姫プレイがやりたくてトップランカー辞めました!

椿原守

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68 俺の姫プレイとバトル開始

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 <土曜日 10:41>

「うぼぁ~……」

 まぶたが重い、浮腫むくんでる。

 深夜にラーメン食べて、その後寝た。
 寝ている途中で一度目が覚め、喉の渇きを覚えた俺はキッチンへ行き、水をがぶがぶ飲んでまた寝た。
 その結果、まぶたがパンパンになっている。

(ひとまず、顔を洗おう……)

 着替えを持って、洗面所へ向かう。
 洗面所の扉を開けると、かたい壁にぶつかった。

「いたっ!」
「……なんだ、チヒロ。お前も今起きたのか」

 かたい壁から声がする。
 見上げると、顔面エベレストがそこにいた。

「お前も……って、レンも?」
「……ああ、今起きた」

 俺はレンと入れ替わりに洗面所へ入ると、顔を洗う。歯を磨いて、ランニング用のジャージに着替えた。

「レン。俺ちょっと、家の周り走って来る」
「ああ」

 いつもより遅くなったが、週末のルーティンをこなす。
 俺は走りながら、レンに言われた『もしも』のことにを頭に浮かべた。
 雪森──コウヅキが、俺のことを性的な対象として見ているのは、家に入ったときの残り香でも明らかだ。
 あの目を思い出すと背筋がゾワッとするし、怖くないとは言えない。

「はっ、はっ、はっ」

 何度も、何度も考えてみた。
 それでもやっぱり、アイツと戦わないという答えは出ない。

(うん。やっぱ俺はアイツと戦う)

 レンの家に戻り、シャワーを浴びる。
 運動したおかげなのか、浮腫んだまぶたも少しスッキリした気がする。

 濡れた鏡の中にいる自分と顔を合わせる。

(……よし!!)

 両手で顔をパンッと挟んだ。
 ほどほどの怒りと、ほどよい冷静さを保ててる。

(俺は強い。俺は負けない……!)

 気合が入ったところで、お腹の虫が『くぅっ』と鳴いた。
 こういう締まらなさは、自分らしい。
 俺はぷはっと吹き出した。

 ***

 <土曜日 20:02>

 ヘッドギアとリストを装着し、俺はDFOへログインした。

 炎都の酒場で<暁>が揃う。
 俺が「行こう」と声をかけ、王都の闘技場に向かった。

 闘技場ロビーには、昨夜と同じくらい人が集まっている。
 どうやら7chに書き込みをした者がいたようだ。
 『兄妹対決だ』という声が聞こえた。

『でも、妹って職業は聖女だろ? 誰がリーダーやるんだ?』
『大鎌使いのマサト? アイツ以外に前衛やれるヤツいないんじゃね?』
『聖女、巫女、賢者じゃあ、回復渋滞じゃん。火力足りなさすぎ』
『兄が最強すぎる。兄妹対決って言ったって、勝負はもう決まったようなもんじゃん』
『チヒロさんが、かつてのチーム<暁>メンバーと戦うとか胸熱すぎる!』
『チヒロ対トモヤかぁ~! 超楽しみ!』


 闘技場受付でバトルの申請をする。
 NPCが「受け付けました」と返事をした。
 俺は試合が始まるまでの間、PvP用のスキルを見直し、セットを行う。

「「チヒロ~! 応援に来たよ~!」」

 ゲームプレイヤーが溢れかえるロビーに、レンと双子が現れた。

「「俺達の分まで、アイツをぶっ飛ばしてよね!」」
「おう! 任せろ!」
「チヒロ……戦うことにしたのか」
「まーな。やっぱ、逃げるのは俺の性にも合わないしな」

 スキルのセットが終わると、俺は天井に向かって、ぐっと両手を伸ばし背伸びした。
 もうそろそろ時間だ。<暁>のメンバーと一緒に、目の前に表示されたバトル会場移動ボタンを押す。

 俺はレン達に向けて拳を突き出した。

「お前ら、特等席で俺の活躍をちゃんと見とけよ~!」

 そう言うと、俺は転移した。
 周囲の風景が闘技場ロビーから、中央ステージへと変わる。

 ステージに現れた俺の姿を見て、ギャラリーがどよめく。

『ええっ!? 妹がリーダー!?』
『はぁ!? 聖女じゃ無理だろ!?』

 そんな声が至るところで噴きあがる。

 目の前のコウヅキは、目を細め、高揚した様子で俺を見つめてきた。

「はぁ……楽しみだなぁ……早く貴方に勝って、俺の願いごとを叶えたいよ」
「残念だったな。お前の願いとやらは、一生叶わない」

 コウヅキが背中の『深紅の大剣』を手に取り、構える。
 俺もまた『深紅の大剣』取り出し──構えた。

 観客席が一斉にザワつく。
 ギャラリーは空に浮かぶスクリーンを仰ぎ見た。

『妹の職業……戦士!? カンスト!?』
『えっ……深紅の大剣っ!?』

 スクリーンに映し出された俺のステータスに、驚きの声が上がる。

 闘技場の外周に、<暁>メンバーも<スノウ>メンバーも配置されたようだ。
 試合開始のカウントダウンが始まる。

『8……7……6……5……』
 
 俺はまぶたを閉じて、小さな鼻歌を歌う。
 このゲームのテーマソング。俺のいつものルーティン

『4……3……2……』

 右足のつま先をトントンと二回叩いて、ぐっと腰を落とす。

『……1……』

 目をゆっくり開いて、俺は敵をしっかりと見据えた。
 両手剣を持つ手に、力を込める。


 ──さぁ! バトル開始だ!!
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