて、葉月からの試練を乗り越える事。
 自分達で、それを望んだのだから弱音を吐く訳にはいかなかった。

少しずつだが、ホログラムとも戦える様にはなって来た。
 だがまだまだ勝利する事は出来ない。
 いつも最後にはボロボロになって、気を失って終了である。
 そんは自分達が、本当に情けないが弱音を吐く事はしない。
 サレンだって、乗り越えたんだからと、サレンは自分達よりも、もっと過酷な状況を乗り越えたのだからと、沙霧と雫の二人は必死に耐えていた。

サレンが帰って来るまでには、試練を乗り越えて成長していなければならない。
 そうじゃないと、一生サレンには会えないし、一生この地下室での生活になってしまう。
 そんな事は絶対に嫌だった。

「ねえ、お嬢。此処って何の為にあるのかな? やっぱり修行用? 」
「う~ん? それもあるかもだけど、確か昔は反逆罪とかで、囚われた魔女を幽閉してたって聞いた事あるけど」
「反逆罪って、月波の家に反抗したって事でいいの? 」
「それもあるけど、魔女を裏切って人間と共謀して、魔女を殺そうとしたとか、そう言うのだと思う」
「人間と? あんなに弱い人間と共謀しても意味ないよね? 」
 雫の疑問はもっともである。
 人間は、魔女には絶対に勝てない。
 だから、策を巡らせて魔女に近づき魔女を騙して、魔女をこの世から消してしまおうと考えたのだろう。
 当然そんな事が上手くいく訳もなく、人間は殺されて、協力した魔女は幽閉されて一生を地下牢で過ごした。

なら幽霊とかいるのかな? とそんな事を話しながら、二人は体力の回復を図っていた。
 時間の間隔がない以上は、いつ戦いが始まるかわからないので、少しでも体力を回復させないとと、まだ幼いのにそこはエリート魔女であった。

「幽霊ならいますよ。何度も視てますし」 
 とアナスタシアと依子が、食事を運んで来て幽霊ならいますよと、二人を脅す。
「じょ、冗談だよね? 」
 雫は真っ青な顔をしている。勝ち気な性格ではあるが、幽霊は苦手な女の子である。
「嘘は吐きませんよ。私も、雫のお母さんであるユエも視てますし」
「お母さんも視たの? 」
 急に母親の名前が出てきて、雫は前のめりになってしまう。
 最近は全く会えていない。
 自分達の事は、ユエにも話してると葉月様からは聞いていた。
 母親の反応は心配はしていたが、本人が望んだのならと、頑張りなさいとの事だった。

食事をしながら、沙霧と雫は此処にいると言う幽霊の話しを聞いていた。
 此処に現れるのは、反逆罪で幽閉された魔女ではなくて、身体が弱いためにずっと屋敷で過ごして一生を終えた魔女。
 沙霧達から何代も前の魔女である。

その魔女の名前は、沙霧と同じでサギリと言う名前の魔女だった。
 サギリは、生まれつき身体が弱く自分の魔力をコントロールする事が出来ずに、いつ暴走するかわからないと言う理由で、この地下室での生活を余儀なくされていた。
 幼い頃から、地下室での生活。
 偶に庭で花を愛でる事を許される。それが彼女にとっての、唯一の楽しみ。

そんなサギリを心配する心優しい魔女もいた。
 サギリの従姉妹にあたる女の子。
 名前は、ナースと言った。
 ナースは、サギリより二つ年上の魔女でこの屋敷のメイドして働く魔女。
 ナースだけが、いつもサギリを心配して、サギリに寄り添ってくれた。
 サギリがナースに恋心を抱くのは当然だった。

サギリは、どうせ自分は長くないとナースにお願いして、関係を持った。
 サギリの綺麗な裸体に、いけないと思いながらもナースは関係を持ってしまった。
 そこからは、毎晩の様にサギリから求められて、ナースは遂にサギリの子供を身籠もってしまった。
「ナースは、周りからかなり糾弾されたみたいです。サギリと関係を持ったことも、サギリの子供を身籠もってしまった事も」
 そして、ナースはサギリの近くに寄らない事を条件に、子供を産む事を許された。

サギリに最後の挨拶に来た。
「サギリ様。もう此処には来れません。この娘を産む為の条件ですので」
「そう。ナースありがとう。本当に、こんなわたしに優しくしてくれて、子供まで、私は幸せだったわ」
 最後に優しくナースにキスをした。
 それから、数日後にサギリは亡くなった。

ナースは、サギリとの子供を産むと、子供にいつもサギリとの思い出を話していたらしい。
「悲しいね。好きな人と居られないなんて」
「うん。私は、そんなのは嫌だな」
 二人は、サレンと会えなくなるのは嫌だと頑張るからと、アナスタシア達に決意を話す。
「そうですね。因みに、サギリとナースの子供は、沙霧様のご先祖様ですよ」
「そうなの?! 」
「ええ、サギリはこの月波家の本家の娘ですから」
 知らなかった。自分のご先祖様にそんな過去があったなんて、沙霧は此処にいると言うサギリの幽霊と会ってみたいと思った。

