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番外編
13 俺達の温泉旅行 06
しおりを挟むゴソリとなにかが動く気配がして俺は目が覚める。
部屋の中は暗い。ということはまだ夜だろう。
隣に寝ていた人物がむくっと身体を起こして立ち上がった。
どうやらチヒロが起きたようだ。
アイツはのそのそと歩いて消えたと思ったら、少しして戻ってきた。
多分、トイレか何かだったんだろう。
俺はそのまま、また眠りにつこうとして目を閉じる。
すると、胸の辺りにふわりと柔らかいものが当たった。
目を開けるとそれはチヒロの頭。
「……!?」
自分の布団と間違えて、こっちに入ってきたのか?
もぞもぞと動いたと思ったら、すーっと寝息が聞こえてきた。
「……おい。チヒロ」
小声で呼びかけるものの、返事はない。
完全に寝ている。
仕方がないので、俺が移動するか……と動こうとしたら、チヒロが抱き枕を抱きしめるように、手を足を動かしてきた。がっちりと絡まれて身動きが取れない。
力任せに引き剥がすことも可能ではあるが……さて、どうしようか。
チラッと一度、トモヤを見る。アイツが起きてくる気配はない。
ならば、この役得ともいえる時間を自ら終わらせるのは勿体ないだろう。
俺はチヒロの背に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。
いつもなにかと言えば、ギャーギャーと反発しかしないコイツが、大人しく抱きしめられているのは新鮮だ。
(……チヒロ)
風呂に入ったから、チヒロからふわりとシャンプーの香りがする。
その香りに吸い寄せられて、俺はコイツの髪に顔をうずめた。
「……ん~……」
チヒロがもぞっと動く。顔をすりすりと寄せてきて、あまりの可愛さに理性を手放したくなる。
(……今ここにアイツがいなければ)
いや、いても構うものか。
俺はそっとチヒロのアゴを摘まんで、クッと上にあげた。
そっとキスしようとして、チヒロが寝言をつぶやく。
「レンの……アホ……」
「…………」
(……コイツ、実は起きてるんじゃないのか?)
このタイミングで、なぜそれを言う。
はぁ~と大きなため息をつき、もう一度チヒロの身体を抱きしめた。
コイツの耳元に唇を寄せ。そっと囁く。
「チヒロ。俺は、…………」
何度も、何度も囁いて、そしてチヒロを抱きしめたまま、俺もそのまま寝てしまった。
***
「──チヒロ!! 起きて!!」
トモヤの声でビクッとなり、俺は目が覚めた。
突然の大声に驚いて、慌てて周りを見回す。
「な、なんだ!? どうした!? おわっ!?」
目の前に超絶美形の顔。
俺はレンに抱きしめられている。
「え? え? ええ??」
なんだ? 一体なにがあってこうなっている!?
身動きが取れない俺はモゾモゾと身体を動かすが、レンの腕はより強く抱きしめてきて、余計に動けなくなる。
背中にゾクリと悪寒が走った。
見えないけれど、なにか後ろに黒いものが立ちのぼっているのが分かる。
この気配は……魔……?
いやいや、ゲームの中じゃないんだし。
「全く……仕方ないヤツだよねぇ? チヒロもそう思うでしょ?」
トモヤはそう言うと、俺の身体を抱きしめているレンの腕をベリベリと剥がし始めた。
俺は身動きがとれるようになって、ようやくその拘束から抜け出す。
レンも俺達の声で目が覚めたのか、口を開いた。
「……なんだ……もう朝か」
「おはよう、レン。そして、どういう事なのか聞いてもいいかな?」
トモヤの笑顔の後ろに黒いモヤのようなものがユラユラと揺れている。
俺は目を擦ってみたが、それは消えることはなかった。……どうやら幻覚ではないらしい。
「どういう……とは?」
「なんで、君とチヒロが抱き合って寝ていたのかな?」
「ああ……それか。それなら、コイツが夜中にトイレにでも起きたみたいでな。戻って来たとき、俺の横に潜り込んで来たんだ」
「──はぁ!?」
記憶にない! そんなことはしてないぞ! と言いたいところだが、確かに俺はレンの布団にいたので否定もできない。
「だったら、チヒロを隣に転がせば良かったじゃないか」
「……一応、俺もコイツを起こしたぞ? そしたらコイツの方から抱きついてきて、俺が身動き取れなかったんだ」
「その話はどこまで本当なんだろうね? 君のことだから役得とばかりに、そのままにしてたんじゃないの?」
トモヤの額にピキピキと青筋が走る。
(こわっ……近寄らないでおこう……)
そう思って、そおっと布団の上を匍匐前進。
ふたりの間から抜け出そうとしたのに、俺の上に重いものが降ってきた。
「チヒロっ! 消毒っ!」
「どわっ!?」
トモヤが覆いかぶさってきて、俺は布団とトモヤの間でサンドイッチされる。
突然、のしかかられて俺はギブギブと布団をバンバン叩く。
「本当に油断も隙もない。そう思わない? チヒロ」
「トモヤ、お前の言ってることが分かんねぇ~! つーか、重いってぇ!」
「……油断ならないのはお前の方だろ。狼になろうとしてたのは、どこの誰だ?」
「はぁ!? どさくさ紛れに手を出してそうなヤツに言われたくないんですけど」
今度はレンがトモヤを引き剥がそうとして、ふたりの攻防が始まった。
背中にはトモヤの重みとレンの重みも時折加わって、俺は「ぐえっ」と声が出る。
「もう! ふたりとも退けー!!」
──こうして俺達の温泉旅行は幕を閉じた。
チェックアウトして旅館を去る際に、姉ちゃんに写真を送ってなかったことを思い出し、慌てて旅館のスタッフさんに三人並んだ写真を撮ってもらう。
それを送ったら、姉ちゃんが「トモヤ君って、美人さん!? そして、この俺様美形は誰!?」と鬼のようなメッセージと着信が寄せられた。
「うえぇ……面倒くせぇ……」
俺はそれを放置する。
少し時間を置いたら落ち着くだろうと、放っておくことにした。
すると後日、姉ちゃんが俺の家に突撃をかます。
そして俺は旅行での出来事を全て、洗いざらい吐くことになるのは言うまでもないのだった。
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