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第一話「喫茶ニシキノへようこそ」
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「ここのバイトで働かせてください!」
主人公…北条麦ほうじょう むぎは喫茶店『ニシキノ』を入店するやいなや頭を下げた。
ここは古くからある喫茶店。今の女子高生は緑の女神が描かれたチェーン店にしか興味無いのだろうが、『喫茶ニシキノ』だって負けてない。
〇〇駅から徒歩二分。繁華街にひっそりと顔を出すレンガ造りのレトロな建物が目印だ。
ドアチャイムがお出迎えしてくれる店内に入ると珈琲の香りが嗅覚を刺激した。
カウンター席八席。テーブル席二十席とやや狭い空間だが、黄金色の光を放つシャンデリアや壁に貼られた謎の絵画が昭和の面影を感じさせてくれる。
今店内には子連れと六十ぐらいの男の三人。
彼らお客には大変申し訳ないのだが、もう一度大きな声を出させてもらう。
彼女は客として入店したわけではない。
「お願いします!働きたいんです!」
麦は名の通り小麦色の髪をポニーテールに纏めており、制服である女子校「私立快慶門前高校」だと一目で分かる深緑色のジャケットを着こなしていた。
「ごめんね。ここはアルバイト募集してないの」
麦の申し出に深緑色の三つ編みの店員は申し訳なさそうに断る。髪色と似た緑色の喫茶店制服を着こなしていた優しそうな女性だ。
「えぇ!?そうなんですか!」
しかし、この返答は予測できていた。
ここに来る前からちゃんとネットで調べて「バイトは募集していない」ことは分かっていたのだ。
「張り紙も貼ってないし…ネット?とかでも募集していないんだけど…」
とりあえずお茶でもどう?と優しい声をかけられたが、もう一度言う。麦は客として来たわけではない。
「すいません!ここで働かせてくれませんか?」
勢い良く頭を下げて頼み込んだ。
きっと相手は迷惑そうな顔をしているのだろう。そんなことを考えてしまっては顔が上げれない。
「そう言われても…」
「緑さん。いいよ」
すると、三つ編み店員の背後から一人の少女がやってきた。
「モモちゃん…いいの?アルバイトは取りたくないって言ってたのにどうして?」
栗毛をボーイッシュなショート整えた女子高生がオーダー表片手に言葉を紡ぐ。
「その子先週から毎日頼みに来てんの。私の学校まで着いてきて何回も…もう折れたよ。入れてあげ…
「本当ですか!」
モモちゃんという名前らしき少女が語尾をむかえる前に反応する麦。
次の言葉は「ありがとうございます!ありがとうございます!」でいっぱいだった。
「でも、一つ条件がある」
「ん?」
翌日
いつも学校終わりは自宅に直結だったが、彼女には居場所がある。
放課後自撮りを楽しんだり、ゲームに夢中になっているクラスメイトをおいて、一番に駆け出た教室。
その足取りはいつもより軽かった。
しかし、
「お客役ってどーいうことですか!」
麦は念願の『喫茶ニシキノ』でのアルバイト店員になることを果たした。
だが、彼女が得た役割はお客様役だった。
「麦ちゃん。店内では静かにお願いね」
喫茶店の椅子に腰をかけながら大声を出す後輩に注意をする少女は、昨日バイトを申し込んだ三つ編みのスタッフだ。
「あ、ごめんなさい…緑さん」
緑と呼ばれた少女…宇治寺緑うじでら みどりはニコッと微笑む。
まだ営業は始まってはおらず、店内には麦と緑と調理係一人…そして、店長のモモだけだ。
「ワガママ言わないの。お客様役も大事なのよ!」
突然声を上げた麦に釣られてやってきた二色乃にしきのモモは「これしか残ってないんだから」と言葉を続ける。
「で、でも、お客様はあんまりです!何とかしてください!店長ぉ~」
店長と言ってもモモはまだ高校二年生。高校一年の麦と一歳しか変わらない。
正直、女子高生が喫茶店を持っていることに違和感しかないのだが、今はそれどころじゃない!お客様役とはあんまりだ!
「仕方がないでしょ!なら、何をしたいのよ?」
「決まってます!コーヒーを作るんです!」
「コーヒーを」「作る…」
自分は小学生相手に話しているのか?
