魔女は微笑みながら涙する

Cecil

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師匠は幽霊さん

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翌日からサギリによる厳しい修行が始まった。
 可愛らしい顔と穏やかな口調とは裏腹に、サギリの修行は鬼の様に厳しい。
 今までの修行が、遊びだったのではないかと思う程に、サギリの修行は想像を絶するほどに厳しくて、沙霧と雫の二人は半分もメニューをこなせない。
 その前に気絶して終了である。

想像以上の厳しさに、二人は根を上げそうになるが、そんな二人を支えていたのは、サギリのサレンに会いたいのでしょ? それとも一生此処で私と過ごしますか? の問いである。
 二人は、サレンに会いたいと立派になった姿をサレンに母親に見せたいと、必死にサギリの厳しい修行についていく。

サギリが二人にここまで、厳しい修行を課すのには理由がある。
 時間がないからである。
 サギリ自身が消えてしまうと言う事ではない。
 近い内にサレンが、捨てられた魔女達を連れて、屋敷に帰って来る。
 その事がわかっていたから、通常の修行では間に合わないと、二人にハードな修行を課しているのである。
 勿論サギリは、二人にはこの事を話してはいないし、二人も近い内にサレンが帰って来る事は知らない。
 知らないが、いつサレンが帰って来てもいい様に、帰って来た時に成長した自分達を見せられる様に、その事で頭が一杯だった。

「沙霧は、考え過ぎて行動が遅い! 雫はもっと考えて行動する。そうしないと、相手にチャンスを与えるだけよ! 」
「「はい! 」」
 二人はサギリの指示をこなせる様に、必死に考えて動くのだが、考え過ぎて上手くいかない。
 ここがサレンとの大きな差でもあった。
 サレンは、考えて行動するが考える時間は一瞬で、すぐに行動に移せる。
 しかし沙霧は考え過ぎて行動が遅く。雫は、考え過ぎると動けないので、つい考えずに突っ込んでしまう。
 そんなんでは、サギリに攻撃は与えられないし、カウンターを食らって、あっさりと気絶する。
 そんな事を繰り返していた。

「今日はここまでね。二人共少しは良くなったけど、今のままじゃ葉月達と戦っても一撃も与えられないわよ」
 ホログラムと戦うのはクリアした。
 だが、今の状態で葉月達と戦っても結果は見えていると、サギリが次の段階に試練の最終テストは早いと判断して、止めている。
「先生。どうすれば考えてすぐに行動に移れますか? 」
「私は、考えると行動出来ません」
 二人は、サギリの事を先生と呼んでいた。サギリは、二人の悩みに答えて行く。
「先ずは沙霧だけど、暫くは考えずに本能のままに行動してみなさい」
「でも、それじゃ」
「いいから明日からはやってみなさい」
「わかりました」
「次は雫ね。貴女は考えながら行動する。ゆっくりでいいから、考えて行動する事を癖づけなさい」
「はい。やってみます」
 それぞれで、攻撃も防御のスタイルも違う。
 沙霧は沙霧の雫は雫の攻撃や、防御のスタイルがある。

サギリは、それを一度壊そうと考えていた。
 葉月達から魔力を返して貰えば、間違いなくこの二人は強い。
 最強と言ってもいいだろう。
 しかし、それだけではどうにもならない相手がいる。
 こちらの動きを全て見透かしたかの様に、ひらりと簡単に交わしては、攻撃を的確に仕掛けてくる。そんな相手では、いくら魔力が強くても勝てはしない。
 今の二人にとっては、それがサレンである。
 サレンに少しでも追いつくには、一度自分が身につけたスタイルを、全てぶち壊して一から作り直す必要がある。
 だからこそ、サギリは敢えて二人のスタイルを否定して、最初からやり直しをさせているのだ。

サレンが戻って来るまで、もう時間は僅かしかない。
 正直間に合うのか?
 サギリにもわからないが、やるだけはやるしかない。
 出来るのなら、この愛らしい二人が自分の可愛い子孫が娘達が、この地下室で一生を終えるなんて、そんな悲しい結末にはさせたくはない。
 最悪自分が頼めば、葉月は沙霧達が元の生活をする事を許してくれるだろう。
 しかしそれでは、この娘達の為にはならない。
「ねえナース。私は間違ってないよね? 」
 勿論ですよサギリ様。
「そうよね。可愛い娘達の為で間違ってないよね? 」
 サギリ様は、相変わらず心配性ですね。昔から変わりませんね。
「仕方ないじゃない。貴女以外とは殆ど触れ合わなかったんだから」
 そうでした。でも私達の子孫ですよ。可愛い娘達ですよ。心配はいりません。
「そうね。ありがとうナース」
 今は亡き最愛の魔女。
 自分を肯定してくれた。
 たった一人の最愛の魔女。
 自分との娘を立派に育ててくれた。ナースのお陰で、こうして子孫に会える。
 最愛のナースの幻影にありがとうと、愛してるわと伝えると、サギリは眠っている二人を優しく見つめていた。

修行は佳境を迎えていた。
 サレンはあと十日もしないで帰って来ると、サギリはそろそろ葉月達に挑戦しましょうと、二人に今日からは葉月達と戦って貰いますと、二人に告げる。
 二人はわかりましたと、葉月達に向き直る。
 雫の母親であるユエも様子を見に来ていた。
 雫が心配なのもあるが、娘の頑張りをこの目で見たいと、葉月にお願いしたのだ。
 沙霧は葉月と雫は相性の悪い依子と戦う事になった。
 アナスタシアは、ユエと一緒に戦いを見守っている。

