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第三話「野望を抱け!檸檬ちゃん!」
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「停学処分!?どういうことですか!」
「どういうことって自覚がないのか!?」
正直、退学じゃなくて良かったと胸を撫で下ろす自分がいた。
しかし、停学処分という四文字でも学生生活に多大なる影響を与える。
特にクラスメイトからの評判は最悪であろう。皆優しい印象を受けるが、影ではコソコソ言われてるに違いない。
(終わった…私の学校生活…)
まだ、高校生活が始まってからたったの二ヶ月。
三年間の在籍と計算すると初めの二ヶ月などまだ始まってすらいないことになるのかもしれない。
「本当にそれ…私であってます?」
おどけた振りをして尋ねてみる。
発話直後に生まれたのは言うまでもない。
「北条!惚けるな!お前は一昨日萌木檸檬をストーキングしたとの通報が入ったのだ」
「!」
驚きのあまり言葉が出ない。
確かに麦と檸檬は友達でもないのに帰り道の一時間以上を一緒に過ごしていた。
麦もそうだが檸檬が気まづそうな表情をしていたのはそういうことなのか…
自分を必要以上にストーキングしてくる麦を心底気持ち悪がっていたのだろう。
「ち、違います!勘違いです!」
麦は泣きそうな目で訴えた。
バイトで停学は受け入れられても、やってもないストーキング行為は納得できない。
免罪なのだ!これは!
「…」
「先生!…お願いします…」
校長は言葉を失う。握り締められた震える右手を見つめ、数秒経った後、掠れた声でこう言った。
「お前に悪意があったとか否は関係ないのだ…悪いが北条これは取り消せないんだ…!」
「…」
「…」
「分かりました…」
何かを訴えるような瞳から「何か巨大な権力が関わってる」と感じ取った麦は処分を受け入れた。
出来れば自分を守って欲しいが、確かに“この学校に未練はない"
「し、失礼します…」
店長にはなんて言おう。緑さんには?紅花ちゃんには?
本当のことを言っていいんだろうか?だが、学校で起こったことなど一々話さなくてもいいのではないか。
現に今まで時事ネタが話題にあがっても学校のことを話す人は少ない。
大丈夫…隠し通せる。あの子が言わない限り…
ガラガラと横に滑らせた引き戸がグレーの廊下とポスターだらけの壁を視界に入れさせる。
そこにはもう一つ描写しなければいけないものがいた。
檸檬だ。煽りに来たのだろうか?壁に持たれて腕組みして麦をずっと待っていたようだ。
鈍感と言われる麦だが、彼女を笑顔で見れる程の広いこころは持っていない。
少し顔を顰めながら、前を通り過ぎる。
「勘違いしないでね…私が言いつけたわけじゃないから」
数歩進んだところで背中が檸檬の声を受け止める。
ごめんと謝られても「いいよ」の言葉は出てこないが、彼女の台詞に振り返らずにはいられなかった。
「え?どういうこと?」
「あなたの実家の方向が一緒だってことは分かってる…でも、私の父親がそれを許さないの!」
自分は悪くないという主張が感じられる一文。
萌木とはここの快慶門高校の理事長の名前だ。
成程と、校長が苦しそうな顔をしていたのも納得がいく。
と、同時に入学式の時に偉そうにふんぞり返っていた老人を思い出す。
緊張するあまり入場する際、派手に転けてしまった麦を睨む二つの双眸が正しく彼のものだった。
「私は理事長の娘だから正直アルバイトぐらいバレても問題ないわ。だから、教師に言いつけても無駄だから」
本当にそうなのだろうか?震える声で紡がれる言葉に心配してしまう。
「…その…もしも、あなたがアルバイトをやっているってことがバレても私を疑わないでね」
「う、うん」
嘘だ。真っ先に疑う自信があった。
しかし、この言葉を裏を返せば「アルバイトのことはチクらない」とも読み取ることが出来る。
「本当に言わないでくれるの?」
「うん。私もあの喫茶店に居続けたいから」
少し怖い顔をしてしまったのか、檸檬は表情をこわばらせた。
第一印象はここだけの話、人の不幸が好きそうな嫌な子だったが、意外と臆病なのかもしれない。
そんな憶測を立てられているとは知らずに、檸檬は目線をズラしながらこう言った。
「あの喫茶店に入るの…大変だったから」
「あなたも好きなの!?」
今度はパァと弾けた笑顔を映す麦。喫茶店話題でここまで喜怒哀楽を変えれる人物がいるだろうか。
「違うわ…私は…」
異常な執着を見せる麦とは一緒にされたくない!と言わんばかりに口を一生懸命動かす。
その答えは一緒にされるどころか、真反対の意図を持っていた。
「あの喫茶店を私は潰したいのよ!」
「な…!何でそんなこと言うの!?」
やっぱり悪役だ!