そう錯覚してさしまいそうな発言を受け、モモと緑は二人で言葉を繰り返した。
「ボールスタッフのことかしら?」
「緑さんホールスタッフです」と訂正を挟みつつも、モモは喫茶店のいろはを教える。
「ホールスタッフ・キッチンスタッフ・店長…この三つが喫茶店の役割…あっ!あと、お客様役もね」
「忘れてるじゃないですか!」
「ご、ごめんごめん」
ぷーと頬を膨らませる麦。
冷や汗を流しながらも店員はそれらしく説明を続ける。
「接客だけじゃなく清掃まで行うホールスタッフ
調理や調理補助を担当するキッチンスタッフ
そして、スーパー偉い!店長モモ!
この喫茶店は主に三つでなり立ってるわ!」
「お客様役は何をするんですか~?」
また忘れてるーと唇をとんがらして尋ねる。
「お客様役とはお客様のフリをしてあたかも繁盛しているように見せる仕事よ!学校とかでも言いふらしてね。あの喫茶店いい!って」
「学校?…それは無理です」
「え?何で?」
突然、顔色を暗くする麦に?を浮かべた。
緑だけは何かを察したようで「まぁ、モモちゃんいいじゃない」と彼女なりのフォロー入れる。
麦も場の空気を暗くしてしまったことに申し訳なさを感じ、すぐに話題の矛先を反対へ向けた。
「い、いや、何でもないです…と、というか制服ないじゃないですか!来週には着れますよね?!」
「お客様役は制服ないわよ?従業員の格好してたら可笑しいでしょ?」
「えーーーーーー!!」
本日二度目の絶叫。
モモは耳を塞ぎながら五月蝿い!と言葉を漏らした。
「お、お願いしますよ!私を正式なバイトに入れてください!」
座りながらでは誠意を見せれないと思ったのだろうか。麦は立って店長に向き合う。
「な、何でそんなに必死なのよ?他所を当たればいいでしょ!?」
「ダメです!」
すぐに訂正されてる言葉。
彼女の誠意にモモは圧迫されて、「えっと…」と口をモゴモゴさせる。
「私!昔この喫茶店で飲んだコーヒーの味が忘れられないんです…多分小学二年?生ぐらいだったと思います。
でも、ここ数年ずっと喫茶店閉まってたから行く機会がなかったんですよ…だけど数ヶ月に再開したっていう噂を聞いてやって来たんです!」
「…コーヒー?どんな?」
そう聞き返したモモの表情は至って真面目であった。
「はい!確かに苦いんです!でも、ほんのり甘くて…というか私が惚れたのは味ではなくもっと深い話で心が温まるんです」
「多分店長が店長やる時はなくなってるんだと思うんですけど…」と補足を加えて拙い情報を与える。
いや、違う!と思い出しただけでヨダレが出そうな自分を追い払うように首を横に振った麦。
今伝えたいのは志望動機ではなくここでしか働きたくないという強い意思なのだ。
「確か、おばあちゃんが作ってました!それが忘れられないんです!…って!そうじゃない!私はここで働きたいんです!よろし…
よろしくお願いします!と頭を下げてお願いするつもりだった。しかし、八十度ほど下げた時言葉を被せられてしまう。
「知ってるよ。そのコーヒー」
店長の声が少し寂しさを帯びた調子に変わる。
昔を懐かしむようで、口の端に小さく笑みを作った。
「本当ですか!」
「うん。だって私のばあちゃんの店だもん。ここ」
「喫茶ニシキノ」の店名を見てもらったら分かるようにここの喫茶店はモモの祖母が作った店である。
しかし、祖母はモモが中学生の時に他界。
その後を最近継いだのがモモというわけだ。
だが、女子高生がフルタイムで営業できるはずがなく、今は高校が終わった四時すぎから二十一時頃まで運営している。
「だから、私はこの喫茶店に思い出があるんです!ここでしか働きたいんです!お願いします!」
ガバッと頭を下げる。
強く振りすぎたのか目眩がしそうだ。
五…六…七…八…
八秒経った時、麦は目を開け、店内を見渡した。
誰かさんから聞いたお辞儀は八秒!というルールを守った後、頭を上げたのだが…誰もいない。
「え?」
突然、不安感に包まれた。
店内に差し込む昼下がりの光が何だが不気味で胸の高鳴りを感じる。
「て、店長…み、緑さん…」
バァン!!
