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3 冬華side
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↓冬華side↓
家に帰り、急いで顔を洗い、薄くメイクをして、髪を整える。着なれた制服に袖を通し、鏡の前でおかしなところは無いか確認する。
カバンの中の持ち物を確認して、いつものように大好きだった兄の写真の前で手を合わせる。
冬華「いってきます」
挨拶を終えると、ローファーを履き、本日2度目の玄関を開ける。
さっきとは全然違う外の空気。
涼しさが生温かさに変わり、春の終わりを感じる。まだ4月だというのにとっくに桜は青青とした葉っぱに包まれている。
遅刻しそうなサラリーマン、挨拶を交わす小学生。主婦たちの井戸端会議。そして、だるそうに歩いている高校生。今から私もその中の1人になるのだ。
通いなれた道を、だらだらと歩く。
寝てないから体が重い。おなかもいっぱいになってしまったから、眠気が襲う。
校門まで向かう道に入りかかったとき、後ろから声をかけられた。
恋春「おっはよー!冬華ちゃん!」
冬華「ああ、恋春。朝から元気だね、おはよう」
恋春「冬華ちゃんはすっごい眠そうだけど、また夜更かししたの?」
冬華「今日は一睡もしてない」
恋春「まじで!?」
優雨「冬華またオールかよ」
恋春の後ろから、呆れたようにまた1人声をかけてきた。
冬華「寝れないの、しょうがないじゃん」
優雨「昨日は誰と一緒だったんだ」
冬華「別に、優雨には関係ないと思うんだけど…」
優雨「関係なくねぇし、心配してやってんだろ」
冬華「はいはい、どうもありがとう」
恋春「ねえ、そうやって言い合いしないと2人の朝は始まらないんですかー?」
冬華「こいつが突っかかってくるから」
優雨「人が心配してやってんのに」
冬華「父兄かよ」
優雨「おまっ」
恋春「まーまー、もう。朝からやめてよー。仲良くしよ!仲良く!それに、冬華ちゃんもだめだよー?若いからってしっかり寝ないとお肌に悪いんだからっ!」
冬華「ごめん、気をつける」
恋春「そうだよー?せっかく美人さんなんだから」
優雨「なんで恋春の言うことは素直に聞くんだよ」
この2人とは、高校に入学した時からなぜか一緒にいることが多い。一年生の時優雨とクラスが同じになって、なぜか私に絡んできた。それに釣られるようにいつからか恋春も私に絡んでくるようになった。
2人は幼稚園からの幼なじみらしい。そんな2人がどうして実家を離れてこの街に来た私なんかに絡んでくるのか、2年経った今でも不思議でならない。別に人付き合いは得意じゃないし、愛想だって良いわけじゃないのに。
ただこの2人のお陰で高校生活、ぼっちは免れているので感謝はしていた。
恋春「ねーね、新しい先生くるよね??カッコイイ男の先生いないかなぁ~」
優雨「イケメン教師なんかいねえーよ。ドラマじゃないんだし」
恋春「そうかなー?イケメンだって教師になる資格あるよー?ね?冬華ちゃんもイケメン先生が良いよね!」
冬華「うーん、あんまり興味ないかな」
恋春「えーー」
優雨「冬華はお前みたいにお花畑じゃないんだよ」
恋春「なにそれ!優雨くんひどーい!」
基本、2人での会話の中、時々私へ話が振られる。といういつも通りのスタイル。
校門を通り抜け、クラス割の表を3人で確認する。
去年は3人バラバラのクラスだったけど、今年はどうだろうか。
黒木冬華。自分の名前を探す。
冬華「あ、3組だ」
恋春「うそ!?冬華ちゃん、私も3組!」
冬華「初めて一緒だね」
恋春「うれしい~!優雨くんは?」
優雨「まて、3組、3組だろ??あ!あったぞ!!俺も3組!!まじか!!」
恋春「ほんとだ!!優雨くん同じクラス!!中1ぶりだね!!」
優雨「そうだったけか?」
恋春「ひどいよ!覚えててよ!」
優雨「全員同じだな、よろしく」
冬華「まぁ、よろしく」