可愛らしい顔をしているが、今は黒い角と尻尾が生えたブロンドヘアの悪魔のように見えてくる。
「喫茶ニシキノを乗っ取って私は世界を変える…!この世界を良い意味で征服するのよ!この退屈な世界を!」
「…」
(え…)
突然明かされた野望に言葉が出てこない。
停学処分になった麦を元気づけたいのか、それとも本気で思っているのか。現状況で断言は出来ないが、一つ分かっているのはことはドン引きが顔に出ていたようだ。檸檬は真顔で口を動かす。
「嘘みたいだけど本心なの。世界平和っていいことでしょ?だから、潜入捜査のためにアルバイトをしている」
「な、なんで喫茶ニシキノから…なの?」
これならまだヒーローごっこの方が筋が通っている。幼い頃飲んだニシキノのコーヒーの味には確かに舌を唸らされたが、=世界征服には成り立たない。
モモの祖母は世界を支配する魔王だったりするのだろうか。
「約束したの…昔に友達と」
「友達…?」
と、麦は尋ね返したが、その後に言葉は続かなかった。寂しそうな表情で俯いており、これ以上の言及は控えて欲しい…そう訴えてるようだった。
「わ、分かった」
授業開始まであと数分。停学処分を受けたが、授業をサボるにも午後からではないと家の鍵が空いていないので、最低でも昼休みまでここに居続けなければいけないのだ。
じゃあ、教室戻るね。と言い、その場から立ち去ろうとするが、またもや背中に声が投げられる。
「絶対…誰にも言わないから…!」
世界平和を唱えるに相応しくない怖い顔つきだったが、その瞳には確かな正義の色が浮かんでいた。
放課後 某スーパーマーケット
六月に入ったばかりなのに季節は最早夏だ。
ギンギンに照らしつけてくる太陽から解放してくれるこの場所は…スーパーマーケット。
ちょうどいい温度に調節されたクーラーが額の汗を乾かしてくれ、汗で濡れた服に不快感を与えさせる。
「麦?買い出しに行ってきてくれる?」
「は、はい!」
そんな二行から買い出しを承諾したが、初めての経験故緊張感が隠しきれない。
間違ったものは買ってないだろうか。
出来るだけ安いのをえらんだ方がいいのだろうか。
果物の善し悪しは?より美味しい特徴を見分けられない麦はおつかいメモを持つ手が震えていることに気づく。
「え、えーと…まず牛乳パックが二個…ってどれを選んだらいいんだろ?」
うまい牛乳か林永の牛乳か、はたまた特濃ミルクなのか…同じなのはパックの背丈だけで、名前も色も牛の写真さえも異なる選択肢に頭を悩ませるばかりだ。
牛乳コーナーの前で一人首を捻っていると、背後からお客の気配を感じ取る。
「あ、ごめんなさい」
すぐさま謝罪を述べ場所を譲る。
麦と同じ快慶門高校の制服を着ていた女子高生は細い手で「濃い!白い牛さんのみるく」を牛乳パックの行列から抜きとった。