刹那、麦の後ろで弾ける音が鳴った。
「きゃっ!」
背後を振り返ると、店長・緑・キッチンスタッフがクラッカーをこちらに向けている。
突然の事だったので、銃口を突きつけられたかのような恐怖の色を顔全体に塗りたくっていた。
「ど、どういう…
「「「麦ちゃんアルバイト合格おめでとう~」」」
理由を聞く間もなくまばらに告げられる「合格」の二文字。
認識した瞬間、麦の両目に水晶のような涙が光った。
「嘘…?」
「嘘じゃないよ、麦ちゃん。ごめんね、試験をしてたの」
「試験…?」
緑から紡がれた試験という言葉に涙を拭きながら尋ねる。
「そう!私はバイトを雇う時いつも試験をするの。本当にこの喫茶店に働きたいかっていう気持ちがあるかどうか…
まぁ、あんたは前から良い意味でしつこかったからいらないかな?って思ったけど伝統行事だから一応ね!」
ウインクをして教えられた説明。
そこに私語を被せたのはキッチンスタッフの一人だった。
「これでも軽い試験だからね~本当はもっと店長の趣味を押し付けられ…
「五月蝿いっ!」
鬼の形相で…しかし、何だが恥ずかしそうに注意するモモ。
キッチンスタッフの少女はベロをチロ!と出した。
「ほ、本当に私バイトできるんですか!?」
「うん。ホールスタッフだけど…いい?」
答えは知っていたが一応尋ねてみる。
「それ、コーヒー出しますか?なら、やります!やらせてください!」
ぺこり!と勢いよく頭を振る。そして、
「よろしくお願いします!」
と挨拶を述べた。
麦の日常はまだ始まったばかり。
「じゃあね~麦!バイバイ~」
「はい!店長!緑さん!さようなら!」
営業終了の午後二十一時。
店先で元気よく手を振りかえす麦は店長達に別れを告げた。
店長ら三人が帰っていく方向を見送りながら、家の方向が一人だけ違うことに少し寂しさを感じる。
「ねぇ、あなたここでバイトしてるの?」
「あったりまえじゃないですか~それもキッチンスタッフですよ~」
ノリで答えてみたが背後から聞こえる声の主を分かってはいない。
誰だ!と振り返るが、すぐさま後悔することになる。
目の前に広がったのはブロンドヘアーの長髪が特徴の少女。檸檬のピン留めを横髪に止めており、寒いのかコートを着ていた。
「それ…快慶門の制服…」
やばい…と麦の脳裏に汗だくの三文字が浮かぶ。
何故なら、快慶門高校はアルバイト禁止だからだ。
主人公…北条麦ほうじょう むぎは喫茶店『ニシキノ』を入店するやいなや頭を下げた。
ここは古くからある喫茶店。今の女子高生は緑の女神が描かれたチェーン店にしか興味無いのだろうが、『喫茶ニシキノ』だって負けてない。
〇〇駅から徒歩二分。繁華街にひっそりと顔を出すレンガ造りのレトロな建物が目印だ。
ドアチャイムがお出迎えしてくれる店内に入ると珈琲の香りが嗅覚を刺激した。
カウンター席八席。テーブル席二十席とやや狭い空間だが、黄金色の光を放つシャンデリアや壁に貼られた謎の絵画が昭和の面影を感じさせてくれる。
今店内には子連れと六十ぐらいの男の三人。
彼らお客には大変申し訳ないのだが、もう一度大きな声を出させてもらう。
彼女は客として入店したわけではない。
「お願いします!働きたいんです!」
麦は名の通り小麦色の髪をポニーテールに纏めており、制服である女子校「私立快慶門前高校」だと一目で分かる深緑色のジャケットを着こなしていた。
「ごめんね。ここはアルバイト募集してないの」
麦の申し出に深緑色の三つ編みの店員は申し訳なさそうに断る。髪色と似た緑色の喫茶店制服を着こなしていた優しそうな女性だ。
「えぇ!?そうなんですか!」
しかし、この返答は予測できていた。
ここに来る前からちゃんとネットで調べて「バイトは募集していない」ことは分かっていたのだ。
「張り紙も貼ってないし…ネット?とかでも募集していないんだけど…」
とりあえずお茶でもどう?と優しい声をかけられたが、もう一度言う。麦は客として来たわけではない。
「すいません!ここで働かせてくれませんか?」
勢い良く頭を下げて頼み込んだ。
きっと相手は迷惑そうな顔をしているのだろう。そんなことを考えてしまっては顔が上げれない。
「そう言われても…」
「緑さん。いいよ」
