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有り得ない提案
翌日、レオナルドはいつものように例のレストランでシェリーと食事をしていた。
だがその表情はどこか冴えず、様子のおかしい彼を見てシェリーは不思議そうに首を傾げる。
「レオ、どうしたの? なんだか元気ないわね」
「あ、ああ……すまない。実は……」
レオナルドは昨夜、母親から命じられたことを話した。
「えっ……!? 婚約者にアクセサリーを? うそ……、そんな、やだよ……」
それを聞いたシェリーは目から涙を溢れさせ、手に持っていたフォークを落とした。
床にカシャーンという金属音が鳴り響き、それを聞いた店主の奥方がやってきてそれを拾う。
「新しいのをお持ちします」と一礼した際にふと彼らの会話が耳に入った。
「ご、ごめん、シェリー……泣かないで」
「ぐすっ……だって、婚約者にはドレスもアクセサリーも贈らないって約束してくれたじゃない! 贈るのは私にだけだって……そう言ってくれたでしょう!?」
なんだそりゃ、と店主の奥方は思わず声に出すところだった。
その行為に何の意味があるのか彼女にはさっぱり分からない。
足早に厨房へと向かい、替えのフォークを彼等のテーブルに持ってくるとまだその件で二人は言い合いしていた。
「嫌……嫌よ! レオが私以外の女にアクセサリーを選ぶのも、その女がそれを身に着けるのも……!」
「ごめん……私だって嫌だよ。私が心を込めて服や宝飾品を選び、贈るのは君だけだと決めているのに……」
まるで悲劇の恋人のように悲痛な面持ちで嘆く二人を、奥方は白けた目で見ていた。
婚約者がいるのにこの男は何を操を立てたつもりでいるのか。女の方も婚約者がいる男と付き合っておきながら、そんなことを嫌がるなどどうかしている。
無言で替えのフォークを置き、空いた皿を片付けようとしていると、また戯言が耳に入った。
「そもそもさ、レオの気を引きたいって理由があるにしても、婚約者ってずっと会ってくれないんでしょう? そんな人のためにアクセサリーを用意するなんて、変だよ……」
「それは私だってそう思うよ。手紙の返事すら寄越さないような女に高価な品を贈ること自体嫌で仕方ない。だけど仕方ないんだ。婚約者はそういう横暴すら許されるほどの身分の持ち主だから……」
「そんな……」
またもやぐすぐすと泣き出すシェリーにそっとハンカチを差し出すレオナルド。
シェリーはそれを取り、ごしごしと無造作に涙を拭った。
そして、店主の奥方は白けた目でそれを見ていた。
──横暴なのは、不貞相手と婚約者の悪口を言い合って偉そうにしているこの人ではないかしら……。
奥方は思わずそんな言葉が喉まで込み上げ、そのまま口から飛び出してしまいそうになるのを必死に堪えた。
他人事とはいえ、あまりにも尊大で傲慢な彼らの言葉に怒りが収まらない。
そんな怒りをぐっとこらえ、黙々と空の食器をトレイに載せていると、またもやとんでもない発言が耳に入ってきた。
「だったら……せめて、すごい安物にして! それなら嫌な気にもならないと思うから。……あ、そうだわ! だったら、西の方の街角にある露店で選んだものにしましょう。ガラス細工だけど、光に当たると綺麗に輝いて、まるで本物みたいなの!」
「露店……? なるほど、それは……良さそうだな!」
二人の顔がパアッと明るくなったのを見て、店主の奥方は思わず「えええっ!?」と声を上げそうになった。
奥方は平民で貴族の事情には詳しくないものの、名家の令嬢に露店のガラス細工を贈るのがどれほど無作法なことかは理解している。
彼女はなるべく平静を装い、皿の乗ったトレイを持ったまま一礼する。
忘れてしまわないようにと奥方は急いで厨房へ駆け戻ると、紙を手に取り、先ほどの彼らの会話を一気に書きなぐった。
「とんでもないことだわ……。早く、これをオーナーに渡さなきゃ……」
