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番外編
19 俺の姫プレイと予言の書 05
しおりを挟むあのあと、数時間ほど経ってから、トモヤは目を覚ました。
キスのことを聞かれるかと思ったが、本当に夢だと思ったのか話題に出てこなくて、ほっとする。
トモヤは起き上がると、俺が作ったうどんを食べて、それから薬を飲んだ。
しばらくすると、薬が効いて、熱が下がったおかげのか、そこそこ動けるようになったらしい。
今のうちに帰ると言ってきかないので、熱が完全に下がっていた俺は、トモヤを家まで送ることにした。
ふたりともマスクを二重にして、人が少なそうな車両に乗る。
眼鏡をして、更にマスクで顔が半分隠れているにも関わらず、トモヤの色気は、周囲に駄々洩れだったようだ。
チラチラとこちらを見る目は、ずっとあるし、駅に降りたとき、明らかについてきたんじゃないかと思う怪しい人が何人もいた。俺は眉を寄せ、トモヤの耳元に顔を近づける。
「なんか……お前をつけようとしてるヤツが、いるかもしんない。駅からタクシーで移動しよう」
「チヒロ、ここまででいいよ? タクシーに乗っちゃえば、もう大丈夫だろうし……」
「嫌だね。絶対家までついていく」
「もう……チヒロは、こうって決めたら、ほんっとそこから意見変えないよね」
「そんなことねーだろ? いつもトモヤの意見聞いてるじゃん」
「そうだったかなぁ……? 聞いてたかなぁ?」
トモヤが、ふふっと笑う。
熱のせいで目元が赤いし、潤んでるから!
あーもう! だから、それダメなんだって!
トモヤの首にあるマフラーを奪い取って、それを顔にぐるぐると巻く。
それを見て俺は「よし!」とつぶやいた。
「……チヒロ? これだと前が見えないんだけど……なんで?」
「お前は、もうちょっと自分のこと知ったほうがいい」
「え、なに、そのセリフ。君だけには、言われたくない気がするんだけど」
「とにかく! 今のお前は、そうだな……歩く18禁だから、その顔ちょっと隠しとけ」
「待って!? 僕、なんかサラッと酷いこと言われてない!?」
俺はトモヤの手を握る。そして、前の見えないコイツの先頭に立って歩き始めた。
チラッと後ろを見ると、トモヤはマフラーの隙間を開けて、視界を確保していた。けれど、手を振りほどくことなく、俺に引っ張られるままに歩いていく。
改札を抜けて、駅前のロータリーについた。周囲をキョロキョロと見回して、タクシーが停まっている場所を探す。
「チヒロ。こっちだよ」
「おう」
トモヤは何度かタクシーを利用したことがあるのか、タクシー乗り場の場所を把握していた。
指さした方角へと足を向ける。
俺たちはタクシーに乗り込んで、トモヤのマンションへと向かった。無事乗ることができて、ほっと息をつく。
さすがに、あとをついてきた人も、タクシーで追いかけようと思わなかったようだ。後ろを振り返ってみたが、俺たちのあとに続くタクシーは見当たらなかった。
**
トモヤの住むマンションに到着。
玄関を開けて中に入る。
「なにか飲む?」と聞いてくるコイツに「いいから着替えて、布団へ行け」と言って、俺は上着を剥ぎ取った。言われた通りに着替えて、トモヤは布団に入る。
「ごめんね。チヒロ。送ってもらっちゃって……」
「だから、お互い様だって言ったろ? っていうか、あのまま、うちで寝てても良かったのに」
「そういうわけには、いかないよ。チヒロの布団占拠しちゃうことになっちゃうし、明日は仕事なんでしょ? 君に迷惑かけちゃう」
ほら、また俺のことを気遣ってる。
あのさぁ……。
「病気のときくらい、自分のことだけ優先すればいいだろ」
「優先したよ? それはもう自己中ってくらい」
「……どこがだよ」
「周りの人よりチヒロのことを優先した。もう自己中も自己中」
「ひとりで納得すんな。俺に分かるように言って」
トモヤは、ふふっと笑って誤魔化す。
それから「あー幸せだなぁ」と言い出した。
「体調悪いときに、誰かがそばにいるって……なんか、いいね」
「あー……わかる。ひとり暮らしだと、ちょっと寂しさを感じる瞬間だよな」
「チヒロ。自分のこと……ちょっとだけ優先してもいい?」
「んー? なんだよ」
「……もう少しだけ、ここにいてくれる?」
「言われなくても、そのつもり」
ニッと笑う俺の顔を見て、トモヤは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。そして、また、ふふっと笑う。
「チヒロのお姉さんって……すごいなぁ」
「ん? 姉貴? 姉貴がどうかしたのか?」
「お姉さんのパワーに感謝してるとこ」
「?? あっ、もしかして、姉貴から預かった荷物のこと? 中を見たのか?」
「うん。全部読んだ。そのあと、調べて分かったけど……お姉さん、界隈の一部で『予言様』って言われてるみたいだね」
「予言……様? なんだそりゃ?」
話の続きを聞きたかったけど、トモヤはそのまま寝落ちした。
すぅと寝息が聞こえてくる。
……病人だし、寝れるなら寝た方がいい。
それは分かる。分かるんだけど……このタイミングかよ。
「トモヤ……そこで寝るのかよぉ!?」
俺はモヤモヤを抱えたまま、親友の顔を見る。
艶のある瞳は、しばらく開かれることはなかったのだった。
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