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第12弾 ショウほど素敵な商売はない
The opposite direction (反対方向)
しおりを挟む「う~ん、ハニーの心得というより――」
アンはチラッとリンダのほうへ目を向けて、
「手っ取り早くジョーちゃんの苦手な女のタイプを教えておいたほうがいいかしらね?」
そう提案した。
「そうねぇ」
リンダもそのほうが分かりやすいと頷く。
「ジョーさんはどんなタイプが苦手なんですか?」
パティがメモ帳とペンを構えて身を乗り出す。
(ジョーさんの苦手な女――)
クララは一言も聞き逃すまいと息を殺してアンとリンダの言葉を待った。
そして、それはクララをノックダウンさせるに充分なKOパンチだった。
「まず、生活感のある女ね。気を利かせたつもりでジョーちゃんの部屋の掃除でもしようとか、朝ご飯の支度でもしようとか絶対にダメね」
そもそもジョーはかなりの綺麗好きでキャスト宿舎の部屋はホテルのように生活感がなく片付いている。
「そう。なんでも、お祖母さん、お母さん、お姉さん、妹2人の女系家族の中で育ったせいで家庭的なことをされると実家にいるみたいでエロい気分がたちまち萎えちゃうんですって」
「ほら、マダムだってあれほどの色っぽいグラマー美女がジョーちゃんには年増呼ばわりされてお母さん扱いでしょ?」
「マダムみたいに梅干しなんか漬けたりするとジョーちゃんにとってはキャスト食堂のおばちゃんと同列になっちゃうのよ」
「家族的な親しみはあるけどエロ対象からは除外って訳ね」
そういうアンとリンダは小6の娘がいるシングルマザーだというのに、まったく子供の気配すら感じさせず生活感など皆無なのだ。
ジョーは聖母マリアのようなタイプが理想で母性的な女が好きなのだろうが、たしかに聖母マリアに生活感はないので矛盾はしていない。
「――」
クララは今まで自分が得意げに手料理アピールしてきたことを苦々しく思い起こした。
ピリ辛こんにゃく、ピーマンとじゃこ炒め、食パンの耳のオヤツ、芋餅、よりによって田舎のおばちゃんテイストの生活感が溢れるメニューばかりではないか。
ことごとく裏目だ。
自分はとっくにジョーのエロ対象ではなかったのだ。
「あ、わたし、家庭的じゃないことなら自信あります。家事はすべて家政婦さん任せなので自分のうちの冷蔵庫を開けたことすらありません」
パティは誇らしげに胸を張る。
「そうこなくっちゃ。あなたはホワワ~ンとして浮世離れしたところがあるからバッチリよ」
「ジョーちゃんがハニーに求めるのはエロとファンタジーなのよ」
「あなたはまだ未経験でエロさは未知数だけど、婚約者の医師のボストン留学中に男遊びしようというんだもの。その自由な心持ちがあればエロの能力も高そうだわ」
アンとリンダはハニーの素質が備わっているかのようにパティを絶賛した。
「じゃあ、わたし、ハニーに向いてるんですね」
パティは恥じらいつつもパアッと笑顔になる。
学校の勉強もバイトの仕事もダメダメなパティは目標とするハニーの大先輩から初めて認められたような感激なのだろう。
パティは熱心に『生活感&家庭的はNG』『エロ』『ファンタジー』などとメモを取りながら、
「あの、事前に準備しておくことはありますか?ええと、基礎体温のチェックとか?」
意外にも慎重に病院の娘らしいことを訊ねる。
「あ、何も心配ないわよ」
「ジョーちゃんはスケコマシの原則として避妊手術してるの。5年前くらいに泌尿器科の女医さんがハニーにいて勧められて手術したんですって」
「ジョーちゃんがタウンの看板スタァのガンマンで身体能力が凄くて身長188㎝のイケメンというのは別にしてモテモテな理由の一番がソレよ」
「そう、そう。妊娠する不安がなく遊べるって女にとっては何よりサイコーなのよね。べつにテクニッシャンとかじゃないから」
アンとリンダが身も蓋もないことをケロッと言って、本日のハニーのレクチャーはあっさり終了となった。
(――わたしとは正反対)
クララは最初から分かってはいたけど何でか今日はすんなりと腑に落ちた。
自分はジョーとはお互いに反対方向へ進む途中ですれ違っただけだったのかも知れない。
それだからクララはいつまでも、いつまでも、振り返り、振り返り、先へ進めなかったのだ。
(いい加減、前を向いて進まないと――)
クララはこれでようやく決心が付いたと思った。
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