60年生きてきて、何があったかというと何もない。

人見 犬々(ケンケン)

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iPhone

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 iPhone が発売された。キャリアは SoftBank だけだった。周りは、挙ってガラケーから iPhone へ移行した。かなり高額だった。子育て中のパパ連中は、様子見だったが、奥さんに内緒で自分の保険を解約し、一括で購入・入手する強者まで現れた。それほど iPhone の侵食は凄まじかった。
 僕はまだ、ガラケーで充分だった。電話とメールがあれば不自由しなかった。

 知人が2店舗目のコンビニをオープンさせ、人手が足らないので、手伝いに来てくれないかと依頼された。報酬は時給相当のタバコ現物支給で・・・OK!・・・金曜日の会社終わりから、土曜日の朝まで。

 意外と楽しかった。(これを記すと、どのチェーン店かバレてしまうのだが・・・)レジでは、データ採りのため、見た目で判断し、年齢・性別を入力する(当然、レシートには出ない)。手と足のでかい、喉仏のあるおネエさまは、買い物のたびにレジを覗き込み、女性と入力されたのを見ると、もう一品、買い足してくれた。レジ内のお金が10万円を超えると、あるコードが表示され、2~3万円分の紙幣を「開かずの金庫」に移す。この金庫は紙幣を吸い込み、ボルト等で固定されていて持ち運び出来ず、鍵はオーナーのみが持っている。コンビニ強盗を計画しても10万円以上は無理ですよ!
 朝5時前、何故か中学生数名が入店。何もせず、レジ付近に立ったままである。万引きの囮か?と思ったが、店内にはタクシーの運転手が一人、パンを選んでいるだけである。
 5時、定期便が商品を運び入れる。
「○△□のトレーディングカード入ってきましたか?」
「今、ちょうど入ってきたところだよ」
「見せてもらっていいですか?」
「どうぞ」
 外箱のビニールを剥ぎ、中学生の前に差し出す。

【!】1枚ずつ重さを計り始めた。iPhone で!

 衝撃だった。電話が計りになっている。

 重量の重いものだけを数枚購入し、店を出ていった。トレカは不可視のビニールで包装されていて、レアカードは金・銀で装飾され、複雑な印刷が施されている。物によっては数十万円という価値が付く。

「最近の子は凄いだろ。トレカは購入枚数を聞き、店員が無作為に選んで渡すようにしているんだ」
あとから、聞いた。だからレジの後ろに置いてあるんだ・・・

 僕も iPhone にした。
 その後、僕は奥さんに保険を解約され、猫2匹が保険に入った。
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