伸ばされた手から甘酸っぱい香りが鼻を刺激する。
それが人気なのか~と横目で観察しているとふと違和感が全身に走った。
金髪ロングに快慶門の制服…その人物に麦は見覚えがあったのだ。
「れ、檸檬ちゃん!?」
「!」
後ろから押されたような驚きを表す少女は紛れもなく萌木檸檬(もえぎれもん)だった。
目をパチパチと二回動かして、手に持っていた買い物カゴを落としそうになる。
「檸檬ちゃん…どうしてここに」
「…」
答えたくないのか一向に口を開かない檸檬。
すると、どういうわけかニヤリと笑って突然麦に抱きついた。
ガン!と買い物カゴを雑に置き、檸檬の香りがする両腕を麦の横に回す。
「ちょっ!檸檬ちゃんっ!?」
初めての経験に心臓が興奮するように高鳴った。
ドクン…!ドクン…!なんかじゃ表現できない。爆発音のような鼓動が全身を煽るように鳴り、顔を紅潮させていく。
数十秒後、人目をスポットライトにハグから解放された麦は後ずさりをして口を開いた。
「檸檬ちゃん…なんで…?」
突然始まったラブコメに戸惑いを隠せない麦とは対照的に頬を染めることもないまま口の端に笑みを浮かべていた。
分かりやすく照れている麦を楽しんでいるのか口角をあげ、何も無かったかのように買い物カゴを手にとって立ち去っていく。
「ちょっと!どこ行くの?」
乙女心をもてはやさないで欲しいものだ。
相手が例え停学処分を背負わされた元凶だといえど、突然抱きつかれてしまったら緊張してしまう。
別に行く先が気になった訳では無いが、突然ハグした理由を聞かせて欲しかった麦は呼び止めようと声をかけた。
「ちょっ!ちょっと!待ってよ!檸檬ちゃん!」
「…」
だが、彼女は何も言わない。その代わりに面白いものを見せてくれた。
ふふっと小さく笑うと、後ろに回していた手を前に出す。
「…これは…」
小さな掌に乗っていたのは赤色のダサい財布だ。手の上で野球ボールのように飛び跳ねている。
勘違いして欲しくないのは、これを選んだのは麦ではない。お使いを頼んだモモの私物だ。
「えっ!何で!そこに…!」
急いで制服ジャケットのポケットを確認する。さっきまで違和感を演出していた膨らみがない。
(スられた!)と思考が漸く正解を導く。
抱きついた時に盗んだことは言うまでもない。
檸檬はチロと舌を出して、自慢げに見せつけた一枚のメモをひらひら揺らした。
牛乳 二本
いちご 三パック
卵 四パック
生クリーム 二個…
これだけ見ればケーキ屋さんみたいだが、喫茶ニシキノの運営に欠かせない材料達なのだ。
メモは良しとしても財布は勘弁して欲しい。それは自分の金ではなくモモのものなのだから。
「か、返してよ!私今お金もってないんだから!」
萌木檸檬は悪魔だ!魔王だ!
世界征服?悪い意味で言っているに違いない!
