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さようなら
「はあ……今更もう遅いです。離婚はもう成立してしまいましたし、わたくしと貴方の道はもう交わりません。今後は互いに別の道を生きていくほかありませんわ」
「そんなっ!? い、嫌だ……! 離婚してもまた結婚すればいいじゃないか!?」
「無理です。我が父は、貴方を見限りました。こんなお粗末な毒殺すら防げぬ方に未来の司令官は務まらない、と」
「え……? なんでそこで義父上が出てくるんだ!? 結婚は二人のことだろう?」
そこからなの、とロザリンドは頭を抱えた。
結婚前にも説明しているはずなのにどうして都合よく忘れているのか理解ができない。
致し方なくロザリンドはライアスにもう一度丁寧に説明した。
ロザリンドの夫は未来の司令官となること。
ライアスが夫として選ばれたのは、東方師団長が将軍に推薦したから成立したということ。
そして、今回の毒殺未遂事件はそんなライアスを妬んだ者の犯行であること。
「は…………? じゃあ、俺を妬んだ東方師団内の誰かが毒を盛ったのか?」
「ええ、その線が濃いかと。ですが犯人は表向きアニーさんで決まってしまいました。真犯人を探すにも、今回の毒殺に関わった人間は一人二人ではなさそうですし……難しいでしょうね」
ライアスに毒を盛った者が単独犯である可能性は極めて低い、というのが憲兵上層部の見解だ。
黒幕にたどりつかぬよう、幾人も介して事に及んでいると。
「ならっ! 悪いのはそれを命じた奴だろう!? 何も悪くない俺がお前と離婚だなんておかしいじゃないか!!」
アニーが無実の罪を被せられたと聞いてもライアスは心配すらしなかった。
その態度にロザリンドは失望を覚える。
彼女からの好意をあれだけ受け続けてきたくせに何なのかと。
「……貴方に悪い部分がないと言えますの? アニーさんからの差し入れを受け取らなけらばこんなことは起きなかったのですよ? 言ったでしょう? 『あの女性から差し入れを貰うのはお止めください』と……」
「う……だからそれは……お前に嫉妬してほしくて……」
「まあ……。ですが、客観的に見れば貴方は妻であるわたくしの願いよりも、アニーさんの願いを優先しました。わたくしはそれが許せませんわ」
「……ごめん。でも、嫉妬してくれると愛されているように思えて嬉しかったんだ……」
「愛されている? ……愛しておりましたよ。少なくともわたくしは貴方を愛していた。だから……妻であるわたくしの意見よりも、別の女性の好意を優先したことが許せなかったのです……」
政略結婚だったとはいえ、ロザリンドはライアスを愛していた。
義務だけではない。愛していたからこそ、危険な目に合わせたくなくて何度も忠告を繰り返していた。
なのに、当のライアスが聞き耳を持たなかったせいでこうなってしまったのだ。
「そうだったのか? お前は俺を愛していたのか……? だったらまたやり直そう! 今度はちゃんとお前の忠告を聞くと約束するから……」
「……いいえ、やり直すことは無理です。わたくしの夫になる方は……未来の司令官に相応しき方でなければなりません。毒殺程度防げぬような方には到底無理にございますわ」
「毒殺程度!? ……お前達貴族にとってはその程度かもしれないが、俺達平民にとっては毒なんて身近じゃないんだよ! 食べ物を警戒するなんてことすら知らないのに無理に決まっているだろう!?」
「ええ、それは承知しております。ですからわたくしは口うるさいと思われようとも貴方に忠告を続けてきたのですよ? それをきちんと聞いて実行してくだされば安全でした。そのためにわたくしがいたのですから……」
ライアスの警戒心があまりにも低いことは結婚当初より理解していた。
馴染みがないのは仕方ないこと。ロザリンドはそれに呆れることなく、その都度注意を促してきた。
それも妻の務めだとして。
「そんなこと言ったって……。何をするにしてもいちいち気を配るなんて、とてもじゃないが面倒でやってられない」
不貞腐れたようにそう吐き捨てたライアスにロザリンドは失望を覚えた。
彼女の夫の立場とは、将軍の娘を娶ることとは、何をするにしても気を配らねば命が危ういというもの。
なのにライアスはそれを全く理解していない。
ロザリンドがいくら説明しても、自分が毒殺されかけても、学ぼうとしない。
これ以上話しても無駄だとロザリンドは彼に別れを告げた。
「…………これ以上の問答は止めましょう。わたくしと貴方の道はもう交わることはないのですから」
悲し気に俯くロザリンドを見てライアスは自分の失言に気付き、慌てふためいた。
「ご、ごめんロザリンド……。でも、いや……その、これからは気を付けるから……」
ライアスの弁明にもなっていない弁明は余計にロザリンドの心を閉ざした。
気を付ける、と言ってもそれは口だけ。この人はきっとまた同じことをやらかす。
なぜなら彼は未だに自分の危機管理能力が低いという自覚が全くないからだ。
こんな結果になってもまだ、彼は自分の行いを全く反省していない。
妻以外の女から贈り物を貰うという行為が、どれだけロザリンドの心を傷つけたか。
毒見をしていない物を口にすることが、どれだけ危険なのか。
ライアスはそれを理解しない。
これまでも、そしてきっとこれからも……。
「そうですね……。これからはどうぞ気を付けてお過ごしください。では、わたくしはこれで。どうかお体ご自愛下さい」
「えっ!? 待ってくれロザリンド! 俺はお前を……」
「さようなら、ライアス様……」
慌てて追いすがろうとしたライアスだが、毒の後遺症で体が思うように動かない。
ここでロザリンドを帰してしまったらもう二度と会えない。