「沙霧。どれ程成長したか見せてみなさい」
「はい。お母様見てください」
「雫ちゃん。ちゃんと克服したかしら? 」
「まだですけど、全力で行きます」
 それぞれに向き合う。
 サギリの始めなさいの一言で、戦いは始まった。
 沙霧は、何も考えずに葉月に立ち向かっていく。
 考えれば、その分行動が遅くなる。その隙を葉月が見逃す筈はないと、何も考えずに全力でぶつかっていく。

雫は、考えながら相手の動きを注視する。
 今までなら、何も考えずに突っ込んでいたが、今は考えて行動する事が、少しずつだが身に付いていた。
「あら、雫ちゃん。攻撃してこないのかしら? ならこちらから行くわよ! 」
 考えが纏まらない内に、依子の容赦ない攻撃が幾重にも重なって、雫に襲い掛かる。
 攻撃を交わすだけで必死で、雫は何も考えられない。
「雫、しっかりと相手を見て考えなさい! 」
 サギリの言葉に頷くが、依子は雫に考える間を与えない。
「ほらほら、逃げてばかりじゃ倒せないわよ」
「あ~あ。年甲斐もなく燥いでるし」
「依子って昔からよね」
 アナスタシアとユエの二人が、依子って戦いになるといつもああよねと、変わらないわねと依子と雫の戦いを観ている。

「でも、ユエはいいの? 」
「何が? 」
「どう見ても、今の雫ちゃんには荷が重いしボロボロになるよ」
「それも覚悟の上で、あの娘は挑んでるでしょ? なら邪魔はしないわ。サレンちゃんに会いたいって、成長した姿を見せたいってあの娘言ってたんでしょ? 」
「ユエがいいならいいけど」
 アナスタシアの予想通りで、どんどん追い込まれていく雫。
 焦りから、無謀な攻撃をしてカウンターを喰らって、そのまま気絶してしまった。
「まだまだね。前よりはいいけど」
 依子の言葉にサギリは、ここまでねと雫を介抱してあげてと、依子に頼むと沙霧と葉月の戦いを注視する。

こちらも防戦一方である。
 元々の実力差に、経験の違いが大きく影響していた。
 妖との戦いも魔女との戦いも、葉月の方が遥かに経験している。
 ましてや、この時の沙霧には魔女との戦いは経験がなかった。
 知能のないと言われている妖なら、今の沙霧でも十分通用するし、全く問題はないのだが、魔女がそれも葉月が相手となるとそうはいかない。

何も考えずに挑んではいるが、攻撃はひらりひらりと交わされて、次の瞬間には葉月から攻撃が繰り出されている。
 どうすればいいの?
 沙霧はつい考えて行動してしまう。
 その為に、行動が防御が遅れて葉月の攻撃をモロに喰らってしまう。
「あがっ、ゲボッゲボッ」
「沙霧。貴女はなにを学んだのですか? 考えて防御が遅れていますよ」
「す、すいません」
「謝る前に、証明しなさい。変わったのだと」
 沙霧ははい! と答えると再び葉月に立ち向かって行ったところで、記憶が途切れていた。

気を失っている沙霧を介抱しながら、葉月はサギリに二人は間に合いますか? とサレンはそろそろ戻って来ると仰っていましたがと、サギリに問う。
「正直ギリギリですね。二人共ある程度は形にはなってますが、今のままでは厳しいでしょう」
「そうですか。本人次第と言う事ですね」
「一つ方法はありますが、とても危険な方法になります」
 その言葉に葉月達は、まさか? と顔を見合わせる。

サギリは、そうですと沙霧達の魔力を弄らせて貰えば、サギリが作り出した幻影に打ち勝てれば、この娘達は強くなると、しかし沙霧達が耐えられなければ、間違いなく廃人として生きる事になりますと、決めるのは沙霧達だが、葉月達の意見も聞かせてくださいと四人を見つめる。
「葉月様。さすがにあの方法は」
「私も禁断の魔術は危ないと思います」
 依子とアナスタシアの二人は、禁断の魔術を使う事を止める。
「ユエは、貴女はどう思う? 」
 葉月は、雫の母親のユエに意見を問う。
「私は、雫が望むのなら構いません。例え廃人になっても、愛する娘ですから」
 ユエの意見に、葉月は私もよと答える。

「なら構いませんね。本人達が目覚めたら確認を取ってから、行います」
 もう時間がないと、最終手段を使うしかないとサギリは、ハッキリと答えた。
 葉月とユエはわかりましたと答える。
 依子とアナスタシアは、どうか無事に成功します様にと祈る事しか出来ない。

沙霧と雫が目覚めると、サギリは時間がないと、だから禁断の魔術を貴女達に掛けますが構いませんね? と二人はに問う。
 二人はわかりましたと、サレンに会えるのならどんな事にも耐えますと、力強く頷く。
「魔術に打ち勝てなければ、貴女達は廃人になります。覚悟は出来てますか? 」
 再度確認したサギリに、二人は大丈夫ですと答える。
「わかりました。無事に帰って来てくださいね」
 そう言うとサギリは、二人の胸に手を当てる。
 サギリの手が添えられたと思った瞬間に、二人の意識は暗い闇の中へと堕ちて行った。

魂の抜けた人形の様になった二人を、葉月達が部屋へと運ぶ。
 勿論サギリもついて行く。
「サギリ様は、地下室以外にも移動出来たんですね」
 アナスタシアの言葉に、サギリは勿論ですわと答える。
 ベッドに寝かされた二人は、死んだかの様に殆ど鼓動を感じられない。
 二人が試練を乗り越えられなければ、一生このままである。

サギリ達は、どうか無事に乗り越えます様にと、ただ祈る事しか出来なかった。
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