檸檬への印象が180度変わった途端、盗られた財布を取り返そうと手が伸びていた。
しかし、掌には何かを掴んだような感覚はない。空を切るだけだ。
べ~と最後に煽るような表情を作ると、そのまま一目散に駆け出す檸檬。
「あっ!待って!」
その場に苺と生クリームが幾つか入った買い物カゴを置き、金髪を流しながら逃げる少女を追った。
「お客様!走ってはいけません!」と店員の声が聞こえたような気がした。
が、速めた足は止まることを知らない。
ただ一人の人影を捕まえるべく一歩二歩と前に出された。
「で、何でこんなことしたの?」
運動神経に自信が無い麦だが、相手はが運動不足なことが不幸中な幸いだった。
走り始めて僅か三分。あっさり手を掴まれてしまった檸檬はお菓子売り場の前で不貞腐れた顔をする。
「…」
「き、聞いてるの?」
「…」
「檸檬ちゃんってば!…
数十分後
「ただいま買い出し戻りました!」
「遅い!麦!」
檸檬に財布を返してもらった麦は彼女と喫茶店に戻っていた。
時刻は四時すぎ。既に喫茶店は営業していたが、客は一人もおらず、女子高生だけの空間が展開されている。
「っていうか、君たち二人で仲良く何やってさのは~…ま、まぁ、別に僕は嫉妬してるわけじゃないけど」
「買い出し途中で偶然会ったんですよ…あ、店長これ頼まれたもの…「ねぇ、麦
モモは言葉を遮ぎるように口を開く。
店内BGMが止まって聞こえるほど緊張感がピリッとなったのは、迫るような声で紡がれたからだ。
麦…あんた停学処分になったんだってね」
「え!?何で知っているんですか!?」
突然放たれたトップシークレットに思わず、檸檬の方に視界を広げる麦。
相手は違うと首を何度も横に振っていた。
「檸檬じゃないわ。紅花から聞いたのよ」
無罪を証明するかのように吐き出された真犯人の名前。次に紅花が注文を浴びる。
「停学なんて珍しい話モッテモテの僕が見逃さないわけないデショ!まぁ、普通に快慶門の友達から聞いただけなんだけどサ」
「え…」
同学年の紅花なら耳にしても不自然ではないだろう。中学や塾など人脈を築き上げる場はいくらでもある。
「ちょっと待ってください!皆さん!」
声を出したのは意外にも檸檬だった。
緊張に震える声を振り絞り言の葉を並べていく。
「バイトがバレたからではないんです。現に私は父が学校の理事長をやっていて…「そんなことじゃないの」
今度は檸檬が発言を中断される。
窓から差し込んだ夕日に照らされたモモは確かにハッキリとこう言い切った。
「調べなかった私も悪いけど、あなた達クビよ!これ以上バイト禁止の校則があるのに働かせられない!」
「どういうことって自覚がないのか!?」
正直、退学じゃなくて良かったと胸を撫で下ろす自分がいた。
しかし、停学処分という四文字でも学生生活に多大なる影響を与える。
特にクラスメイトからの評判は最悪であろう。皆優しい印象を受けるが、影ではコソコソ言われてるに違いない。
(終わった…私の学校生活…)
まだ、高校生活が始まってからたったの二ヶ月。
三年間の在籍と計算すると初めの二ヶ月などまだ始まってすらいないことになるのかもしれない。
「本当にそれ…私であってます?」
おどけた振りをして尋ねてみる。
発話直後に生まれたのは言うまでもない。
「北条!惚けるな!お前は一昨日萌木檸檬をストーキングしたとの通報が入ったのだ」
「!」
驚きのあまり言葉が出ない。
確かに麦と檸檬は友達でもないのに帰り道の一時間以上を一緒に過ごしていた。
麦もそうだが檸檬が気まづそうな表情をしていたのはそういうことなのか…
自分を必要以上にストーキングしてくる麦を心底気持ち悪がっていたのだろう。
「ち、違います!勘違いです!」
麦は泣きそうな目で訴えた。
バイトで停学は受け入れられても、やってもないストーキング行為は納得できない。
免罪なのだ!これは!
「…」
「先生!…お願いします…」
校長は言葉を失う。握り締められた震える右手を見つめ、数秒経った後、掠れた声でこう言った。
「お前に悪意があったとか否は関係ないのだ…悪いが北条これは取り消せないんだ…!」
「…」
「…」
「分かりました…」
何かを訴えるような瞳から「何か巨大な権力が関わってる」と感じ取った麦は処分を受け入れた。
出来れば自分を守って欲しいが、確かに“この学校に未練はない"
「し、失礼します…」
店長にはなんて言おう。緑さんには?紅花ちゃんには?