厨房で調理をしていた店主は、ただごとではない様子の妻を心配そうに見つめていた。
だがその表情はどこか冴えず、様子のおかしい彼を見てシェリーは不思議そうに首を傾げる。
「レオ、どうしたの? なんだか元気ないわね」
「あ、ああ……すまない。実は……」
レオナルドは昨夜、母親から命じられたことを話した。
「えっ……!? 婚約者にアクセサリーを? うそ……、そんな、やだよ……」
それを聞いたシェリーは目から涙を溢れさせ、手に持っていたフォークを落とした。
床にカシャーンという金属音が鳴り響き、それを聞いた店主の奥方がやってきてそれを拾う。
「新しいのをお持ちします」と一礼した際にふと彼らの会話が耳に入った。
「ご、ごめん、シェリー……泣かないで」
「ぐすっ……だって、婚約者にはドレスもアクセサリーも贈らないって約束してくれたじゃない! 贈るのは私にだけだって……そう言ってくれたでしょう!?」
なんだそりゃ、と店主の奥方は思わず声に出すところだった。
その行為に何の意味があるのか彼女にはさっぱり分からない。
足早に厨房へと向かい、替えのフォークを彼等のテーブルに持ってくるとまだその件で二人は言い合いしていた。
「嫌……嫌よ! レオが私以外の女にアクセサリーを選ぶのも、その女がそれを身に着けるのも……!」
「ごめん……私だって嫌だよ。私が心を込めて服や宝飾品を選び、贈るのは君だけだと決めているのに……」
まるで悲劇の恋人のように悲痛な面持ちで嘆く二人を、奥方は白けた目で見ていた。
婚約者がいるのにこの男は何を操を立てたつもりでいるのか。女の方も婚約者がいる男と付き合っておきながら、そんなことを嫌がるなどどうかしている。
無言で替えのフォークを置き、空いた皿を片付けようとしていると、また戯言が耳に入った。
「そもそもさ、レオの気を引きたいって理由があるにしても、婚約者ってずっと会ってくれないんでしょう? そんな人のためにアクセサリーを用意するなんて、変だよ……」
「それは私だってそう思うよ。手紙の返事すら寄越さないような女に高価な品を贈ること自体嫌で仕方ない。だけど仕方ないんだ。婚約者はそういう横暴すら許されるほどの身分の持ち主だから……」
「そんな……」
またもやぐすぐすと泣き出すシェリーにそっとハンカチを差し出すレオナルド。
シェリーはそれを取り、ごしごしと無造作に涙を拭った。
そして、店主の奥方は白けた目でそれを見ていた。
──横暴なのは、不貞相手と婚約者の悪口を言い合って偉そうにしているこの人ではないかしら……。
奥方は思わずそんな言葉が喉まで込み上げ、そのまま口から飛び出してしまいそうになるのを必死に堪えた。
他人事とはいえ、あまりにも尊大で傲慢な彼らの言葉に怒りが収まらない。
そんな怒りをぐっとこらえ、黙々と空の食器をトレイに載せていると、またもやとんでもない発言が耳に入ってきた。
「だったら……せめて、すごい安物にして! それなら嫌な気にもならないと思うから。……あ、そうだわ! だったら、西の方の街角にある露店で選んだものにしましょう。ガラス細工だけど、光に当たると綺麗に輝いて、まるで本物みたいなの!」
「露店……? なるほど、それは……良さそうだな!」
二人の顔がパアッと明るくなったのを見て、店主の奥方は思わず「えええっ!?」と声を上げそうになった。
奥方は平民で貴族の事情には詳しくないものの、名家の令嬢に露店のガラス細工を贈るのがどれほど無作法なことかは理解している。
彼女はなるべく平静を装い、皿の乗ったトレイを持ったまま一礼する。
忘れてしまわないようにと奥方は急いで厨房へ駆け戻ると、紙を手に取り、先ほどの彼らの会話を一気に書きなぐった。
「とんでもないことだわ……。早く、これをオーナーに渡さなきゃ……」
厨房で調理をしていた店主は、ただごとではない様子の妻を心配そうに見つめていた。
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