恋春「冬華ちゃんお昼絶対一緒ね!」
冬華「それは、今までもそうだったけど…」
3人で3組の教室へ向かう。見たことない顔が沢山行き交う廊下を歩く。
クラス替えで一喜一憂しているのだろう。肩を落としたり、馬鹿みたいにはしゃいだり。いろんな人がいる。
恋春「冬華ちゃん!!」
後ろを歩いてた恋春に呼び止められた。
振り向くと、廊下の窓にメガネのようにした両手を当ててどこかを見ていた。
冬華「何見てるの」
恋春「あの人!見たことないよね!?きっと新しい先生だよね!!ほらあそこ!」
恋春の指さす方向を見ると、中庭を挟んだ向こう側の廊下を歩くスーツ姿の男の人がいた。
冬華「え…?」
恋春「イケメンじゃない!?イケメンだよね!」
優雨「そうかー?俺の方がイケメンじゃね?」
恋春「優雨くんうるさい」
どうして、あの人がここにいるんだろうか。
さっきまで一緒に朝食を取っていたカフェの店主…にとても似ている。
スーツ姿にさえなっているものの、間違いなくあの人だと思った。
冬華「なんで…」
キーンコーンカーンコーン
朝礼5分前のチャイムが鳴り響いた。
すぐに駆け出して、向こう側の廊下へ行きたいところだったが遅刻扱いは避けたいので、大人しく自分の教室へと入った。
席へ着いても、頭の中が混乱していた。
カフェの店主じゃなかったの?
でも確かにあの店の人だった。どういうことなんだろうか。もしや双子なのか。他人の空似…?
いろんな可能性を考えたが、自分の中では解決しなかった。
新学期の初日、1時間目は着任式だったので、朝礼が終わった瞬間に席を立ち、急いで体育館へ向かった。
恋春「冬華ちゃん!?ちょっと、一緒行こうよー!」
優雨「あ、お前ら待て!」
2人を待つこともなく、早足で歩いた。
恋春「冬華ちゃん、興味ないって言ってたわりにすごい気になってるじゃん!」
優雨「え、そうなの?」
恋春「さっきのイケメン先生でしょ??早く会いたいんだってば」
優雨「うそだろ!?」
早く確かめたかった。
本当にあの人なのか、誰なのか、名前を知りたかった。
体育館に着き、壇上にいるあの人を見つめる。
やっぱり、さっきのカフェの人だ…。
1人ずつ、新任の先生方が挨拶をしていく。
1人、また1人とあの人に近づくたびに、胸が高鳴った。
そして、マイクが手渡される。
息を呑んだ。
千秋「紫田千秋です。初めまして。今年から社会科担当としてこの学校に赴任してきました」
しばた、ちあき…。
千秋「今日、この学校へ来る道のりをとても懐かしく感じました。実はここは僕の母校でもあります。僕の頃の制服はブレザーではなく学ランでしたが、この体育館や、校舎は変わらず昔のままで青春時代を思い出します。またここでの生活が始まると思うと楽しみでもあるので、皆さん、気軽に話しかけに来てくださいね」
まさか先生だとは思いもしなかった。
でも、どうして。確か公務員は副業禁止だったはず。あのカフェに住んでる…んだよね…。あの時間にいたんだし、飼い猫もいるし…。
でも、ここの卒業生か。
もしかしたら、兄のことを知っているかもしれない。
紫田先生は、残念ながら私のクラスとは関わりが無いようだった。
となると、こちらから会いに行くしかないってことか。
新学期初日は午前中に授業が終わったので、部活にも入っていない私は急いで社会科教員室に向かった。早足で階段を駆け上がり、4階にある扉の前で立ち止まった。
この学校に通って3年目になるけど、初めてこの扉を叩こうとしている。
もし人違いだったらどうしよ…。
変な緊張で手が汗ばんできた。
ゆっくりと息をすって、ふーーっと吐いた。
冬華「よし…」
コンコンコン
3回ノックをする。
千秋「はい、どうぞ」
中から、今朝聞いたものと同じ声が聞こえてきた。
やっぱり、あの人だ。
恐る恐る、ゆっくりと引き戸を開けた。
冬華「あ、あの、紫田…先生にご用があります。入室してもよろしいでしょうか」
千秋「あ、今朝の」
その言葉で、確信になった。
千秋「どうぞ、お入りください」
