60年生きてきて、何があったかというと何もない。

人見 犬々(ケンケン)

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YAMAHA セロー

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 バイクが好きなので、近くで新型車の試乗会があれば出掛けていた。先輩・同僚・後輩・友人にバイクの相談をよく持ち掛けられた。
 ヤマハにセロー(XT225)というオフロード寄りのトレールバイクがあった。ロングセラーの良くできたバイクで、初心者から熟練者まで幅広い層の支持を得ていた。

 エンジニアという職業は知力も体力も必要だが、メンタルが強くないと、病んでしまう。気分転換は必須だ。

 喫煙室で同僚が、
「セローというバイクを買って、休日に気分転換しようと思っているんだが、どう思う?」
「扱い易いし、いいバイクだと思うよ」
 彼の手掛けるプロジェクトは遅れに遅れ、会社から連絡が取れなくなり、失踪した。

 喫煙室で後輩が、
「セローというバイクを買って、人里離れた場所でトコトコ走って気分転換しようと思ってるんですけど、どう思われますか?」
「高速もOKだし、ゆっくり走るのにも、いいバイクだと思うよ」
 仕事中に、突然奇声を発し、周囲の人間に殴りかかった。取り押さえられ、救急車で病院に運ばれ、精神病棟にいるらしい。

 東京本社に栄転となった先輩が、
「栄転のお祝いを名目に、家内にセローというバイクを買う許可をもらおうと思っている」
「そうなんですか。いいですねえ」

 僕は会社を辞めてしまったので、先輩のその後は知らない。

 二度あることは・・・・でないことを願っている。
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