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第12弾 ショウほど素敵な商売はない
From a dream to a dream (夢から夢まで)
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「――」
クララはパティ、アン、リンダとバックステージの建物のポーチで「おやすみなさい」と別れた後も一人ぼんやりと突っ立っていた。
6年もあてどなく彷徨っていた迷夢から醒めたばかりのせいかフワフワと落ち着かない気分だった。
(――そうだわ。気が変わらないうちにミーナに宣言しておこう)
クララはケータイを取り出した。
決心したというわりに自分の決心にそれほど自信が持てなかった。
ピッ。
驚くほどの速さでミーナが電話に出た。
『クララ、まだタウンなの?』
「これから帰るところよ。今、話せる?」
『だったら、うちに来て話さない?もうパパもカレンも寝ちゃったし。――それで、お願い。ツナマヨのおにぎり買ってきてっ』
ミーナはよほど腹ペコらしく切羽詰まった声で訴えた。
「ツナマヨ、ツナマヨ」
キャスト食堂の売店は清掃やメンテナンス作業で深夜勤のキャストのために夜間の品揃えも充実している。
「フライドポテト」
クララはミーナの注文どおりに夜食を買って、驫木家へと向かった。
そうこうして、
「ああ、美味しい。湯気の立ったご飯はニオイで無理だけど冷めたツナマヨのおにぎりなら食べられるの。つわりでも何故かフライドポテトは食べたくなるのよね」
ミーナは話より何より空腹を満たすことが先決とばかりにツナマヨのおにぎりとフライドポテトをモリモリと頬張っている。
「ミーナがつわりでご飯の支度が無理ならカレンちゃんのお昼のお弁当はどうしてるの?」
クララもついつい便乗してフライドポテトを摘まむ。
「パパが作ってくれてるわ。わたしより料理はずっと上手いし、パッパと手際がいいのよ」
なにしろロッキーは相当に長い独身生活があったので家事は万能なのだ。
「あ、そうそう、何か話があったんじゃない?」
ミーナはツナマヨのおにぎりを3個も食べて満腹になってからクララの顔を見て、何でクララが来たのか思い出したように訊ねた。
「えっと、今までミーナにも心配かけてきたけど――」
クララはようやくジョーの彼女になりたいという迷夢から醒めたことを打ち明けた。
「――へえ?何がきっかけで?そんな急にジョーさんを諦められたの?」
ミーナは意外そうな顔をする。
これまでミーナがさんざん「ジョーさんはスケコマシなのよ」「恋愛になんて興味ないヒトなのよ」と口を酸っぱくして言い聞かせてもクララには無駄だったというのに。
「う、ん。色んなことでよ」
クララは言葉を濁す。
ジョーのハニーのカンカンの踊り子のハイジニーナなどに恐れをなして降参したとはあまりに馬鹿げて恥ずかしいのでミーナにも言えやしない。
いや、言ってみたところで父親ほどの年齢差のオッサンと結婚してから今時のファッション事情に疎いミーナには「ハイジニーナって誰?」ととんちんかんな返答になるに違いない。
「じゃあ、アランに決まりよね?良かったわ。クララとアランの子供ならどっちに似ても可愛いもの。――あ、すぐに子作りしたら、わたしのお腹の子と同級生になるのよ?わたし達がママ友になったら子供の運動会とか遠足とか一緒で楽しいじゃない?」
ミーナはとたんにウキウキした口調で捲し立てる。
べつに、今、思い付いた訳ではなく、ミーナはアランとクララの仲を取り持とうと策略した時から気が早く子供のことまで考えていたのだ。
「子供?ママ友?」
クララはたちまち自分までウキウキしてきた。
たしかにアランと自分の子供ならどっちに似ても可愛いに決まっている。
ミーナには申し訳ないが、カレンがゴリラ顔のロッキーに似ずに美女のミーナに似て可愛いかったことはホントに運が良かったとしか思えないのだ。
だいたい女の子は父親に似るというのが定説なのだから。
「わたしの出産予定日は8月だから、クララが6月に結婚してすぐ妊娠しても子供が来年3月の早生まれでギリギリ同級生になれるかもなの」
ミーナは急かすようにクララの結婚出産までを計算する。
とにかく産まれてくる子供を同級生にしてママ友になりたいという身勝手な願望からだ。
「アランは結婚願望が強くて早くパパになりたいって公言しているんだもの。あとはクララの気持ち次第でしょ?」
ミーナはどうせならバレンタインのダブルダブルデートのクララの初体験でアランと出来ちゃった結婚して欲しいとまで願っていた。
「――そうねぇ」
クララは曖昧に答えて、改めて驫木家の広々としたリビングを見渡した。
家族向けのキャスト宿舎でウッディーな壁や天井がオシャレな造りになっている。
ミーナの手作りのキルトでソファーが飾られて、アメリカン・カントリーないかにも家庭的な雰囲気だ。
(わたしも自分の家庭を持ちたいかも――)
素敵にオシャレな家具やカーテンやキッチン用品を揃える楽しみでワクワクしてくる。
クララはタウンの正社員なので結婚して家族向けのキャスト宿舎を借りることも出来るのだ。
アランにはついさっきも「俺達は理想的な夫婦になろうね?」と言われたばかりではないか。
自分さえオッケーすれば簡単にトントン拍子に進む話なのだ。
