お茶会でお茶しましょ!

田上総介

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第十二話「いちごは秘密を知られたい」

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「ニシキノ(ここ)はおばあちゃんの大事な店なの…」

「だからお願い…犯人なら名乗り出て…」
そう話すモモの瞳には水晶のような涙が輝いていた。

「…」「…」「…」「…」
見ているこっちも心が痛むような大粒の涙に皆無言を貫き通す。
「モモちゃん…犯人って…
「…犯人がいるの!この中に!…裏口から入れる人は裏玄関の鍵を持っている人だけ…鍵を持ち出せるのは喫茶店従業員のみ…だから、私悲しくて…」

一粒また、一粒と涙を流す姿を無言で見つめる従業員達の間に気まずい空気が流れ始めた。

「…えっ…じゃ、じゃあ、ネズミは嘘だったのか…」
「普通に考えて分かるでしょ…」
煽(あお)るような穂乃果の言葉に紅花は珍しく反応しない。モモの涙の効果と言ってもいいだろう。

「ごめん…変なこと言っちゃって…」

「今日はもう帰って…直すの手伝ってくれてありがとう」
「…店長」

意気消沈したモモの背中に声をかえたのは麦。
皆、瞳に悲しげな色をうつして店長を見守っていたが、数分後足を入口へと運んで行った。

カランカランカラン…
ドアチャイムが皆の外出を告げる。

ちゅんちゅんと小鳥が囀(さえず)る午前十一時。
モモは誰もいない薄暗い喫茶店で涙を流すのだった。


数日後


心配し顔を出した喫茶店メンバーや近所の人の手伝いも相まって、いつも通りを取り戻した喫茶店。
しかし、修理し終えたとしても、繁盛(はんじょう)するわけではなく、店内には店長(モモ)と緑の二人しかいなかった。

カランカランカラン
と、そこへ珍しく一人の女性が足を踏み入れる。
「いらっしゃませ…何を…しにきた…の…?
元気よく声をかけ…たつもりだったが、語尾が吸い込まれていくように萎(しぼ)んでいく。

「あなたが店長の二色乃(にしきの)モモさんね…」
「あ、あんたは…」

「モモちゃん。この方はお知り合い…?」
入店してきた黒髪少女を前に沈黙を決めるモモの背後から緑は声を問うた。

「え、えぇ…みるくの姉です」
「えー…お姉様が…!?…何で…

緑の言葉に覆(おお)い被さるようにみるくの姉…いちごは口を開く。
「潜入捜査よ」

「潜入…捜査」
数日前自分が麦達に放った言葉がこんなところで聞くとは思っておらず、力のない声で相手の言葉を繰り返した。

「私が捜査しに来たのは喫茶店(ここ)ではなく、あなたよ」
「…!わ、私ぃ…!?な、なんで?」
自身を指指し、ありえないと聞き返す。

「ねぇ、二色乃(にしきの)さん、私以外誰も客はいないから前に座って話をしましょうよ。私あなたに聞きたいことがたくさんあるの」
「…わ、分かったわ」

「いちごフラペチーノ」を頼み、ストローで喉に押し流すいちご。口の中に苺の甘さが波紋(はもん)のように広がっていく。

「単刀直入に言うわ…

きっとこのあと衝撃的な言葉が放たれるだろう。
衝撃に備え、ゴクリと唾を飲み込んだが、それはすぐに無意味となる。

どうしたら妹(みるく)に嫌われるのかしら」


「…はぁ?」

「嫌われたいのよ。可愛いみるくちゃんに」

聞き間違いではないだろうか。妹(みるく)に好かれたいなら話はまだ分かる。

「…嫌われたいの?」
「そう!嫌われたいの!」
念のため恐る恐る尋ねてみたが、彼女の意見は変わらない。紅潮(こうちょう)した頬を片手で抑えながら口を動かした。

「あー早くバレてしまいたいわ。シスコンでツンデレな私のことを」
「…」
「そして、もっと嫌って欲しい。気持ち悪いと実姉を虐(しい)げて欲しいの!」

完全に言葉を失ったモモ。
黒髪クールビューティの裏の顔は変態ドM女だったとは…あまりのギャップに夢ではないかと目を擦(こす)るが、いちごは変わらず頬を赤めて妹を想っている。

「幼い頃から私に確執を感じているのよ。みるく(あの子)は。話しかけても答えてくれないし、
あの子の布団で寝てても、恥ずかしそうに足先で触れてきたり。
あの子のパンツを履いても、照れ隠しのため青白い顔して何も言わないし…
妹に好かれるのも困るわぁ…早く私の本性を知って、自立してくれないかしら」
(ただ嫌われてるだけなんじゃ)

どうやらいちごの中では妹(みるく)は隠れシスコンであり、姉(いちご)に好意を寄せているのだと思い込んでいるらしい。

本来ならば自分の布団で勝手に寝ている姉を蹴り飛ばしたり、自分のパンツを履(は)く姉に失望しているに違いない。
ショックからの無意識の内に記憶を書き換えているのだろうか、幼い頃からの印象とは逆方向の素性を見せたいちごを前に空いた口が塞(ふさ)がらない。

「それにしても汚い内装ね…みるくから聞いたけど泥棒が入ってたんだって?」

「まぁ、みるくに聞いたと言っても執事を通じて聞いたんだけど」と言葉を続けながら、カップに残っていた「いちごフラペチーノ」に再度口をつけた。

「え、えぇ…というかみるくと話さないの?もう既に嫌われてるんじゃなくて」
「嫌ねぇ…そんな都合の良い話ないでしょ。私の美貌(びぼう)に恐れているだけよ」
(こいつ馬鹿だ)

羨ましくなる程のポジティブ思考。
十数年たってもまだ妹に嫌われる方法を探しているようで、何をどうすればこんな思考回路が生まれるのか不思議で仕方がない。

「で、結局犯人は見つかったの?」
「…一応、犯人探しはしない体でいたいんだけど…」
ここで緑はモモの目の前に気をきかせてカフェモカを用意した。
ありがと、と短い返事を述べると、カップに口をつけ傾ける。
モモの礼を笑顔で返すとせかせかと急いだ足取りで洗い場に向かっていった。

「へぇ…私は大体検討つくけど…」
「!」

何やら興味深いことを言い残したいちごはカップの中の液体を飲み干す。
「ふぅ…」と呑気に寛(くつろ)いでいる相手にモモは口に含んだ液体を吹き出しそうになり、強い語調で問い詰めた。

「だ、誰なの…!?」
大事な祖母の形見である喫茶店を荒らされた犯人は見逃しておけない。
いちごの小さな口元を凝視(ぎょうし)し、飛び出してくる名前を静かに待った。

「ほら〝幼い頃〟から無愛想だったじゃない。あの子…

香坂(こうさか)日向(ひなた)さん…って」
犯人であると睨んでいる名前を口にし、再びコップの中を覗く。しかし、先ほど飲み干してしまったため、残念そうに肩を落とすと、すぐさまメニュー表を取り出し、睨めっこし始めた。

「…」
「ま、まさか、喫茶店ニシキノのメンバーじゃないし…アルバイト不合格だからって店を荒らすのはないでしょう…ア、アハハッ!」

乾いた笑みを口の端に浮かべるモモを大きな瞳にうつすいちご。その目には何かを悟ったような色が浮かんでいた。
そこへみるく似の冷静沈着な声色に乗せた言葉が飛んでくる。

「あなた…犯人を知っているんじゃないの?」
「へ?」
「…それも、香坂さんってことを」
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