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アフター
144 チヒロから side レン ☆
しおりを挟むこの男……前に会ったことがある。
カラオケ店にチヒロを迎えに行ったとき、アキラと一緒にいたヤツだ。
(全身黒ずくめの男が、チヒロを攫ったと言っていたな。そうかコイツか)
俺が黒ずくめの男の正体に気づいた頃、トモヤもチヒロの現状に気づく。
「……チ、ヒロ?」
目を見開き、俺に「どういうこと!?」と聞いてくるので、顎をしゃくって部屋の隅に転がっている物の存在を教えてやった。
──スタンガン。
170センチ超えた男をどうやって『攫った』のか、察しのついたトモヤは一瞬で怒りが頂点に達したらしい。アキラの方へ歩いていくと、アイツの頬を片手で掴む。
頬を掴まれたアキラは、顔に傷がつくと思ったのか、トモヤの手を叩き落とした。が、すぐ様に、脛を蹴られて、痛みのあまり膝をつく。それを見た黒ずくめの男──イオリが声を上げた。
チヒロはキレた俺達を静止しようと、言葉を発しようとしたが、それはすぐに途切れる。
「ちょっ、二人とも待っ……いッ!」
トモヤはチヒロの声にハッとして、アイツの元へと飛んでいった。
腫れた頬の状態を確認して、それから俺の方を見る。
「レン。ここは任せて。早くチヒロを連れて行って、手当してあげて」
「……しかし」
「ぶちのめしたい気持ちは分かるけど、ここで一番大事にしないといけないのは誰? そして、その権利があるのは誰だと思ってる? 僕に権利を譲ってくれるって言うなら、いつでも貰い受けるけど?」
「チッ……誰が譲るか」
相変わらず嫌なヤツだ。
アキラにもイオリにも、腹に一発入れてやりたいと思っていた俺を見抜いている。
この場合は、見抜いているというよりも、同じことを考えていると言った方が正しいのかもしれん。
だったら、それを実行するのは一人でいい、と。
チヒロをここから早く離して、手当てをしろ。
アイツの心を優先しろ、とトモヤはそう言っているんだ。
「…………ッ」
ぶつけどころを失った怒りを、ため息とともに吐き出す。
トモヤの言う通り、俺の大事なものは『チヒロ』だ。
顔を上げると、トモヤが俺の胸をポンッと叩く。
そして「行って」と言葉を放ってきた。
もちろん抜け目のないこの男は、「これは貸しだから」と釘をさすのも忘れない。
まったく……嫌なヤツだ。だが、一番信頼をおけるのだから、本当にまったくたちが悪い。
この場を離れようと、チヒロの肩を抱き寄せて歩き出す。
するとアキラが「チヒロ様!」と声を上げた。
(チッ! この期に及んで、まだ……!)
俺はアキラに向かって忠告する。
これ以上、チヒロに付きまとうのならば容赦はしないと、そう告げた。
「アキラ。言っておくが、次はない。万が一、電話一本、メッセージ一本、チヒロに寄こしてみろ。そのときは──覚悟しておけよ」
**
チヒロを連れて俺のマンションへ帰ってきた。
玄関を開け、先に部屋に入ろうとするチヒロを後ろから抱きしめる。
もう一度、コイツの無事を感じたくて、腕に力を込めた。
するとチヒロが大きな声で「イテッ」と言う。
スタンガンが当てられた脇腹は避けたつもりだったが──まさか、他にも……?
俺はチヒロの身体を正面に向けて、服を上にあげた。
すると胸の下、鳩尾の辺りにあざができている。
「……これは……どうした」
「あー……これも、ちょっと殴られて?」
「やはり、俺もアイツらに一発入れるべきだったか」
チヒロは「お前はやっちゃダメだろ」と言うが、物には限度がある。
かといって、今から戻る訳にもいかない。最優先すべきはチヒロ──お前だ。
俺は心の中でトモヤに一発とは言わずニ、三発かましてくれるようにと願う。
抜かりのない男だ。アイツならきっと実行してくれているだろう。
(顔やあざになってるところを……冷やすか)
チヒロの手を取り、廊下を歩いてリビングを目指す。
歩いてる途中でチヒロが俺の手を引っ張った。
どうしたのかと尋ねれば、「風呂に入りたい」のだと言う。
「なぁ、レン。一緒に入らねぇ?」
「……チヒロ?」
「俺、お前と一緒に入りたい」
(一緒に……?)
どうした? と口にしようとして止めた。
チヒロが眉を下げて、不器用な笑顔を浮かべていたから。
「わかった。俺は着替えを準備する。お前は先に入ってろ」
「……うん」
チヒロはすぐ横のドアを開けて、洗面所へと消えてた。
俺は自分のとアイツの着替えを持ってきて、それから浴室のドアを開ける。
ほんの数分の間。その間にチヒロはシャワーを浴びながら、手や足を一生懸命に擦っていた。
力いっぱい擦り上げているように見え、異常を感じる。
俺はシャワーを止めて、それからコイツの腕をそっと手に取った。
そこでチヒロはハッとして、こっちを見る。
「……レン」
「力入れ過ぎだバカ」
俺にそう言われて、チヒロは顔を歪ませる。
「……だって、綺麗になった気がしないんだ」
その言葉で思い出す。
アバターレイプ未遂のとき、コイツは舐められた首を擦り上げて、皮膚を真っ赤にしていた。
雪森のときも、チヒロは自分が汚れたと感じた部分を擦りまくっていたとトモヤから聞いた。
これで三度目。きっと今回も、手と足に何かしらされたのだろう。
あえてそこには触れずに、俺はチヒロの手からスポンジを取り上げた。
「だったら俺が洗ってやる。お前は座ってろ」
「……うん」
浴槽のヘリに腰を掛けたチヒロに跪くようにすると、俺は足を手に取り、たっぷりの泡で洗ってやる。そしてシャワーで洗い流して「どうだ?」と聞いてみた。
「……う、ん……なんか、まだ」
「そうか」
俺はもう一度、コイツの右足を手に取って持ち上げる。
そしてチヒロの顔をじっと見上げながら、親指に舌を這わせた。
「レ、レンッ……!」
「……上書きしてやる」
右親指を口の中に含んで、丹念に舐めた。親指と人差し指の間、それから人差し指へ。
ゆっくりとしゃぶり尽くして一度、足から口を離す。最後に足の甲にちゅっとキスをして、もう一度チヒロに問いかけた。
「……どうだ?」
「うん……うん」
足の汚れた感覚は消えたようだ、チヒロは「今度はこっち」と手を差し出す。
俺は差し出された手を両手で受け取り、その甲にキスをした。
それから、足と同じように丹念に指を舐めてやる。
「……ふっ……んッ」
チヒロが小さく喘ぐ。跪いている俺の目の前には、コイツのペニスがある。
緩く勃ち始めてたそれを見て、チヒロの身体と心はしっかりと繋がっていることが分かって、ほっとした。
「レン……んっ……」
チヒロが身をかがめてきて、俺にキスをした。
それをしっかりと受け止める。
トントンと舌先が唇をノックしてきた。
俺が口を開けると、チヒロの舌が侵入してくる。
浴室の中で、お互いの唇を貪る音が響く。
はぁ……と息を吐いて唇を離す。チヒロが腫れてないほうの頬を俺の顔にスリスリと擦りつけた。
「なぁ……レン……しよう?」
「チヒロ……?」
「このまま、したい」
「いや、お前……冷やした方が……」
「──いい。このままお前とセックスしたい」
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