冬華「し、失礼します…」
他の先生はいないようだった。
ゆっくり、紫田先生の机の横に立った。
ここまで来たはいいけれど、どう話を切り出そうか…。
紫田先生は、イスをくるりと回して体をこちらに向けてくれた。
千秋「ごめんね、驚かせてしまったかな」
冬華「あ、いえ!…いや、はい…。正直めちゃくちゃびっくりしてます。えっと、先生だったんですね」
千秋「実はそうなんです」
冬華「じゃあ、あのカフェはなんですか?副業は禁止ですよね…?」
千秋「あそこは、祖父の店なんだ。僕はあの家に間借りさせてもらってるだけで、働いてるわけじゃないんです」
冬華「え、でも今朝はあそこでコーヒー淹れたり、サンドイッチ作ってくれたりしてましたよね?」
千秋「うん、そうだね。朝食を取るときはあのカフェスペースを使わせてもらってるだけ」
冬華「営業時間は…」
千秋「決まってます」
冬華「今日いただいたお料理は…」
千秋「メニューには無いものです。だから言ったでしょ?お金はいりませんって」
冬華「嘘…ついたんですか」
千秋「少し言葉が足りなかったかもしれないですね」
冬華「はあ…」
千秋「実は、もしかしたら生徒かもしれないな。とは思ったんですけど、あのタイミングで高校がどこなのか聞くのは、怪しいですから」
冬華「そうですかね…」
千秋「では、改めて教師という立場ですから。初めまして、社会科担当の紫田千秋です。君は何年生?お名前は?」
冬華「えっと、3年3組…黒木冬華です」
千秋「3年3組…、僕は受け持ってないね」
冬華「そうみたいですね」
千秋「あまり関わることがないかもしれませんが、1年間よろしくお願いします。ここに話に来てくれてもいいですし、今朝の時間でしたらいつもカフェにいますので」
冬華「あ、こちらこそ、よろしくお願いします。あ、あの。私からも質問いいでしょうか」
紫田先生がここの卒業生だとしたら、もしかすると兄のことを知っているかもしれない。
冬華「あの、先生はおいくつでしょう」
千秋「年齢ですか?気になります?」
冬華「はい、とても」
千秋「27です」
冬華「27…」
千秋「どうかされました?」
生きていたら、兄と同い年だ。
もしかしたら、知っているかもしれない。
冬華「あの、先生ここの卒業生だって、仰ってましたよね??白森夏輝って、ご存知じゃないでしょうか…。おそらく先生と同学年だったはずなんですが…」
千秋「白森…夏輝ですか」
冬華「ご存知ないですか?」
千秋「どうして、そんなことを?」
冬華「兄なんです」
紫田先生は、ゆっくりと目を見開きとても驚いた顔で私のことを見つめた。
確実に知っているようだった。
冬華「ご存知、ですよね?」
千秋「…そうですね。お名前程度にはなりますが」
冬華「本当ですか?」
千秋「ええ。ですが、苗字が違うのは…」
冬華「両親が離婚して、お互いそれぞれの親に引き取られたので」
千秋「そうでしたか」
冬華「本当に、よくご存知じゃないんですか?」
千秋「そうですね…、なにぶん大きな学校ですから」
冬華「そうですか…。私、学生時代の兄のことが知りたくて」
千秋「例えば?」
冬華「兄が、学生時代好きだった人、もしくはお付き合いしてた方とか。噂程度でもなにかご存知ありませんか」
千秋「…いえ。わからないです」
冬華「そうですか。ありがとうございます」
紫田先生は、深く考えるような深刻そうな表情をしていた。
失礼します。とだけ挨拶をして社会科準備室を出ると、そこに優雨と恋春がいた。
冬華「なに、聞いてたの」
優雨「聞いてねえし。待ってただけだろ」
冬華「そう」
恋春「冬華ちゃん、何も言わず走って行っちゃうんだもん」
冬華「ごめん」
優雨「知り合いか、あいつ」
冬華「そんなんじゃないよ」
恋春「ねえねえ、近くでもやっぱりかっこよかった?」
冬華「そうだね、イケメンだと思うよ」
恋春「だよね!!えー、私も挨拶しに行っちゃおうかなぁ」
冬華「今日は帰るよ」
恋春「えー!冬華ちゃんだけずるいー!」