本当のことを言っていいんだろうか?だが、学校で起こったことなど一々話さなくてもいいのではないか。
現に今まで時事ネタが話題にあがっても学校のことを話す人は少ない。
大丈夫…隠し通せる。あの子が言わない限り…
ガラガラと横に滑らせた引き戸がグレーの廊下とポスターだらけの壁を視界に入れさせる。
そこにはもう一つ描写しなければいけないものがいた。
檸檬だ。煽りに来たのだろうか?壁に持たれて腕組みして麦をずっと待っていたようだ。
鈍感と言われる麦だが、彼女を笑顔で見れる程の広いこころは持っていない。
少し顔を顰めながら、前を通り過ぎる。
「勘違いしないでね…私が言いつけたわけじゃないから」
数歩進んだところで背中が檸檬の声を受け止める。
ごめんと謝られても「いいよ」の言葉は出てこないが、彼女の台詞に振り返らずにはいられなかった。
「え?どういうこと?」
「あなたの実家の方向が一緒だってことは分かってる…でも、私の父親がそれを許さないの!」
自分は悪くないという主張が感じられる一文。
萌木とはここの快慶門高校の理事長の名前だ。
成程と、校長が苦しそうな顔をしていたのも納得がいく。
と、同時に入学式の時に偉そうにふんぞり返っていた老人を思い出す。
緊張するあまり入場する際、派手に転けてしまった麦を睨む二つの双眸が正しく彼のものだった。
「私は理事長の娘だから正直アルバイトぐらいバレても問題ないわ。だから、教師に言いつけても無駄だから」
本当にそうなのだろうか?震える声で紡がれる言葉に心配してしまう。
「…その…もしも、あなたがアルバイトをやっているってことがバレても私を疑わないでね」
「う、うん」
嘘だ。真っ先に疑う自信があった。
しかし、この言葉を裏を返せば「アルバイトのことはチクらない」とも読み取ることが出来る。
「本当に言わないでくれるの?」
「うん。私もあの喫茶店に居続けたいから」
少し怖い顔をしてしまったのか、檸檬は表情をこわばらせた。
第一印象はここだけの話、人の不幸が好きそうな嫌な子だったが、意外と臆病なのかもしれない。
そんな憶測を立てられているとは知らずに、檸檬は目線をズラしながらこう言った。
「あの喫茶店に入るの…大変だったから」
「あなたも好きなの!?」
今度はパァと弾けた笑顔を映す麦。喫茶店話題でここまで喜怒哀楽を変えれる人物がいるだろうか。
「違うわ…私は…」
異常な執着を見せる麦とは一緒にされたくない!と言わんばかりに口を一生懸命動かす。
その答えは一緒にされるどころか、真反対の意図を持っていた。
「あの喫茶店を私は潰したいのよ!」
「な…!何でそんなこと言うの!?」
やっぱり悪役だ!
