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第12弾 ショウほど素敵な商売はない
eat wiener sausage (ウインナーソーセージを食べる)
しおりを挟むその頃、
あちらこちらの騒々しさをよそにタウンのキャスト食堂は平穏だった。
ウインナーを焼いて、食べて、どうでもいい無駄話をする、それだけだった。
「んっ。パキッと皮が破れて肉汁がブシュッと溢れ出るっ」
ジョーは気付けば昼から何も食べてなかったので空きっ腹にやっと食べ物を詰め込んだ。
「さすが本物の腸詰め、手作りウインナー美味いっ」
ガツガツとホットドックを貪るジョーの顔には、この2週間の虚ろな日々が嘘のように精気が漲っている。
(何でか知りませんが、すっかりメラロスから回復したようですね)
太田はホッと安堵して、「どんどん焼きますから」とオーブントースターにウインナーを並べていると、
「わぁい、美味しそ~」
「ダンスでカロリー消費したから腹ペコだよ~」
シャワーを浴びてジャージに着替えたバミーとバーバラがキャスト食堂へ駆け込んできた。
「おや、アニタとケントは?」
「うん?アニタ、更衣室に来なかったよね?」
「廊下でまだケントと話してるのかな?」
まさかアニタが交際無期限休止をあっさり撤回してケントと真っ最中とは、誰も想像だにしてなかった。
「ねえ?ウインナーとソーセージ、どう違うの?」
「ソーセージのほうが太い?」
バミーとバーバラの素朴な疑問。
「ソーセージは腸詰め全般のことで、小さいのがウインナーソーセージで、大きいのがフランクフルトソーセージ、さらに大きいのがボロニアソーセージですね」
太田が答えているとジュジュッと脂を滴らせてウインナーが焼けてきた。
そこへ、
「あ~、脂っこいニオイ~」
「ビールのおつまみにピッタリのがあるじゃない~」
スーザンとチェルシーがそれぞれ両手にビールジョッキ4個ずつ持って千鳥足でやってきた。
「花火が終わったから戻ってきたのよ~」
「ちょうど良かった。ほら、みんなも飲んで、飲んで~」
2人はジョッキ8個をテーブルにドドーンと置く。
「俺はいーよ。明日もガンファイトだから」
ジョーは射撃の手元が狂うのでアルコールは飲まない。
「飲みたいのはやまやまですが車なので」
太田は飲酒運転などする訳がない。
「わたし達も車だから、どっちか1人しか飲めないね?」
「ん~」
バミーとバーバラはよだれを垂らさんばかりにビールをガン見する。
「ああ、いいからお前等みんな飲めよ。今日は俺の部屋に泊まっちゃえよ」
ジョーがざっくばらんに勧めると、
「いいんですか?じゃ、遠慮なく♪」
「わ~いっ♪」
「レッスンの後にビールなんてサイコー♪」
太田、バミーとバーバラは一斉にジョッキに手を伸ばした。
「あっ、でも、バッキーは安心だけど、スケコマシのジョーさんの部屋にお泊まり~?」
「や~ん、危険~」
バミーとバーバラは早くも酔いが回ってゲラゲラと馬鹿笑いする。
「誰がお前等にそんな気、起こすかよ」
ジョーは大口を開けてホットドックに貪り付く2人をしかめっ面で見た。
せっかく顔は可愛いのにバミーとバーバラは開けっぴろげ過ぎるのだ。
「ええ、俺もたとえバミーとバーバラが全裸で両側に寝ていたとしても何の気も起らない自信があります」
太田のよく分からない自信。
「え~、これでも21歳なんだけどっ?」
「どこがそんなエロっぽく見らんないの?」
バミーとバーバラは不満顔だ。
「お前等、四六時中、元気いっぱいで声がデカくて騒がしくてエロさを醸し出す間がねえんだよ。間が」
エロに関しては一家言あるジョーである。
「たしかに、わたし達、黙ってるのって着ぐるみの中だけだもんね?」