冬華「また明日もいるんだから、好きなだけ会えるよ」
恋春「そうだけどさー」
廊下に差し込む夕日が、私たち3人の影を伸ばした。
家に帰り、急いで顔を洗い、薄くメイクをして、髪を整える。着なれた制服に袖を通し、鏡の前でおかしなところは無いか確認する。
カバンの中の持ち物を確認して、いつものように大好きだった兄の写真の前で手を合わせる。
冬華「いってきます」
挨拶を終えると、ローファーを履き、本日2度目の玄関を開ける。
さっきとは全然違う外の空気。
涼しさが生温かさに変わり、春の終わりを感じる。まだ4月だというのにとっくに桜は青青とした葉っぱに包まれている。
遅刻しそうなサラリーマン、挨拶を交わす小学生。主婦たちの井戸端会議。そして、だるそうに歩いている高校生。今から私もその中の1人になるのだ。
通いなれた道を、だらだらと歩く。
寝てないから体が重い。おなかもいっぱいになってしまったから、眠気が襲う。
校門まで向かう道に入りかかったとき、後ろから声をかけられた。
恋春「おっはよー!冬華ちゃん!」
冬華「ああ、恋春。朝から元気だね、おはよう」
恋春「冬華ちゃんはすっごい眠そうだけど、また夜更かししたの?」
冬華「今日は一睡もしてない」
恋春「まじで!?」
優雨「冬華またオールかよ」
恋春の後ろから、呆れたようにまた1人声をかけてきた。
冬華「寝れないの、しょうがないじゃん」
優雨「昨日は誰と一緒だったんだ」
冬華「別に、優雨には関係ないと思うんだけど…」
優雨「関係なくねぇし、心配してやってんだろ」
冬華「はいはい、どうもありがとう」
恋春「ねえ、そうやって言い合いしないと2人の朝は始まらないんですかー?」
冬華「こいつが突っかかってくるから」
優雨「人が心配してやってんのに」
冬華「父兄かよ」
優雨「おまっ」
恋春「まーまー、もう。朝からやめてよー。仲良くしよ!仲良く!それに、冬華ちゃんもだめだよー?若いからってしっかり寝ないとお肌に悪いんだからっ!」
冬華「ごめん、気をつける」
恋春「そうだよー?せっかく美人さんなんだから」
優雨「なんで恋春の言うことは素直に聞くんだよ」
この2人とは、高校に入学した時からなぜか一緒にいることが多い。一年生の時優雨とクラスが同じになって、なぜか私に絡んできた。それに釣られるようにいつからか恋春も私に絡んでくるようになった。
2人は幼稚園からの幼なじみらしい。そんな2人がどうして実家を離れてこの街に来た私なんかに絡んでくるのか、2年経った今でも不思議でならない。別に人付き合いは得意じゃないし、愛想だって良いわけじゃないのに。
ただこの2人のお陰で高校生活、ぼっちは免れているので感謝はしていた。
恋春「ねーね、新しい先生くるよね??カッコイイ男の先生いないかなぁ~」
優雨「イケメン教師なんかいねえーよ。ドラマじゃないんだし」
恋春「そうかなー?イケメンだって教師になる資格あるよー?ね?冬華ちゃんもイケメン先生が良いよね!」
冬華「うーん、あんまり興味ないかな」
恋春「えーー」
優雨「冬華はお前みたいにお花畑じゃないんだよ」
恋春「なにそれ!優雨くんひどーい!」
基本、2人での会話の中、時々私へ話が振られる。といういつも通りのスタイル。
校門を通り抜け、クラス割の表を3人で確認する。
去年は3人バラバラのクラスだったけど、今年はどうだろうか。
黒木冬華。自分の名前を探す。
冬華「あ、3組だ」
恋春「うそ!?冬華ちゃん、私も3組!」
冬華「初めて一緒だね」
恋春「うれしい~!優雨くんは?」
優雨「まて、3組、3組だろ??あ!あったぞ!!俺も3組!!まじか!!」
恋春「ほんとだ!!優雨くん同じクラス!!中1ぶりだね!!」
優雨「そうだったけか?」
恋春「ひどいよ!覚えててよ!」
優雨「全員同じだな、よろしく」
冬華「まぁ、よろしく」
恋春「冬華ちゃんお昼絶対一緒ね!」
冬華「それは、今までもそうだったけど…」
