60年生きてきて、何があったかというと何もない。

人見 犬々(ケンケン)

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家電

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 家事が一切できない。本当に何もできない。包丁を持ったことも無い。お湯を沸かしカップヌードルを作ることはできるが、インスタント焼きそばになると、もう無理だ。恥ずかしいを通り越して、レア種だ。
 家電に興味が無い。テレビ・エアコン・洗濯機・冷蔵庫・掃除機・・・スイッチのON・OFF、テレビのチャンネルを変える・ボリュームの上げ下げ、エアコンの設定温度を変える くらいしか知らない。
 元エンジニアのくせに・・・だ。
 家内に30秒電子レンジで温めてほしいと言われた。操作ボタンは10分と1分と10秒しか無い。10秒のボタンを押しスタートボタンを押した。10秒経過・・・チーン を3回繰り返した。キッチンから出ていけと言われた。10秒のボタンを3度押すと30秒温めることができることを知った。こんな塩梅・体たらくである。
 家内はテレビッ子である。休日は1日中テレビがついている。内蔵のDVDに裏番組を録画しまくり、あとで必ず見ている。ある日突然、DVDが壊れた。テレビッ子は半狂乱になったあと、元気が無くなり生ける屍と化した。挙句、全番組が録画できるレコーダーと新型テレビを要求してきた。20万円ほどの出費となる。嫌だ。内蔵のDVD本体を取り出し、バラす。イカレた部品を発注し、修理する。数千円で済んだ。さすが、元エンジニアだ。家内は残念がっていたが、すぐにいつもの彼女に復旧した。
 会社の雑務でタオルを洗濯機で洗うという無理難題を押し付けられた。どうすればいいのかわからず、洗濯機の前に立ち尽くし、女性社員が通りかかるのをずーっと待っていた。結果、水道の元栓を開けずに操作したため、二度手間となってしまった。
 こんな人間が形成された原因は2つある。自分でわかっている。
 18歳までは実家で暮らした。おばあちゃんは頑なに明治の人だ。昭和では無い。明治だ。男が台所に立つなどもってのほかだ。近寄ることすら許さなかった。これが1つ目。
 19歳から一人暮らしを始めた。「喰う」ことには困らなかった。アパートの大家さん・同じアパートの住民の方々・バイト先の店長等、常に差し入れを頂いた。余程貧相に思われていたのであろう。近所で定食屋を営む子供さんがいらっしゃらなかった老夫婦には孫扱いされ、3回に2回はお代はいらないと言われた。
 また、(自慢ととられるかもしれないが・・)料理の上手な彼女も手料理をもてなしてくれた。性格上、不味いと思ったらその瞬間から食べない。一口箸をつけただけで、不味いと言い、箸を置く。こんな僕が料理の上手な彼女と言うくらいだから、本当に美味かった。つきあった女性の手料理は皆が皆、本当に美味かった。
 就職が決まり、東京から大阪に移った。ここでも偶然だが、近所に上司・先輩のお宅が数軒あり、常にお裾分けを頂けた。また、これで成り立つのか?と思う格安な定食屋も近所にあった。さすが、食の街・大阪である。これが2つ目。
 家内も料理が上手だ。美味い。加えて、旬のものを食卓に提供してくれる。四季を感じることができる。感謝している。家内とは何年か同棲したのち、入籍した。同棲する前は、別の女性と、半同棲のような関係だった。
 家電は10年弱単位で壊れていく。高額な冷蔵庫が壊れたと思ったら、同じタイミングで購入した電子レンジも壊れる。お財布は火の車になる。修理するより、購入したほうが安いという壊れ方・もしくは修理不能な壊れ方をする。
 ある日、10数年使っていた洗濯機が壊れた。長持ちしてくれた。流石、モーターの日立である。そのモーターが焼き切れていた。新たに購入したほうが安く済む。
 家内が嬉しそうに言い放った。
「他の女が使っていた電化製品は、これで無くなったな」

 女は怖い。

 
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