可愛らしい顔をしているが、今は黒い角と尻尾が生えたブロンドヘアの悪魔のように見えてくる。
「喫茶ニシキノを乗っ取って私は世界を変える…!この世界を良い意味で征服するのよ!この退屈な世界を!」
「…」
(え…)
突然明かされた野望に言葉が出てこない。
停学処分になった麦を元気づけたいのか、それとも本気で思っているのか。現状況で断言は出来ないが、一つ分かっているのはことはドン引きが顔に出ていたようだ。檸檬は真顔で口を動かす。
「嘘みたいだけど本心なの。世界平和っていいことでしょ?だから、潜入捜査のためにアルバイトをしている」
「な、なんで喫茶ニシキノから…なの?」
これならまだヒーローごっこの方が筋が通っている。幼い頃飲んだニシキノのコーヒーの味には確かに舌を唸らされたが、=世界征服には成り立たない。
モモの祖母は世界を支配する魔王だったりするのだろうか。
「約束したの…昔に友達と」
「友達…?」
と、麦は尋ね返したが、その後に言葉は続かなかった。寂しそうな表情で俯いており、これ以上の言及は控えて欲しい…そう訴えてるようだった。
「わ、分かった」
授業開始まであと数分。停学処分を受けたが、授業をサボるにも午後からではないと家の鍵が空いていないので、最低でも昼休みまでここに居続けなければいけないのだ。
じゃあ、教室戻るね。と言い、その場から立ち去ろうとするが、またもや背中に声が投げられる。
「絶対…誰にも言わないから…!」
世界平和を唱えるに相応しくない怖い顔つきだったが、その瞳には確かな正義の色が浮かんでいた。
放課後 某スーパーマーケット
六月に入ったばかりなのに季節は最早夏だ。
ギンギンに照らしつけてくる太陽から解放してくれるこの場所は…スーパーマーケット。
ちょうどいい温度に調節されたクーラーが額の汗を乾かしてくれ、汗で濡れた服に不快感を与えさせる。
「麦?買い出しに行ってきてくれる?」
「は、はい!」
そんな二行から買い出しを承諾したが、初めての経験故緊張感が隠しきれない。
間違ったものは買ってないだろうか。
出来るだけ安いのをえらんだ方がいいのだろうか。
果物の善し悪しは?より美味しい特徴を見分けられない麦はおつかいメモを持つ手が震えていることに気づく。
「え、えーと…まず牛乳パックが二個…ってどれを選んだらいいんだろ?」
うまい牛乳か林永の牛乳か、はたまた特濃ミルクなのか…同じなのはパックの背丈だけで、名前も色も牛の写真さえも異なる選択肢に頭を悩ませるばかりだ。
牛乳コーナーの前で一人首を捻っていると、背後からお客の気配を感じ取る。
「あ、ごめんなさい」
すぐさま謝罪を述べ場所を譲る。
麦と同じ快慶門高校の制服を着ていた女子高生は細い手で「濃い!白い牛さんのみるく」を牛乳パックの行列から抜きとった。
伸ばされた手から甘酸っぱい香りが鼻を刺激する。
それが人気なのか~と横目で観察しているとふと違和感が全身に走った。
金髪ロングに快慶門の制服…その人物に麦は見覚えがあったのだ。
「れ、檸檬ちゃん!?」
「!」
後ろから押されたような驚きを表す少女は紛れもなく萌木檸檬(もえぎれもん)だった。
目をパチパチと二回動かして、手に持っていた買い物カゴを落としそうになる。
「檸檬ちゃん…どうしてここに」
「…」
答えたくないのか一向に口を開かない檸檬。
すると、どういうわけかニヤリと笑って突然麦に抱きついた。
ガン!と買い物カゴを雑に置き、檸檬の香りがする両腕を麦の横に回す。
「ちょっ!檸檬ちゃんっ!?」
初めての経験に心臓が興奮するように高鳴った。
ドクン…!ドクン…!なんかじゃ表現できない。爆発音のような鼓動が全身を煽るように鳴り、顔を紅潮させていく。
数十秒後、人目をスポットライトにハグから解放された麦は後ずさりをして口を開いた。
「檸檬ちゃん…なんで…?」
突然始まったラブコメに戸惑いを隠せない麦とは対照的に頬を染めることもないまま口の端に笑みを浮かべていた。
分かりやすく照れている麦を楽しんでいるのか口角をあげ、何も無かったかのように買い物カゴを手にとって立ち去っていく。
「ちょっと!どこ行くの?」
乙女心をもてはやさないで欲しいものだ。
相手が例え停学処分を背負わされた元凶だといえど、突然抱きつかれてしまったら緊張してしまう。
別に行く先が気になった訳では無いが、突然ハグした理由を聞かせて欲しかった麦は呼び止めようと声をかけた。
「ちょっ!ちょっと!待ってよ!檸檬ちゃん!」
「…」
だが、彼女は何も言わない。その代わりに面白いものを見せてくれた。
ふふっと小さく笑うと、後ろに回していた手を前に出す。
「…これは…」
小さな掌に乗っていたのは赤色のダサい財布だ。手の上で野球ボールのように飛び跳ねている。
勘違いして欲しくないのは、これを選んだのは麦ではない。お使いを頼んだモモの私物だ。
「えっ!何で!そこに…!」
急いで制服ジャケットのポケットを確認する。さっきまで違和感を演出していた膨らみがない。
(スられた!)と思考が漸く正解を導く。
抱きついた時に盗んだことは言うまでもない。
檸檬はチロと舌を出して、自慢げに見せつけた一枚のメモをひらひら揺らした。
牛乳 二本
いちご 三パック
卵 四パック
生クリーム 二個…
これだけ見ればケーキ屋さんみたいだが、喫茶ニシキノの運営に欠かせない材料達なのだ。
メモは良しとしても財布は勘弁して欲しい。それは自分の金ではなくモモのものなのだから。
「か、返してよ!私今お金もってないんだから!」
萌木檸檬は悪魔だ!魔王だ!
