僕たちはまだ人間のまま

ヒャク

文字の大きさ
11 / 142

第11話「余裕のない生活」

しおりを挟む



(ま、こう言うやつに限って裏で汚いことしてたり腹黒かったりすんだよな。ワンチャン狙いでヤリ捨てしてたりして)

しばらく悩んでから、芽依は雨宮に気になるボタンを押し返してしまった。
これまでも気弱そうな、そして優しそうな顔の男とやりとりした事は勿論あったが、彼らもまたどこか拗らせていて不気味なところが多かった。
こちらが持ち上げながら会話を合わせていると調子に乗って、「僕は花柄とか着る人より、無地のシンプルな短いスカートとかワンピースが好きかな」「派手な下着より白がいいと思うよ」「茶髪はやめたら?黒髪がいいよ。清純派が1番いいよ!」等、聞いてもいない話しをしてきた奴もいる。

きっとこの「雨宮」も、そう言った類いだ。

自分よりも馬鹿そうな女だと認めた瞬間、上から目線で自分語りをして、何とかいやらしい会話に持ち込もうとする。
そう言う奴なのだろう。
気になるボタンを押し終わった芽依は、ベッドのそばにあるコンセントにさしっぱなしの充電器のケーブルを引き寄せ、携帯電話に差して立ち上がり、ふあ、と欠伸をしながら寝室を出た。
右手に曲がって進むと、玄関の手前で右側に風呂場のドアが現れる。
廊下を挟んで向かい側にはトイレのドアがあった。

(もう1時か、、明日は9時入り。風呂入って1時半、飯は、、うーん)

夕飯を食べずに帰ってきた芽依はすっかすかの胃袋を撫でるように腹筋を撫でた。
彼は見事に6つに割れた、ぎゅっと引き締まった腹をしている。

(何とか6時間寝てえけど、うーん)

これからやらなければならない事と時刻を頭の中で打ち合わせし、何とか睡眠時間を捻り出そうとしている。
芽依は寝不足にめっぽう弱いと言う弱点があり、何とか、ギリギリで6時間は寝たいと計算しているのだ。

(飯食うと、寝るの2時半とかになるな、、中谷が迎えに来るのが7時半って言ってたからそれより前に起きる、、んー、飯食わずに寝る?絶対寝れねえな)

どうあがいても6時間睡眠は無理そうだ。
ハア、と重たいため息をつき、ズボンとパンツを脱いで洗濯機に放り込み、付けていたネックレスを外して洗面台の真っ白な天板に乗せた。

(忙しいのは嬉しいけど、洗濯機回すヒマもねえ、)

スキャンダルの後、半年間の謹慎期間が設けられたときに急いで引っ越してきたこの家にこんなにいられないと言うのは初めてだ。
回せていた家事に手が回らなくなった。
洗濯物が溜まり、自炊しなくなって、コンビニ飯やデリバリーの利用が増えている。

(癒しがない)

癒しの代わりに始めた八つ当たりのようなネカマも、良いようで、悪い面も大きい。
芽依が抱え込んだ苛立ちは、いよいよ大きくなってきていた。
シャワーだけ浴びて脱衣所に戻り、芽依はガサガサと体を拭いてバスタオルも洗濯機に入れる。
小さめのタオルで頭を拭き終わると、荘次郎が最新式だと言って引っ越し祝いにくれたドライヤーで髪を乾かし、棚のカゴからパンツを出して履いて風呂場を後にした。

「ふあ、」

眠い。
やはり夕飯は抜いてしまおう。
欠伸が終わると寝室に入り、クローゼットからTシャツとスウェットのズボンを取り出して着込んだ。
風呂場から出たときに戸締りは確認した。
リビングの電気は消えている。
それを思い出してベッドに潜り込み、充電していた携帯電話に目覚ましをセットする為に手を伸ばした。

「あ、」

ホームボタンを押した芽依の動きが止まる。
LOOK/LOVEのアイコンに、通知のマークが付いているのが目に入ったのだ。

「、、、」

そっとアイコンを押してアプリを起動させると、雨宮からのメッセージが届いていた。

雨宮[こんにちは。返信ありがとうございます。よろしければ、お話ししませんか?]