そんな嫌な確信があるのに追いかけることすら不可能だ。
動けない彼は去っていく元妻の華奢な背中をただ見ることしか出来なかった……。
「そんなっ!? い、嫌だ……! 離婚してもまた結婚すればいいじゃないか!?」
「無理です。我が父は、貴方を見限りました。こんなお粗末な毒殺すら防げぬ方に未来の司令官は務まらない、と」
「え……? なんでそこで義父上が出てくるんだ!? 結婚は二人のことだろう?」
そこからなの、とロザリンドは頭を抱えた。
結婚前にも説明しているはずなのにどうして都合よく忘れているのか理解ができない。
致し方なくロザリンドはライアスにもう一度丁寧に説明した。
ロザリンドの夫は未来の司令官となること。
ライアスが夫として選ばれたのは、東方師団長が将軍に推薦したから成立したということ。
そして、今回の毒殺未遂事件はそんなライアスを妬んだ者の犯行であること。
「は…………? じゃあ、俺を妬んだ東方師団内の誰かが毒を盛ったのか?」
「ええ、その線が濃いかと。ですが犯人は表向きアニーさんで決まってしまいました。真犯人を探すにも、今回の毒殺に関わった人間は一人二人ではなさそうですし……難しいでしょうね」
ライアスに毒を盛った者が単独犯である可能性は極めて低い、というのが憲兵上層部の見解だ。
黒幕にたどりつかぬよう、幾人も介して事に及んでいると。
「ならっ! 悪いのはそれを命じた奴だろう!? 何も悪くない俺がお前と離婚だなんておかしいじゃないか!!」
アニーが無実の罪を被せられたと聞いてもライアスは心配すらしなかった。
その態度にロザリンドは失望を覚える。
彼女からの好意をあれだけ受け続けてきたくせに何なのかと。
「……貴方に悪い部分がないと言えますの? アニーさんからの差し入れを受け取らなけらばこんなことは起きなかったのですよ? 言ったでしょう? 『あの女性から差し入れを貰うのはお止めください』と……」
「う……だからそれは……お前に嫉妬してほしくて……」
「まあ……。ですが、客観的に見れば貴方は妻であるわたくしの願いよりも、アニーさんの願いを優先しました。わたくしはそれが許せませんわ」
「……ごめん。でも、嫉妬してくれると愛されているように思えて嬉しかったんだ……」
「愛されている? ……愛しておりましたよ。少なくともわたくしは貴方を愛していた。だから……妻であるわたくしの意見よりも、別の女性の好意を優先したことが許せなかったのです……」
政略結婚だったとはいえ、ロザリンドはライアスを愛していた。
義務だけではない。愛していたからこそ、危険な目に合わせたくなくて何度も忠告を繰り返していた。
なのに、当のライアスが聞き耳を持たなかったせいでこうなってしまったのだ。
「そうだったのか? お前は俺を愛していたのか……? だったらまたやり直そう! 今度はちゃんとお前の忠告を聞くと約束するから……」
「……いいえ、やり直すことは無理です。わたくしの夫になる方は……未来の司令官に相応しき方でなければなりません。毒殺程度防げぬような方には到底無理にございますわ」
「毒殺程度!? ……お前達貴族にとってはその程度かもしれないが、俺達平民にとっては毒なんて身近じゃないんだよ! 食べ物を警戒するなんてことすら知らないのに無理に決まっているだろう!?」
「ええ、それは承知しております。ですからわたくしは口うるさいと思われようとも貴方に忠告を続けてきたのですよ? それをきちんと聞いて実行してくだされば安全でした。そのためにわたくしがいたのですから……」
ライアスの警戒心があまりにも低いことは結婚当初より理解していた。
馴染みがないのは仕方ないこと。ロザリンドはそれに呆れることなく、その都度注意を促してきた。
それも妻の務めだとして。
「そんなこと言ったって……。何をするにしてもいちいち気を配るなんて、とてもじゃないが面倒でやってられない」
不貞腐れたようにそう吐き捨てたライアスにロザリンドは失望を覚えた。
彼女の夫の立場とは、将軍の娘を娶ることとは、何をするにしても気を配らねば命が危ういというもの。
なのにライアスはそれを全く理解していない。
ロザリンドがいくら説明しても、自分が毒殺されかけても、学ぼうとしない。
これ以上話しても無駄だとロザリンドは彼に別れを告げた。
「…………これ以上の問答は止めましょう。わたくしと貴方の道はもう交わることはないのですから」
悲し気に俯くロザリンドを見てライアスは自分の失言に気付き、慌てふためいた。
「ご、ごめんロザリンド……。でも、いや……その、これからは気を付けるから……」
ライアスの弁明にもなっていない弁明は余計にロザリンドの心を閉ざした。
気を付ける、と言ってもそれは口だけ。この人はきっとまた同じことをやらかす。
なぜなら彼は未だに自分の危機管理能力が低いという自覚が全くないからだ。
こんな結果になってもまだ、彼は自分の行いを全く反省していない。
妻以外の女から贈り物を貰うという行為が、どれだけロザリンドの心を傷つけたか。
毒見をしていない物を口にすることが、どれだけ危険なのか。
ライアスはそれを理解しない。
これまでも、そしてきっとこれからも……。
「そうですね……。これからはどうぞ気を付けてお過ごしください。では、わたくしはこれで。どうかお体ご自愛下さい」
「えっ!? 待ってくれロザリンド! 俺はお前を……」
「さようなら、ライアス様……」
慌てて追いすがろうとしたライアスだが、毒の後遺症で体が思うように動かない。
ここでロザリンドを帰してしまったらもう二度と会えない。
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