こちら百済菜市、武者小路 名探偵事務所

流々(るる)

文字の大きさ
11 / 42
第四謎:赤鬼の唄 IQ100(全四話)

おばあ様の宝物

しおりを挟む
 先輩に促されて僕が謎解きを始めた。

「えーっと……わざわざ何も関係のなさそうな『赤鬼の唄』と呼んでいたところに解くカギがあったんです」

 その先輩はと言うと左右をそっと見渡してポールがどこにいるのか警戒している。
 まったくもぉ。

「わかってしまえば単純で、赤鬼――あかをに、つまり唄のへ変換すれば……」

 ペンを持って直江さんの隣に立つ。
 テーブルにメモを置いて書き直して見せた。

 にのまるの にわ におうより にしにじゅう

「漢字に直すと分かりやすいでしょう。『二の丸の 庭 仁王より 西二十』というのが、この唄の本当の意味だと思います」
「まぁ。二の丸といったらこの辺りですよ」
 
 先輩があらかじめ用意してきた紙を広げると古地図が現れた。

「やはり、そうでしたか。調べてみたら直江家のお城が――」
「このお屋敷の辺りにあったことは知ってます」
「え、そうなの鈴木くん?」

 僕が口を挟むと、こちらを振り返る。動揺してるな。

「それじゃ、百済との交易は直江家が――」
「知っています」
「直江さまのおばあ様が犬好き――」
「もちろん、知っています」

 口を軽く開けたまま先輩は固まってしまった。

(わざわざ戻ってこれを調べて来たんですか?)
 小声で耳打ちをする。
(うん)
(それなら直江さんに直接聞けばよかったじゃないですか)
(ほら、元祖・耕助先生は、謎が解けるといったん事件現場を離れて裏付け調査をしてから戻って来るじゃない? あれをやってみたかったんだよ)
(そんなこと他のときにやってくださいよ。直江さん、謎が解けるのを楽しみにしていたじゃないですか!)
(ごめん……)
 しょんぼりしちゃって。ほんと子供みたいなところがあるんだから。

「仁王様もあるし、このお庭になにかあるってことかしら?」
「おそらく。早速確かめてみませんか」

 立ち直りも早い。
 ポールを連れて前庭へ出ると、仁王像の祠の前でスコップを持って先輩が立っていた。美咲さんと城之内さんに手を添えられて、直江さんもゆっくりと歩いてくる。

「このお屋敷は南北が軸となっていて、私たちが入ってきたあちらの門はほぼ真南にあります」

 大きな声を出しながら、先輩が左手で指し示す。

「門からお屋敷を見て右手、つまり東の方角に仁王像が立ち、石畳の方を見ています。と言うことは仁王像が向いているのは――」

 近づいて行った僕に答えを促した。

「西です」
「そう。つまり、この仁王像の正面から二十いったところに宝があるはずです」
「二十って何ですか?」
「単位をいれるとすぐに謎が解けてしまうと思い、おばあ様はあえて外したのだろう。作られた時代を考えればメートルではなく尺か寸か、あるいは」

 僕の問いかけに答えると、仁王像を背にした先輩がおもむろに歩き出す。
 石畳を越えて錦鯉がいる池との中間あたりで立ち止まった。

「二十歩だと思う。道具がなくても測れるからね。この辺りを掘らせて頂いてよろしいですか」
「ええ、もちろん。何が出てくるのかしら」
「それじゃ、鈴木くん。よろしく」

 そう言うと手に持っていたスコップを突き出した。

「僕が掘るんですか⁉」
「こういうのは助手の役目と決まってるじゃないか。それに私はスコップで土を掘ったことなんてないから」

 僕だってないよと思いながらも、先輩がうまく出来るのは珈琲を淹れることだけなのを知っていたので渋々引き受けた。
 ポールを城之内さんに預けてスコップを持つ。

「女性が埋めたのだからそんなに深くないはず。何が埋まっているか分からないから慎重にね」

 先輩のアドバイスにうなずいて、表面をすくうように掘っていく。
 芝生がめくれて土が見えてきた。

「歩幅は狭くしたけれど、もう少し手前かもしれないな」

 範囲を広げながら土をすくい取っていく。

「あっ、ポール!」

 城之内さんの元から走り寄ってきて、辺りの匂いを嗅いでいる。

「何か分かるかい?」
「バウッ」

 一声吠えると前脚を小刻みに動かし掘り始めた。
 手を止めて見守る。
 直江さんも美咲さんに付き添われて近づいてきた。
 先輩はポールを警戒しながらのぞき込む。

「あ、何か見えてきましたよ。ポール、待って」

 抑えるように手を出すと、掘るのを止めて後ずさりした。
 黄色い包みのようなものが見える。

「油紙に包んであるんじゃないかな。鈴木くん、取り出してみて」

 ポールの後を引き継いでそっと土をどけていく。どうやら約三十センチ四方の箱のようだ。側面の土を取りのぞき手を入れて持ち上げた。深さも十センチほどあるが思ったより軽い。

「本当に、あったのね……」

 直江さんがそっとつぶやいた。
 先輩に目をやると黙ってうなずいたので、僕はその宝物を直江さんに渡す。
 城之内さんが手伝いながら包みを開いていくと、所々さびた缶が現れた。

「昔はこんな缶にお煎餅を入れて売ってたのよ」

 懐かしそうに言いながら、ふたの周囲に貼ってあった紙を直江さんが剥がしていく。
 四角いふたを開けると、中には――。

「まぁ、おばあ様ったら……」

 缶の中には二十センチほどの枝、目の粗いブラシ、糸がほつれた毬、そして一枚の写真があった。
 色褪せた白黒の写真には女の子と一頭の犬が写っている。直江さんが裏を見ると、「イチといっしょに」と書かれていた。

「これっておばあ様がこっそり飼っていたという犬の写真じゃ……」
「ええ。きっとそうね。このイチという犬の思い出を宝物として、ここに隠したんだわ」

 優し気な笑みを浮かべ、直江さんは穏やかな視線をその写真にずっと注いでいた。
(ねぇ鈴木くん、飼っていた犬の話って?)
 先輩が小声で肘をつついてきた。
(後で説明しますから)

「バウバウッ」
「うひゃぁっ」

 油断していたのか、飛び上がるように驚いてしりもちをついている。

「もう、先輩ったら。ポールはお礼を言ってるんですよ」
「そ、そうなの?」

 座ったままの先輩の肩に前脚を乗せると、その右の頬をポールがざらりと舐め上げた。
 先輩の悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。



―第四謎:赤鬼の唄 終わり―
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...