(最初は低姿勢だよな)

慎重なメッセージにフン、と鼻を鳴らし、芽依は暗い寝室の中で明るく光る携帯電話の画面を見つめながら返事を打った。

MEI[初めまして。こんにちは。お話、是非したいです!]

それだけ打ち込んで通知を切ると、充電器をさしたままの携帯電話をボフ、とベッドの端に放った。

(あの記事、、)

真っ暗になった部屋の中。
落ち着ける自分のベッドの中で目を瞑ると、頭の中に蘇ったのは1ヶ月と少し前に見たあの週刊誌の記事だった。
嫌な記憶に、ドクンドクンと心臓が嫌な速さで動き始める。

(泥酔って、そんなに飲んでないのに、、いや、泰清がいるときは安心して飲んでるけど、でも、)

決して、アルコール依存症ではない筈だ。
芽依は深く息を吸って重たく吐き出し、寝返りを打って壁の方を向いた。
あの週刊誌には去年売られた自分と当時の恋人がベッドに入って裸で抱き合っている写真も載せられていた。これは2度目の掲載になる。
3年前、芽依は佐渡ジェンとのBrightesT解散の事で頭がいっぱいいっぱいになり、軽く鬱のような状態になっていた。
懸命に支えてくれた彼女と結婚しようと言う目標がやっと芽生え、それを支えに仕事への活力を取り戻したのが一昨年の終わり。
そんな折りの、裏切りだったのだ。

(何回思い出しても腹が立ってくる、、寝る前に思い出すべきじゃない)

もんもんと頭の中を回り始めた不満や怒りを振り払うようにまた寝返りを打ち、部屋の中を目だけでぐるりと見渡した。
真っ暗で何も見えない視界は、まるで自分のこれからの人生のようで、思わずまたため息をついた。

「勘弁してくれ、、本当、癒し欲しい。猫飼おうかな、、絶対世話できねえじゃん。やめよ」

夜は刻々と過ぎていく。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

僕がそばにいる理由

腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。 そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。 しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。 束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。 愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

月兎

宮成 亜枇
BL
代々医者というアルファの家系に生まれ、成績優秀な入江朔夜は、自らをアルファだと信じて疑わなかった。 そうして、十五歳の誕生日を迎え行われた、もう一つの性を判定する検査。 その結果は──『オメガ』。 突きつけられた結果に呆然とする彼に、両親は朔夜に別の場所で生活する事を提案する。 アルファである両親はもちろん、兄弟にも影響が及ぶ前に。 納得のいかない彼ではあったが、従うしかなかった。 ”オメガバース” 男女とは違うもう一つの性。 本来の性別よりも、厄介なもの。 オメガという判定を受けた朔夜と、小さい頃からの幼馴染みである、鷲尾一真、そして、水無瀬秀。 彼らはもう一つの性に翻弄されながらも、成長していく。 ・ こちらは、『女王蜂』の一真と朔夜の中学生〜高校生にかけての物語です。 ストーリー重視のため、過激な描写はあまり(ほとんど?)ありませんが、中学生×中学生のシーンがありますのでご了承ください。 また、こちらの更新は不定期になりますので、もし興味を持って頂けましたらお気に入り登録をしてくださると嬉しいです。 よろしくお願い致します。 ※表紙は『かんたん表紙メーカー』にて作成しています。

【完結】ルームメイト〜僕と彼の関係〜

天白
BL
〜「君は私のルームメイトに合格しました」。そして僕はアイツに押し倒されました〜 生徒会長の皇若菜が僕のルームメイトになってから、順風満帆になるはずだった高校生ライフはあっさりと閉ざされてしまった。 平凡の僕にはお似合いの、平凡な人生望んでたはずなのに…… 「どうしてこうなった!?」 果たして僕に、アイツをぎゃふんと言わせる日はやって来るのだろうか? ※他投稿サイト、フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさんにて公開中です。 拙作「奥さまは旦那さまに恋をしました」と世界観がリンクしています。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

処理中です...