3人で3組の教室へ向かう。見たことない顔が沢山行き交う廊下を歩く。
クラス替えで一喜一憂しているのだろう。肩を落としたり、馬鹿みたいにはしゃいだり。いろんな人がいる。
恋春「冬華ちゃん!!」
後ろを歩いてた恋春に呼び止められた。
振り向くと、廊下の窓にメガネのようにした両手を当ててどこかを見ていた。
冬華「何見てるの」
恋春「あの人!見たことないよね!?きっと新しい先生だよね!!ほらあそこ!」
恋春の指さす方向を見ると、中庭を挟んだ向こう側の廊下を歩くスーツ姿の男の人がいた。
冬華「え…?」
恋春「イケメンじゃない!?イケメンだよね!」
優雨「そうかー?俺の方がイケメンじゃね?」
恋春「優雨くんうるさい」
どうして、あの人がここにいるんだろうか。
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スーツ姿にさえなっているものの、間違いなくあの人だと思った。
冬華「なんで…」
キーンコーンカーンコーン
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すぐに駆け出して、向こう側の廊下へ行きたいところだったが遅刻扱いは避けたいので、大人しく自分の教室へと入った。
席へ着いても、頭の中が混乱していた。
カフェの店主じゃなかったの?
でも確かにあの店の人だった。どういうことなんだろうか。もしや双子なのか。他人の空似…?
いろんな可能性を考えたが、自分の中では解決しなかった。
新学期の初日、1時間目は着任式だったので、朝礼が終わった瞬間に席を立ち、急いで体育館へ向かった。
恋春「冬華ちゃん!?ちょっと、一緒行こうよー!」
優雨「あ、お前ら待て!」
2人を待つこともなく、早足で歩いた。
恋春「冬華ちゃん、興味ないって言ってたわりにすごい気になってるじゃん!」
優雨「え、そうなの?」
恋春「さっきのイケメン先生でしょ??早く会いたいんだってば」
優雨「うそだろ!?」
早く確かめたかった。
本当にあの人なのか、誰なのか、名前を知りたかった。
体育館に着き、壇上にいるあの人を見つめる。
やっぱり、さっきのカフェの人だ…。
1人ずつ、新任の先生方が挨拶をしていく。
1人、また1人とあの人に近づくたびに、胸が高鳴った。
そして、マイクが手渡される。
息を呑んだ。
千秋「紫田千秋です。初めまして。今年から社会科担当としてこの学校に赴任してきました」
しばた、ちあき…。
千秋「今日、この学校へ来る道のりをとても懐かしく感じました。実はここは僕の母校でもあります。僕の頃の制服はブレザーではなく学ランでしたが、この体育館や、校舎は変わらず昔のままで青春時代を思い出します。またここでの生活が始まると思うと楽しみでもあるので、皆さん、気軽に話しかけに来てくださいね」
まさか先生だとは思いもしなかった。
でも、どうして。確か公務員は副業禁止だったはず。あのカフェに住んでる…んだよね…。あの時間にいたんだし、飼い猫もいるし…。
でも、ここの卒業生か。
もしかしたら、兄のことを知っているかもしれない。
紫田先生は、残念ながら私のクラスとは関わりが無いようだった。
となると、こちらから会いに行くしかないってことか。
新学期初日は午前中に授業が終わったので、部活にも入っていない私は急いで社会科教員室に向かった。早足で階段を駆け上がり、4階にある扉の前で立ち止まった。
この学校に通って3年目になるけど、初めてこの扉を叩こうとしている。
もし人違いだったらどうしよ…。
変な緊張で手が汗ばんできた。
ゆっくりと息をすって、ふーーっと吐いた。
冬華「よし…」
コンコンコン
3回ノックをする。
千秋「はい、どうぞ」
中から、今朝聞いたものと同じ声が聞こえてきた。
やっぱり、あの人だ。
恐る恐る、ゆっくりと引き戸を開けた。
冬華「あ、あの、紫田…先生にご用があります。入室してもよろしいでしょうか」
千秋「あ、今朝の」
その言葉で、確信になった。
