103 / 142
第103話「2人の速度」
しおりを挟む芽依が真剣だからこそ、鷹夜だって考えたかったのだ。
この先の自分の人生と彼の人生を絡めても、彼が生きていけるかどうか。
自分が途中で子供が欲しくなっても、産んでくれる相手はいないこと。
お互いの家族にかける迷惑や、芽依の職業について。
「、、、」
不安なのだ。
人の人生を背負う事は、それなりに楽しく、そしてそれなりに恐ろしいから。
「芽依くん」
「、、、」
「もうちょっとだけだから、許して」
顔を上げた芽依に見えたのは、少し疲れている大人の男が柔く笑った優しい笑顔だった。
「、、鷹夜くんが好き」
「うん」
「もっかいちゅーしたい」
「え」
いつもは自分より高い位置にある芽依の視線が、今は上目遣いでそこにある。
それだけで、ドク、ドク、とまた胸が高鳴っていく。
辺りに人はいない。
遠くで犬の鳴き声と、別の方向からは海猫の鳴き声がするだけだ。
「、、いいよ。ちょっとだけな」
鷹夜の答えが意外だったのか、芽依は一瞬驚いた顔をした。
その後すぐに身体を起こし、彼に近づいて座り直すと、鷹夜の肩に額を押し付ける。
ガードの緩い鷹夜に、今日は浮かれさせられる事ばかり言われている。
「好きだよ」
「、、うん」
肩に置かれた頭を優しく撫でるとサラサラした髪が風で揺れ、鷹夜は芽依の何もかもが美しく見えて目を細めた。
「好きだ」
芽依は胸に溜まり続ける鷹夜への想いを口から垂れ流して、彼の肩に頭を預けたまま、俯いてコンクリートを見つめている。
(悩むよね、怖いよね)
先程のキスが忘れられない。
けれどそれをまた許してくれる鷹夜が怖がっている大きなものも、理解できる。
この国ではまだまだ認めて貰えない、自分達の将来や日常に大きく関わる性別と恋愛観を。
(俺はとにかく好きだからってこうやって言えるけど、鷹夜くんはそうじゃない。分かってる。そういう真面目なところも全部好きだから、ちゃんと待てる)
絡めた指先の熱を確かめ合っていた。
(こんなに良いところで育って、兄妹や家族に愛されて、優しい人達に囲まれていたから、鷹夜くんは真っ直ぐで怖いくらい優しくて誠実なんだ)
鷹夜が歩んでいるのは、芽依と比べればありきたりな人生だ。
けれど、特別ではなくても、鷹夜は人に優しい。
周りに優しくしてもらった分、人に優しくできる。
彼の中ではそれが当たり前で、常識になっているからだ。
(そっか、だから俺は鷹夜くんが好きなんだ)
鷹夜なら自分を大切にしてくれる。
そう確信できるからこその「好き」や「ときめき」だったんだ、と芽依は触れていた手をギュッと握った。
そうしてくれると分かるから、それを返せる自分になろうと思えたのだ。
「綺麗で可愛い女の子が欲しいんじゃないよ」
今度は芽依がポツポツと小さな声で彼に話し始めた。
「えっちしたいから、キスしたいから人と付き合うんじゃない」
どんなに自分が彼を好きかを、心を込めて言葉にした。
「鷹夜くんだから好きだ。貴方だからキスがしたい」
「っ、、」
顔を上げた芽依の視線は、やはり淀みがなく澄んでいて真っ直ぐだった。
彼らしい純粋な恋心が込められた、愛しいものを見る瞳だ。
「キス、していい?」
「、、うん」
鷹夜がゆっくり目を閉じると、近付いた芽依の唇が柔らかくそこに触れた。
(愛してくれてるんだなあ)
鷹夜は胸が温かくて、あまりにもキスが優しくて、少し泣きそうだった。
(愛してもらえるんだなあ、こんな俺でも)
10年ぶりくらいだ。
こんなにゆっくり恋に落ちて行くのは。
こんなにゆっくり、人に愛されるのは。
0
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
僕がそばにいる理由
腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。
そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。
しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。
束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。
愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】ルームメイト〜僕と彼の関係〜
天白
BL
〜「君は私のルームメイトに合格しました」。そして僕はアイツに押し倒されました〜
生徒会長の皇若菜が僕のルームメイトになってから、順風満帆になるはずだった高校生ライフはあっさりと閉ざされてしまった。
平凡の僕にはお似合いの、平凡な人生望んでたはずなのに……
「どうしてこうなった!?」
果たして僕に、アイツをぎゃふんと言わせる日はやって来るのだろうか?
※他投稿サイト、フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさんにて公開中です。
拙作「奥さまは旦那さまに恋をしました」と世界観がリンクしています。
月兎
宮成 亜枇
BL
代々医者というアルファの家系に生まれ、成績優秀な入江朔夜は、自らをアルファだと信じて疑わなかった。
そうして、十五歳の誕生日を迎え行われた、もう一つの性を判定する検査。
その結果は──『オメガ』。
突きつけられた結果に呆然とする彼に、両親は朔夜に別の場所で生活する事を提案する。
アルファである両親はもちろん、兄弟にも影響が及ぶ前に。
納得のいかない彼ではあったが、従うしかなかった。
”オメガバース”
男女とは違うもう一つの性。
本来の性別よりも、厄介なもの。
オメガという判定を受けた朔夜と、小さい頃からの幼馴染みである、鷲尾一真、そして、水無瀬秀。
彼らはもう一つの性に翻弄されながらも、成長していく。
・
こちらは、『女王蜂』の一真と朔夜の中学生〜高校生にかけての物語です。
ストーリー重視のため、過激な描写はあまり(ほとんど?)ありませんが、中学生×中学生のシーンがありますのでご了承ください。
また、こちらの更新は不定期になりますので、もし興味を持って頂けましたらお気に入り登録をしてくださると嬉しいです。
よろしくお願い致します。
※表紙は『かんたん表紙メーカー』にて作成しています。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる