優しくしないで

やのつばさ

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 俺も救急車に乗り込み付き添った。

 名前も、年齢も何も知らない。病院で色々聞かれたが、何も答えられない。その事実が腹立たしい。

 もっと話しかけていれば。あの時にもっと話していれば。後悔ばかりだ。

 意識はまだ戻らない、このまま消えていなくなってしまいそうな危うさがある。

 あの時駆けつけて良かった。夜道を徘徊してて本当に良かった。誰も気付かずあのままだったら……。

 そう思うと背筋が寒くなる。手が震える。こんなに誰かの事で動揺するなんて。こんな事があって漸く自分の気持ちに気付くなんて……。阿保すぎてわらえねぇ。

 点滴の管を繋がれたウデが細すぎて痛々しい。3週間で何があったのか、目の下のクマがひどい。少し痩せた様に見える。食べに来てくれた時はこんなじゃ無かったはずだ。だが、定かではないか、上辺しか見ていなかった。

 俺も、俺に寄ってきた奴らと同じ事してたんだな。そりゃ、話もしてくれない訳だ。

 だが、折角のチャンスだ、これから絶対に落としてみせる。 
 俺はしつこいからな。側に居ない時に危険な目に遭っているなんて、今回だけで懲り懲りだ。もう後悔なんかしたくねぇ。たった一人の大切な人を守れないなんて漢じゃねぇ!

 少しずつだな。焦らず、じっくり、確実にだ。

 悪いな美人さん。俺に惚れられちまったんだ。諦めてくれ、もう逃がさないぜ。



 目を開けたら明るい部屋に知らない天井。どこだ?ここ。身体が重くて動かない。手が……。大きな暖かい手に包まれている。

 (え?だれ?)

 ゆっくりとしか動かせない首でそちら側を向いた。 
 (なんで?)
 椅子にもたれて僕の手を握って眠る人に驚き過ぎて、手がビクッとなった。起こしてしまった。

 「お!やっと気が付いたか。一日眠ったまんまだったから心配したよ。良かった、漸くほっとした。俺が誰か分かるか?階段から落ちた時、頭を打ってるから。心配だ」

 (あ。そうだ、僕、階段から落ちたんだった。ここは病院か)

 「やっぱり。強く頭を打ったから、もしかしたら記憶がないのか?大変だ、先生呼ばなきゃな……」

 「あ、あの、大丈夫です……記憶は大丈夫です……先生は呼ばないでください」
 答えるのに少し間が空たせいで先生を呼んでしまうところだった。

 「おはようございます」

 部屋のドアを開け、ちょうど先生と思われる人と、看護師さんが入って来る。

 あ、ヤバい、発作が出ちゃう。
 はじめての環境と、知らない人達が、入り口からどんどんこちらに近づいて来る。その恐怖に、先生とわかっているのに、怖い。
 どうしようもなく身体が拒否してしまう。息がしづらい、怖い、怖い、知らない人が、僕に話しかけてくる。心臓がバクバクする。怖い。どうしよう、怖い……。
 
 いき…が……で…き……な…………い…………。
 
 久しぶりに発作をおこし、気が遠くなっていった。
 意識が遠のく僕の耳に、マキさんの焦った声が聞こえていた。

 「あ、先生。今気がつきました。記憶も大丈夫みたいで……おい、どうした!
 先生!息が苦しそうだ!どうして急に!」

 (おどろかせてごめんなさい)

 声にはならなかった。


 

 



 

 
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