千秋「どうぞ、お入りください」
冬華「し、失礼します…」
他の先生はいないようだった。
ゆっくり、紫田先生の机の横に立った。
ここまで来たはいいけれど、どう話を切り出そうか…。
紫田先生は、イスをくるりと回して体をこちらに向けてくれた。
千秋「ごめんね、驚かせてしまったかな」
冬華「あ、いえ!…いや、はい…。正直めちゃくちゃびっくりしてます。えっと、先生だったんですね」
千秋「実はそうなんです」
冬華「じゃあ、あのカフェはなんですか?副業は禁止ですよね…?」
千秋「あそこは、祖父の店なんだ。僕はあの家に間借りさせてもらってるだけで、働いてるわけじゃないんです」
冬華「え、でも今朝はあそこでコーヒー淹れたり、サンドイッチ作ってくれたりしてましたよね?」
千秋「うん、そうだね。朝食を取るときはあのカフェスペースを使わせてもらってるだけ」
冬華「営業時間は…」
千秋「決まってます」
冬華「今日いただいたお料理は…」
千秋「メニューには無いものです。だから言ったでしょ?お金はいりませんって」
冬華「嘘…ついたんですか」
千秋「少し言葉が足りなかったかもしれないですね」
冬華「はあ…」
千秋「実は、もしかしたら生徒かもしれないな。とは思ったんですけど、あのタイミングで高校がどこなのか聞くのは、怪しいですから」
冬華「そうですかね…」
千秋「では、改めて教師という立場ですから。初めまして、社会科担当の紫田千秋です。君は何年生?お名前は?」
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冬華「あ、こちらこそ、よろしくお願いします。あ、あの。私からも質問いいでしょうか」
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冬華「あの、先生はおいくつでしょう」
千秋「年齢ですか?気になります?」
冬華「はい、とても」
千秋「27です」
冬華「27…」
千秋「どうかされました?」
生きていたら、兄と同い年だ。
もしかしたら、知っているかもしれない。
冬華「あの、先生ここの卒業生だって、仰ってましたよね??白森夏輝って、ご存知じゃないでしょうか…。おそらく先生と同学年だったはずなんですが…」
千秋「白森…夏輝ですか」
冬華「ご存知ないですか?」
千秋「どうして、そんなことを?」
冬華「兄なんです」
紫田先生は、ゆっくりと目を見開きとても驚いた顔で私のことを見つめた。
確実に知っているようだった。
冬華「ご存知、ですよね?」
千秋「…そうですね。お名前程度にはなりますが」
冬華「本当ですか?」
千秋「ええ。ですが、苗字が違うのは…」
冬華「両親が離婚して、お互いそれぞれの親に引き取られたので」
千秋「そうでしたか」
冬華「本当に、よくご存知じゃないんですか?」
千秋「そうですね…、なにぶん大きな学校ですから」
冬華「そうですか…。私、学生時代の兄のことが知りたくて」
千秋「例えば?」
冬華「兄が、学生時代好きだった人、もしくはお付き合いしてた方とか。噂程度でもなにかご存知ありませんか」
千秋「…いえ。わからないです」
冬華「そうですか。ありがとうございます」
紫田先生は、深く考えるような深刻そうな表情をしていた。
失礼します。とだけ挨拶をして社会科準備室を出ると、そこに優雨と恋春がいた。
冬華「なに、聞いてたの」
優雨「聞いてねえし。待ってただけだろ」
冬華「そう」
恋春「冬華ちゃん、何も言わず走って行っちゃうんだもん」
冬華「ごめん」
優雨「知り合いか、あいつ」
冬華「そんなんじゃないよ」
恋春「ねえねえ、近くでもやっぱりかっこよかった?」
冬華「そうだね、イケメンだと思うよ」
恋春「だよね!!えー、私も挨拶しに行っちゃおうかなぁ」
冬華「今日は帰るよ」
恋春「えー!冬華ちゃんだけずるいー!」
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