(なんだか、結婚したいかも――)
ただ、ただ、可愛い子供が欲しいがために、素敵にオシャレなスイートホームを作りたいがために、クララはやにわに結婚というものに憧れてしまった。
クララはパティ、アン、リンダとバックステージの建物のポーチで「おやすみなさい」と別れた後も一人ぼんやりと突っ立っていた。
6年もあてどなく彷徨っていた迷夢から醒めたばかりのせいかフワフワと落ち着かない気分だった。
(――そうだわ。気が変わらないうちにミーナに宣言しておこう)
クララはケータイを取り出した。
決心したというわりに自分の決心にそれほど自信が持てなかった。
ピッ。
驚くほどの速さでミーナが電話に出た。
『クララ、まだタウンなの?』
「これから帰るところよ。今、話せる?」
『だったら、うちに来て話さない?もうパパもカレンも寝ちゃったし。――それで、お願い。ツナマヨのおにぎり買ってきてっ』
ミーナはよほど腹ペコらしく切羽詰まった声で訴えた。
「ツナマヨ、ツナマヨ」
キャスト食堂の売店は清掃やメンテナンス作業で深夜勤のキャストのために夜間の品揃えも充実している。
「フライドポテト」
クララはミーナの注文どおりに夜食を買って、驫木家へと向かった。
そうこうして、
「ああ、美味しい。湯気の立ったご飯はニオイで無理だけど冷めたツナマヨのおにぎりなら食べられるの。つわりでも何故かフライドポテトは食べたくなるのよね」
ミーナは話より何より空腹を満たすことが先決とばかりにツナマヨのおにぎりとフライドポテトをモリモリと頬張っている。
「ミーナがつわりでご飯の支度が無理ならカレンちゃんのお昼のお弁当はどうしてるの?」
クララもついつい便乗してフライドポテトを摘まむ。
「パパが作ってくれてるわ。わたしより料理はずっと上手いし、パッパと手際がいいのよ」
なにしろロッキーは相当に長い独身生活があったので家事は万能なのだ。
「あ、そうそう、何か話があったんじゃない?」
ミーナはツナマヨのおにぎりを3個も食べて満腹になってからクララの顔を見て、何でクララが来たのか思い出したように訊ねた。
「えっと、今までミーナにも心配かけてきたけど――」
クララはようやくジョーの彼女になりたいという迷夢から醒めたことを打ち明けた。
「――へえ?何がきっかけで?そんな急にジョーさんを諦められたの?」
ミーナは意外そうな顔をする。
これまでミーナがさんざん「ジョーさんはスケコマシなのよ」「恋愛になんて興味ないヒトなのよ」と口を酸っぱくして言い聞かせてもクララには無駄だったというのに。
「う、ん。色んなことでよ」
クララは言葉を濁す。
ジョーのハニーのカンカンの踊り子のハイジニーナなどに恐れをなして降参したとはあまりに馬鹿げて恥ずかしいのでミーナにも言えやしない。
いや、言ってみたところで父親ほどの年齢差のオッサンと結婚してから今時のファッション事情に疎いミーナには「ハイジニーナって誰?」ととんちんかんな返答になるに違いない。
「じゃあ、アランに決まりよね?良かったわ。クララとアランの子供ならどっちに似ても可愛いもの。――あ、すぐに子作りしたら、わたしのお腹の子と同級生になるのよ?わたし達がママ友になったら子供の運動会とか遠足とか一緒で楽しいじゃない?」
ミーナはとたんにウキウキした口調で捲し立てる。
べつに、今、思い付いた訳ではなく、ミーナはアランとクララの仲を取り持とうと策略した時から気が早く子供のことまで考えていたのだ。
「子供?ママ友?」
クララはたちまち自分までウキウキしてきた。
たしかにアランと自分の子供ならどっちに似ても可愛いに決まっている。
ミーナには申し訳ないが、カレンがゴリラ顔のロッキーに似ずに美女のミーナに似て可愛いかったことはホントに運が良かったとしか思えないのだ。
だいたい女の子は父親に似るというのが定説なのだから。
「わたしの出産予定日は8月だから、クララが6月に結婚してすぐ妊娠しても子供が来年3月の早生まれでギリギリ同級生になれるかもなの」
ミーナは急かすようにクララの結婚出産までを計算する。
とにかく産まれてくる子供を同級生にしてママ友になりたいという身勝手な願望からだ。
「アランは結婚願望が強くて早くパパになりたいって公言しているんだもの。あとはクララの気持ち次第でしょ?」
ミーナはどうせならバレンタインのダブルダブルデートのクララの初体験でアランと出来ちゃった結婚して欲しいとまで願っていた。
「――そうねぇ」
クララは曖昧に答えて、改めて驫木家の広々としたリビングを見渡した。
家族向けのキャスト宿舎でウッディーな壁や天井がオシャレな造りになっている。
ミーナの手作りのキルトでソファーが飾られて、アメリカン・カントリーないかにも家庭的な雰囲気だ。
(わたしも自分の家庭を持ちたいかも――)
素敵にオシャレな家具やカーテンやキッチン用品を揃える楽しみでワクワクしてくる。
クララはタウンの正社員なので結婚して家族向けのキャスト宿舎を借りることも出来るのだ。
アランにはついさっきも「俺達は理想的な夫婦になろうね?」と言われたばかりではないか。
自分さえオッケーすれば簡単にトントン拍子に進む話なのだ。
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