「たしかに、わたし達、家なき子の頃に男子キャストの部屋に泊めてもらっても何も起こらなかったもんね?」
2人は顔を見合わせて頷く。
「え?男子キャストとは?」
太田は聞き捨てならないと思った。
「うん。マークとハリーとか、トムとフレディとか」
マッチョのダンサーのマークとハリーは女のコに興味がない、というより、自分の筋肉にしか興味がないので問題なし。
それよりも、
「トムとフレディの部屋に泊まっていたんですか?」
太田が慎重に訊ねる。
「うん、週1くらい?トムのちゃんこ鍋をたらふくご馳走になって、猫のサカジャウィアやポカホンタスと遊んでるうちに眠たくなっちゃうから泊めてもらってた」
「朝までグースカ爆睡だよね」
バミーとバーバラはケロッと答える。
週1でお泊まりとは、それではトムとフレディがバミーとバーバラを自分達の彼女だと勘違いしても無理はない。
「それにしても、アニタ、どしたんだろ?」
「一緒に帰れないって言っとかないと」
いつもバミーとバーバラ、アニタはダンスのレッスンを終えると車で3人が居候中のマーサの山田家へ帰っていたのだ。
その矢先、
プルル♪
バミーとバーバラの兼用のケータイが鳴った。
「あ、アニタからだ」
「もしも~し、今どこ?」
『今ぁ?んふふ~、ケントの部屋~♪そういうことになっちゃったのぉ。お泊まりするから、わたしのこと待たないでいいからぁ。じゃね~♪』
アニタの声はデレデレと超ご機嫌だ。
あれからアニタとケントは興奮冷めやらぬままにキャスト宿舎のケントの部屋へ直行したらしい。
「まったく、数分でもアニタの心配などしたことが悔やまれてなりませんよ」
太田はいまいましげにブスッとフォークでウインナーを突き刺す。
「はぁ~、今頃、アニタはケントのソーセー……」
「ジョーさんっ、不謹慎な発言は控えて下さい」
みなまで言わせず太田がキッとジョーを睨んで窘める。
「ウインナー、こっちのチリペッパーのも焼くね~」
「こっちはレモン&バジルのウインナー」
色気より食い気のバミーとバーバラがウインナーの袋の手書きラベルを読む。
「――ん?この宇宙人の子供が描いた落書きみてえな字は、メラリーの字?」
ジョーが目ざとく気付いてウインナーの袋を手に取った。
「え、ええ。実はメラリーちゃんに貰った手作りウインナーです」
太田は正直にメラリーの居場所を明かすつもりで答える。
だが、
「ふうん、そっか」
ジョーは意外にも何も追究してこなかった。
些細なことでもすぐに追究してくる男が珍しい。
(メラリーちゃんを連れ戻すことは諦めたんでしょうか?)
太田は怪訝にジョーの表情を窺う。
「んっ、手作りチーズも美味い~」
パクパクと手作りチーズに齧り付くジョーの表情からは何も読み取れなかった。
一方、
同じ頃。
「グスン、グスン」
クララは嗚咽しながらホテルアラバハのロビーを出ていくところだった。
1時間も部屋で泣き続けたが、もう10時過ぎて早く家へ帰らねばと気付いたのだ。
「大丈夫ですか?タクシーをお呼びしましょうか?」
ドアマンがクララのただならぬ様子に声を掛けてきたが、
「グス、だっ、だび、じょ、ぶ、でず、ングッ」
クララは嗚咽しながら鼻声でやっと答えた。
とにかくタウンの送迎バスに乗ろうと駅前までフラフラと歩道を進んでいくと、
「あらっ?まあ、どうしたのっ?」
車道で信号待ちの車の中から聞き慣れた素っ頓狂な女の声がした。
見れば車も見慣れたサンサンパンの白いミニバンだ。
助手席の窓から顔を出したのは母、光恵で、運転席でハンドルを握っているのは父、日出男だった。
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