すると、三つ編み店員の背後から一人の少女がやってきた。
「モモちゃん…いいの?アルバイトは取りたくないって言ってたのにどうして?」
栗毛をボーイッシュなショート整えた女子高生がオーダー表片手に言葉を紡ぐ。
「その子先週から毎日頼みに来てんの。私の学校まで着いてきて何回も…もう折れたよ。入れてあげ…
「本当ですか!」
モモちゃんという名前らしき少女が語尾をむかえる前に反応する麦。
次の言葉は「ありがとうございます!ありがとうございます!」でいっぱいだった。
「でも、一つ条件がある」
「ん?」
翌日
いつも学校終わりは自宅に直結だったが、彼女には居場所がある。
放課後自撮りを楽しんだり、ゲームに夢中になっているクラスメイトをおいて、一番に駆け出た教室。
その足取りはいつもより軽かった。
しかし、
「お客役ってどーいうことですか!」
麦は念願の『喫茶ニシキノ』でのアルバイト店員になることを果たした。
だが、彼女が得た役割はお客様役だった。
「麦ちゃん。店内では静かにお願いね」
喫茶店の椅子に腰をかけながら大声を出す後輩に注意をする少女は、昨日バイトを申し込んだ三つ編みのスタッフだ。
「あ、ごめんなさい…緑さん」
緑と呼ばれた少女…宇治寺緑うじでら みどりはニコッと微笑む。
まだ営業は始まってはおらず、店内には麦と緑と調理係一人…そして、店長のモモだけだ。
「ワガママ言わないの。お客様役も大事なのよ!」
突然声を上げた麦に釣られてやってきた二色乃にしきのモモは「これしか残ってないんだから」と言葉を続ける。
「で、でも、お客様はあんまりです!何とかしてください!店長ぉ~」
店長と言ってもモモはまだ高校二年生。高校一年の麦と一歳しか変わらない。
正直、女子高生が喫茶店を持っていることに違和感しかないのだが、今はそれどころじゃない!お客様役とはあんまりだ!
「仕方がないでしょ!なら、何をしたいのよ?」
「決まってます!コーヒーを作るんです!」
「コーヒーを」「作る…」
自分は小学生相手に話しているのか?
そう錯覚してさしまいそうな発言を受け、モモと緑は二人で言葉を繰り返した。
「ボールスタッフのことかしら?」
「緑さんホールスタッフです」と訂正を挟みつつも、モモは喫茶店のいろはを教える。
「ホールスタッフ・キッチンスタッフ・店長…この三つが喫茶店の役割…あっ!あと、お客様役もね」
「忘れてるじゃないですか!」
「ご、ごめんごめん」
ぷーと頬を膨らませる麦。
冷や汗を流しながらも店員はそれらしく説明を続ける。
「接客だけじゃなく清掃まで行うホールスタッフ
調理や調理補助を担当するキッチンスタッフ
そして、スーパー偉い!店長モモ!
この喫茶店は主に三つでなり立ってるわ!」
「お客様役は何をするんですか~?」
また忘れてるーと唇をとんがらして尋ねる。
「お客様役とはお客様のフリをしてあたかも繁盛しているように見せる仕事よ!学校とかでも言いふらしてね。あの喫茶店いい!って」
「学校?…それは無理です」
「え?何で?」
突然、顔色を暗くする麦に?を浮かべた。
緑だけは何かを察したようで「まぁ、モモちゃんいいじゃない」と彼女なりのフォロー入れる。
麦も場の空気を暗くしてしまったことに申し訳なさを感じ、すぐに話題の矛先を反対へ向けた。
「い、いや、何でもないです…と、というか制服ないじゃないですか!来週には着れますよね?!」
「お客様役は制服ないわよ?従業員の格好してたら可笑しいでしょ?」
「えーーーーーー!!」
本日二度目の絶叫。
モモは耳を塞ぎながら五月蝿い!と言葉を漏らした。
「お、お願いしますよ!私を正式なバイトに入れてください!」
座りながらでは誠意を見せれないと思ったのだろうか。麦は立って店長に向き合う。
「な、何でそんなに必死なのよ?他所を当たればいいでしょ!?」
「ダメです!」
すぐに訂正されてる言葉。
彼女の誠意にモモは圧迫されて、「えっと…」と口をモゴモゴさせる。
「私!昔この喫茶店で飲んだコーヒーの味が忘れられないんです…多分小学二年?生ぐらいだったと思います。
でも、ここ数年ずっと喫茶店閉まってたから行く機会がなかったんですよ…だけど数ヶ月に再開したっていう噂を聞いてやって来たんです!」
「…コーヒー?どんな?」