ホログラムとの戦いも終盤だ。
 もう少し、あと少しで倒せるのにどうしても倒せない。
 今日も倒せずに終わり、二人はもう少しなのにと、歯噛みしている。
「タイミングと、間合いが大切よ」
 いきなり聴こえて来た声に、二人は誰? と恐る恐る振り返る。
 そこには、半透明な綺麗な女性が微笑みを浮かべて立っていた。
「お、お嬢、もしかして」
 幽霊が苦手な雫は、恐る恐る沙霧にあれがサギリかな? と確認する。
 沙霧は、多分と言うと貴女がサギリさんですか? とその幽霊に問いかける。

私を知ってるの? とその幽霊は少し驚きながらも、貴女は私の子孫かしらと、そして貴女は分家の魔女かしら? と二人に優しく微笑む。
 その微笑みに、幽霊が苦手な雫も苦手なのを忘れて、そうですと答えていた。
「そう。ならこの程度の試練は乗り越えないとね。貴女のお友達は乗り越えたものね」
「サレンを知ってるんですか? 」
「ええ、あの娘はとても強かった。自らを追い込んで、乗り越えた。私の存在には気付いていたけど、邪魔はしませんって、暫く此処にいさせてくださいって」
 サレンもサギリの存在には気付いていたが、それが生きてる者ではないと、すぐに悟って邪魔はしませんと、見守ってくださいと話していた様だ。

「サレンさんも、そのサギリさんは視えてたんですか? 」
 一葉の質問に、サレンはええとでもサギリさんの話しは、今知ったとサレンも知らなかったと教えてくれる。
「話した事なかったっけ? 」
「ないわ。二人がどんな修行をしてたのかも、ハッキリとは知らないですわ」
 沙霧と雫の二人は、自分達の情けない姿を知られたくなくて、話してなかったと正直に答えた。

サギリは、間合いが先ず悪いと折角魔力が上がってきてるのに、倒せる程の攻撃を繰り出せているのに、間合いが悪くて致命傷になってないと、そして攻撃を仕掛けるタイミングも悪いと、あれではカウンターを喰らっても仕方ないと、二人に教えてくれた。
「間合いとタイミング」
「全然気付かなかった」
 二人は、サギリに指摘されて初めて自分達の攻撃が、相手に致命傷を与えられない理由に気付いた。

「良かったら、練習相手をしましょうか? 」
「いいんですか? 確か身体が弱いって」
「生前の話ですよ。今は幽霊ですから何の問題もありませんよ」
 と全力で来てもいいと、幾ら攻撃を受けても既に死んでるので、全く問題はないとサギリは、でも今の二人が自分に攻撃を一撃でも与えられるとは思わないと、沙霧と雫の二人を挑発する。
「お嬢。ここまで言われたら、やらない訳にはいかないよね」
「勿論よ」
 二人の魂に火がついた。

いつでもどうぞと、余裕綽々のサギリに二人は全力で立ち向かった。
「えっと、どうなったの? 」
「わ、わからない」
 全力で攻撃を仕掛けたのに、サギリの手が光ったかと思った瞬間に、二人は吹き飛ばされて意識を失っていた。
 目が覚めても、何が起きたのか全く理解出来ない。
「言った通りになりましたね。今の貴女達では、ホログラムは相手に出来ても、魔女を相手にしたら死にますよ」
 何も言い返せなかった。
 悔しいけど、実際サギリの攻撃を見る事すら出来なかった。
 
何が起きたのかも理解出来ていない。
 そんな自分達では、ホログラムは相手に出来ても葉月達との実戦では、一瞬で勝敗が決してしまう。
「強くなりたいですか? サレンに会いたいですか? 彼女は目的を達成して、今は捨てられた魔女達と生活をしてますよ」
 幽霊だからなのか、サレンの近況も理解してしているようだ。
「サレンは、そんなに経たずに捨てられた魔女達と、この屋敷に帰って来ます。それまでに強くなりたいですか? 」
 二人は何とか起き上がると、強くなりたいですと、サレンに会いたいですとサギリに力強く答える。

「なら私が鍛えてあげます。厳しいですよ。耐えられますか? 」
「耐えます! 」
「私も耐えて、サレンに会いたいです! 」
 二人が力強く答える。
 サギリは「宜しいですか? 」といつの間にか、その場にいた葉月達三人に確認を取る。
「宜しくお願いします。情けない子孫ですが、鍛えてあげてください」
 葉月が頭を下げる。
「サレンを見守ってくださりありがとうございました」
 依子とアナスタシアも頭を下げる。

サギリは、二人に向き直ると明日からは厳しい修行ですから、覚悟してくださいねと言うと笑顔で二人を抱きしめた。
 実体がないけど、二人はサギリの優しさと温かさを強く感じる事が出来た。
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