53 / 297
第2弾 いつか王子様が
18Memory⑩(エイティーン・メモリー)
しおりを挟むキャスト控え室。
「……」
メラリーは廊下を歩いてきて、室内の話し声に立ち止まった。
「ジョーちゃんがどんなに的に立ってくれるパートナーを待ち焦がれていたか、気持ちは分かるわよ。でも、強要は駄目よ。それって犯罪よ」
ゴードンがジョーを宥める。
「分かってますよ。パートナーがいなきゃ出来ねえパフォーマンス、いくらマネキンで練習して完璧だって実戦で出来なきゃ意味ねえし、無駄だったよ――」
ジョーは投げやりな態度である。
「あれだけ練習してたんだから諦めるのは悔しいだろうけど」
ゴードンも無念そうな口振りだ。
「……」
しょんぼりとうなだれるジョー。
「……」
メラリーは自分が悪いことでもしたかのようにシュンとした。
トボトボと思案げに長い廊下を歩いてメラリーは練習場へ入った。
「……」
マネキンのフィラデルフィアを覆った布を捲り上げる。
「やっぱ、こわ――」
リアルマネキンは不気味だが、こわごわとマネキンの手に自分の手を重ねてみた。
「あ、フィラデルフィアのほうが俺より、手、小さい」
ピンポン玉はマネキンの細い指と指の間に潰れ気味に楕円になって挟まっている。
1cmズレても指に当たるほどの狭い幅だ。
「これで、指に当たらないんだ。スゴイ――」
改めてジョーの腕前に感心する。
マネキンの指からピンポン玉を抜き、自分の指に挟んでみる。
「……」
難しい顔をして、じいっと自分の手を見る。
「――ん――っ」
ようやく決意したように踵を返し、練習場を出るとメラリーは廊下を走った。
「はぁはぁ」
メラリーが息咳ってキャスト控え室の前まで来ると、
「ジョーさん?やっぱ、メラリーの奴、強硬に『ヤダッ』っすか?」
「そりゃ、新入りのメラリーの安いギャラでそんなことまでフツーやりたくないっすよ」
今度は室内からトムとフレディの声が聞こえてきた。
「なんだよ。ギャラ次第か?お前等だったら、いくらならやるんだよ?」
ジョーが2人に訊ねる。
「ん~、1ステージで10万ならいいっすかね?」
フレディはふっかけた金額を上げた。
「10万~~?」
ジョーは「ふざけんな」という顔をする。
「あ~、俺なら、弾、外して手に当たった時に罰金10万円でいいっすよ」
トムは乗り気である。
「えっ?マジ?――でも、お前が的に立ってもな~」
巨漢のトムを見て、顔をしかめるジョー。
「あ、駄目っすか?巻き毛のウィッグしてドレスも着ちゃいますけど~?」
トムはドレスの裾を摘まむようなポーズで可愛くクルンと回転してみせる。
「お前のサイズのドレスねえし」
ジョーはないないと手を振る。
「――あの~」
ドアのところで3人の会話を聞いていたメラリーが室内に入った。
「――俺、その罰金10万円くれるっていうの、1万円でもやってもいいかな~」
「――え――っ?」
驚き、目が輝き、勢い良く長椅子から立ち上がるジョー。
「マジ?俺、滅多に外さねえんだぜ。それでも、いいのかよっ?」
「……」
しばし眉間に皺を寄せて考えてから、こっくりと頷くメラリー。
「メ、メラリ~ィ~ッ」
ジョーはメラリーに駆け寄り、
「恩に着るっ」
ガシッと抱き締めた。
「う、ぐ、苦しいっすけど――」
暑苦しい男に温度差を感じるメラリーと、
「グスン、グスン」
感涙に咽びながら一方的に分厚い友情を感じるジョーであった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる