60年生きてきて、何があったかというと何もない。

人見 犬々(ケンケン)

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一匹目の猫①

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 ショッピングモールに家内と出かけた。屋外の広場で犬・猫の譲渡会が催されていた。
 僕は犬派で、子供のころ、野良犬を拾ってきて飼っていた経験がある。子犬・成犬を見ながら、飼ったとしても朝・夕の散歩出来ないしなあ 飼う場所もないしなあ と思いながら、ひととおり犬を見て、別にこれといったワンちゃんもいなかったしなあ と勝手な結論を出し、家内のいる猫ブースへ向かった。
 家内は猫派で、同じく猫を飼ったことがある。成猫は一匹ずつケージに入れられ、子猫は7・8匹がビニールの家庭用の水の無い子供プールに入れられ、じゃれ合っていた。リードに繋がれた犬が近くを通ると、怖がって隅のほうに一塊になっていた。一匹だけ、白い子猫が犬に向かって威嚇していた。遠巻きに何回か見ていたが、常にその子が他の子猫を守ってやっているように見えた。体格は皆同じである。
 家内が、
「あの子に決めた」
と言った。いやいや、子猫もらうためにモールに来たわけじゃないし、・・・仕方ない
「オスだったらいいよ」
 オスだった・・・
 事務局に申し込む。
「この子は最も人気が高くて、7人目のお申し込みとなります」
「?」後日、抽選があり、当選者にのみ連絡が入り、譲渡に関する詳細を詰める というものだった。
 もう一度その白猫をよく見たら、真っ白ではなく、頭のてっぺんにモヒカンのようなダイヤの形をした黒い模様が付いていた。あごの下にも黒い模様があった。

 当選した。

 当然、家内は大喜びである。一晩考えて、私が名前を決める!
 青いリボンを首に巻かれてやってきたから、あお とか 白から連想して、シュガー とか 頭の模様から、ダイヤ とか そんな感じかな? と想像していた。

「発表します! 【くまきち】くん で~す!」

 家内が読んでいる漫画のなかに【くまきち】というお気に入りのキャラが登場しているらしい。

 動物病院で検査とか、いろいろやらなければならない。
 家内と一緒に、評判のいい動物病院に行った。受付を済ませた。ドアの向こうでは猫が診察されているようだった。待ち合いには誰もいなかった。本当にいい獣医なのか? 評判は本当らしく10分ほどで待合室は満席となり、外で待つ人もいた。来院したタイミングが良かった。

「次のかた 人見 ? 人見くまきち? くん どーぞ」

 病院の待合室で大爆笑が起こるのを初めて経験した。僕は少しだけ下を向き、診察室に入った。
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