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第77話「忘れた記憶」
しおりを挟むふう、と息をつき、目を閉じる。
少し考えてから目を開けて、正座をしている芽依を再び見下ろした。
「とりあえず、2ヶ月連絡禁止ね。それでも芽依くんの態度がおかしかったら、友達やめるわ」
「エッ、!?」
「距離を置く」に賛成した芽依に対して、鷹夜はそう突き付けた。
2ヶ月と言う期間は鷹夜的に冷却するならそれくらい空けた方がいいだろうと考えたからだ。
お互いを忘れる時間ができるくらい空けて冷ませば、もっと冷静に距離感を考えながら友人として付き合っていけるだろうと踏んだのだ。
「それくらいのことしたろ、さっき。それにサエさんに申し訳ないと思えよ、普通に浮気だし」
「う、」
「分かったな」
「、、はい」
もごもごと口を動かしながら、芽依は弱く答えた。
困惑している芽依と冷静な鷹夜。
だがどちらも、この状況を打開する手立ては思いつかない。
やはり距離を置くのが最適なようだった。
「鷹夜くん本当にごめん、、、俺のこと許してくれる?」
芽依は絶望したような暗く重たい声を出して、見上げた先の鷹夜に言った。
彼の中で、鷹夜と言う存在がどうしても諦められず、せめて離れる前に許して欲しいと思ったのだ。
2ヶ月後にもう一度会えたとき、彼に相応しい人間になって、また一緒にカフェに行ったり公園でふざけたりできるように。
「今は許すよ~、正直駒井の方がすんごいキスしてきたし。あのくらいは平気。気持ち悪いけど」
「ちょッ、こ、駒井さんとどんなキスしたの!?いや、そこに興味持つのも嫉妬するのもおかしいのは分かるけど、クッ、くそ、!!」
「何言ってんだお前」
まだ色々と整理が出来ていない頭のせいで、芽依はとっ散らかった事を言い始める。
やはり嫉妬と言う感情が大きかった。
「許すけどさ、芽依くん」
「あ、はい、、」
悔しがり、嫉妬を始めた芽依を見つめて、鷹夜はどこか呆れたような、少し諦めたような冷たい声を出した。
先程の柔らかい顔と違って、無表情で。
「今後のことも考えて言っとく。サエさんのためにも、ジェンくんがいなくなってあいた、穴?とか言うのは、自分で塞げよ」
「え、」
「人で埋めようとするからダメなんだよ。自立しろ」
芽依の豹変具合やおかしな言動を見て、聞いて、鷹夜は忘れていた1人の人間の事を思い出していた。
「、、俺さあ、今田よりも前にいた後輩にストーカーされてたんだわ」
「えっ、?」
それは鷹夜にとってはもう関係のない人間の話しであり、忘れていたもので、芽依にとっては知らない、聞いた事のない話しだった。
「1年後輩で、歳は近いし気も合うし、一緒にいてとにかく楽しくて。最高の友達で、俺を支えてくれる最高の男だった」
懐かしむ色は表情には滲まず、ただ淡々と語られていく。
午前0時13分。
鷹夜はもうそろそろ眠らないと、明日の朝が辛くなる時間帯だ。
「上司、、上野さんね。上野さんからどんなに理不尽な説教されても、クライアントに無理言われて3日泊まり込んで残業とかになっても、心配してくれたり、飯とか、体調崩したらスポドリとか栄養剤とかめっちゃ買って来てくれて、本当に助けられた」
そう言えば、熱湯だけ入れた状態の風呂は冷めてしまっただろうか。
湯船の蓋すらない鷹夜の家では、風呂は入れたらすぐ入るのが基本だった。
「今でも感謝してる。あの頃にあいつがいたから俺が生きていられる。毎日キラキラして楽しかった。残業明けに行く映画とか最高だった」
思い出せる光景は、笑い合う自分と後輩、それから駒井に羽瀬、他の先輩達。
よく飲みに行った仲間の中にも、無論その後輩は入っていた。
あの頃は景色が鮮やかだった。
どんなに疲れても、疲れを吹き飛ばすくらい一緒に笑える彼がいたからだ。
「でもある日ね」
鷹夜の声は一層暗くなる。
その眩しい光景が終わると、頭の中に蘇るのはどれもこれも不愉快で気持ちの悪いものばかり。
思い出さないようにして忘れていた、頭の奥に隠しておいた記憶達だ。
「ズレたんだ」
鷹夜はあのときすでに、人間が裏切ると言う事を知った。
だからこそ、日和と別れる事になったときも何日か泣くだけですぐに立ち直れたのだ。
人は裏切る。
でも、自分のように裏切らない人間を探せばいいのだと彼にはすぐに理解できたからだ。
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