60年生きてきて、何があったかというと何もない。

夢枕①

　東京の大学に進んだ。18から一人暮らし。東京で暮らすのは２度目になるが、一人暮らしは初めてである。風呂なし・共同トイレ・電灯は天井から鎖でぶら下がっている細長い蛍光管が２本（何故か、かなり印象に残っている）、６畳一間のボロアパートの２階の角の一部屋を借りた。大家さんは隣の一軒家に住むおばあちゃんだった。
　初日に大家のおばあちゃんと顔合わせをした。
「共同トイレの掃除は当番制で、月に２回ほど廻ってくるけど、あなた気に言ったから免除してあげるわ」
（何だ？それ？）
「あー・・ありがとうございます」

　他の住民はそんなことなど知らない。１週間ほど経った日、トイレ掃除の当番札がドアのノブに掛かっていた。仕方なく？トイレ掃除を始めると、斜め向かいの部屋を借りている間違いなく水商売の派手なお姉さんがトイレに入ってきて、
「男がトイレ掃除なんかするもんじゃねーよ。札が廻ってきたら、あたしの部屋のノブに掛けときな！」
「あー・・ありがとうございます」

　これが、江戸っ子ってやつですか？　でも女だし・・・まあ、いっか！

　家賃は毎月、隣の家のピンポンを鳴らし、おばあちゃんに直接手渡し、升目の書かれた封筒にハンコをもらうという、当時でもかなり珍しい時代錯誤なシステムだった。ふりかえれば、おばあちゃんは居住者みんなの具合をうかがい、話がしたかったんだろうな　と思う。
　逆に、大家のおばあちゃんが用がある場合は、各部屋に設置されたブザーが BUUUUU♪と鳴り（インターホンではないので会話はできない）、隣の家まで行かなければならないという変なシステムだった。

ping pong♪
「大家のおばあちゃん、俺、料理一切できないし、金も無いから、来月からガス止めて！」
「支払いが出来ずにガスを止める手続きをしたことはあるけれど、自らガスを止めてくれと言ってきたのは、あなたが初めてよ」
心配を面白いが抜き去った笑みを見せた。

しまった！　珈琲が飲めない・・・カップヌードルが食べられない・・・

　大慌てでアキバに電気ポットを買いに行った。今でこそ様変わりしたが、当時の秋葉原は電器店のみで街が形成されていた。東（東京）の秋葉原、西（大阪）の日本橋と言われていたが、秋葉原の規模は10倍以上に感じた。
　何の変哲もないシルバー１色の、カップヌードル１個分程度のお湯が沸かせる電気ポットを買った。保温機能など無い。
　電気ポット購入後、うろついていると、ワープロ（ワードプロセッサ）が展示されているブースで足が止まった。何だ？これは？　時代は渦を巻き、さらにいろいろな渦が何個も何個も発生し、うねっていた。
※1978　日本語ワードプロセッサ１号機　東芝

　電気ポットで湯を沸かし、ネッスルのインスタントコーヒーを飲む。ガスは止まっているから、オール電化の先駆けである。あっ、電化製品はポットしかないから、オンリーワン電化か・・・この部屋には何の渦も巻いてはいなかった。
※Kitkat のネスレ（Nestle）の社名は当時ネッスルだった
　1994　ネッスルからネスレに社名変更（世界的に統一のため）
　Nestle　独語：鳥の巣　パッケージにトレードマークとして描かれている　スイスの世界的食品メーカー

　アルバイトを探さないと生きていけない。とりあえず、アパートの近くで何かないか探し歩いた。



///// 　みま　ん。猫がキーボードをク　ッ　　　たので、入　できま　ん。後日『夢　②』UP　ま　 /////