世界征服?悪い意味で言っているに違いない!
檸檬への印象が180度変わった途端、盗られた財布を取り返そうと手が伸びていた。
しかし、掌には何かを掴んだような感覚はない。空を切るだけだ。
べ~と最後に煽るような表情を作ると、そのまま一目散に駆け出す檸檬。
「あっ!待って!」
その場に苺と生クリームが幾つか入った買い物カゴを置き、金髪を流しながら逃げる少女を追った。
「お客様!走ってはいけません!」と店員の声が聞こえたような気がした。
が、速めた足は止まることを知らない。
ただ一人の人影を捕まえるべく一歩二歩と前に出された。
「で、何でこんなことしたの?」
運動神経に自信が無い麦だが、相手はが運動不足なことが不幸中な幸いだった。
走り始めて僅か三分。あっさり手を掴まれてしまった檸檬はお菓子売り場の前で不貞腐れた顔をする。
「…」
「き、聞いてるの?」
「…」
「檸檬ちゃんってば!…
数十分後
「ただいま買い出し戻りました!」
「遅い!麦!」
檸檬に財布を返してもらった麦は彼女と喫茶店に戻っていた。
時刻は四時すぎ。既に喫茶店は営業していたが、客は一人もおらず、女子高生だけの空間が展開されている。
「っていうか、君たち二人で仲良く何やってさのは~…ま、まぁ、別に僕は嫉妬してるわけじゃないけど」
「買い出し途中で偶然会ったんですよ…あ、店長これ頼まれたもの…「ねぇ、麦
モモは言葉を遮ぎるように口を開く。
店内BGMが止まって聞こえるほど緊張感がピリッとなったのは、迫るような声で紡がれたからだ。
麦…あんた停学処分になったんだってね」
「え!?何で知っているんですか!?」
突然放たれたトップシークレットに思わず、檸檬の方に視界を広げる麦。
相手は違うと首を何度も横に振っていた。
「檸檬じゃないわ。紅花から聞いたのよ」
無罪を証明するかのように吐き出された真犯人の名前。次に紅花が注文を浴びる。
「停学なんて珍しい話モッテモテの僕が見逃さないわけないデショ!まぁ、普通に快慶門の友達から聞いただけなんだけどサ」
「え…」
同学年の紅花なら耳にしても不自然ではないだろう。中学や塾など人脈を築き上げる場はいくらでもある。
「ちょっと待ってください!皆さん!」
声を出したのは意外にも檸檬だった。
緊張に震える声を振り絞り言の葉を並べていく。
「バイトがバレたからではないんです。現に私は父が学校の理事長をやっていて…「そんなことじゃないの」
今度は檸檬が発言を中断される。
窓から差し込んだ夕日に照らされたモモは確かにハッキリとこう言い切った。
「調べなかった私も悪いけど、あなた達クビよ!これ以上バイト禁止の校則があるのに働かせられない!」
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