そう聞き返したモモの表情は至って真面目であった。
「はい!確かに苦いんです!でも、ほんのり甘くて…というか私が惚れたのは味ではなくもっと深い話で心が温まるんです」
「多分店長が店長やる時はなくなってるんだと思うんですけど…」と補足を加えて拙い情報を与える。
いや、違う!と思い出しただけでヨダレが出そうな自分を追い払うように首を横に振った麦。
今伝えたいのは志望動機ではなくここでしか働きたくないという強い意思なのだ。
「確か、おばあちゃんが作ってました!それが忘れられないんです!…って!そうじゃない!私はここで働きたいんです!よろし…
よろしくお願いします!と頭を下げてお願いするつもりだった。しかし、八十度ほど下げた時言葉を被せられてしまう。
「知ってるよ。そのコーヒー」
店長の声が少し寂しさを帯びた調子に変わる。
昔を懐かしむようで、口の端に小さく笑みを作った。
「本当ですか!」
「うん。だって私のばあちゃんの店だもん。ここ」
「喫茶ニシキノ」の店名を見てもらったら分かるようにここの喫茶店はモモの祖母が作った店である。
しかし、祖母はモモが中学生の時に他界。
その後を最近継いだのがモモというわけだ。
だが、女子高生がフルタイムで営業できるはずがなく、今は高校が終わった四時すぎから二十一時頃まで運営している。
「だから、私はこの喫茶店に思い出があるんです!ここでしか働きたいんです!お願いします!」
ガバッと頭を下げる。
強く振りすぎたのか目眩がしそうだ。
五…六…七…八…
八秒経った時、麦は目を開け、店内を見渡した。
誰かさんから聞いたお辞儀は八秒!というルールを守った後、頭を上げたのだが…誰もいない。
「え?」
突然、不安感に包まれた。
店内に差し込む昼下がりの光が何だが不気味で胸の高鳴りを感じる。
「て、店長…み、緑さん…」
バァン!!
刹那、麦の後ろで弾ける音が鳴った。
「きゃっ!」
背後を振り返ると、店長・緑・キッチンスタッフがクラッカーをこちらに向けている。
突然の事だったので、銃口を突きつけられたかのような恐怖の色を顔全体に塗りたくっていた。
「ど、どういう…
「「「麦ちゃんアルバイト合格おめでとう~」」」
理由を聞く間もなくまばらに告げられる「合格」の二文字。
認識した瞬間、麦の両目に水晶のような涙が光った。
「嘘…?」
「嘘じゃないよ、麦ちゃん。ごめんね、試験をしてたの」
「試験…?」
緑から紡がれた試験という言葉に涙を拭きながら尋ねる。
「そう!私はバイトを雇う時いつも試験をするの。本当にこの喫茶店に働きたいかっていう気持ちがあるかどうか…
まぁ、あんたは前から良い意味でしつこかったからいらないかな?って思ったけど伝統行事だから一応ね!」
ウインクをして教えられた説明。
そこに私語を被せたのはキッチンスタッフの一人だった。
「これでも軽い試験だからね~本当はもっと店長の趣味を押し付けられ…
「五月蝿いっ!」
鬼の形相で…しかし、何だが恥ずかしそうに注意するモモ。
キッチンスタッフの少女はベロをチロ!と出した。
「ほ、本当に私バイトできるんですか!?」
「うん。ホールスタッフだけど…いい?」
答えは知っていたが一応尋ねてみる。
「それ、コーヒー出しますか?なら、やります!やらせてください!」
ぺこり!と勢いよく頭を振る。そして、
「よろしくお願いします!」
と挨拶を述べた。
麦の日常はまだ始まったばかり。
「じゃあね~麦!バイバイ~」
「はい!店長!緑さん!さようなら!」
営業終了の午後二十一時。
店先で元気よく手を振りかえす麦は店長達に別れを告げた。
店長ら三人が帰っていく方向を見送りながら、家の方向が一人だけ違うことに少し寂しさを感じる。
「ねぇ、あなたここでバイトしてるの?」
「あったりまえじゃないですか~それもキッチンスタッフですよ~」
ノリで答えてみたが背後から聞こえる声の主を分かってはいない。
誰だ!と振り返るが、すぐさま後悔することになる。
目の前に広がったのはブロンドヘアーの長髪が特徴の少女。檸檬のピン留めを横髪に止めており、寒いのかコートを着ていた。
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