だから言ったでしょう?

わらびもち

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ヤバい奴

「……それで、どうします? ご実家に戻れられるなら退院に合わせて馬車の用意をしておきますが?」

「ああ……そうだな。もうそこしか帰る場所もないものな……」

 都合のいい勝手な妄想が打ち砕かれ、落ち込むライアスに医師は大分イラっとした。
 
 このままここにいると血圧が上がって血管が切れそうだ。
 そう判断した医師はさっさと説明を終わらせようと話を進める。

「ではそのように手配しておきます。あ、そうそう、入院中にご家族へその旨を伝える手紙を書かれた方がよろしいかと思いますよ」

「ああ、そうだな……。そうする」

「では後ほど必要な物を一式ご用意します。書けましたら看護師に渡してください。こちらで送っておきますので」

「ああ……分かった」

 話を聞いているのか聞いていないのか曖昧なライアスだが、医師は構わずそのまま説明を終えた。

 意気消沈するライアスに「ではこれで失礼します」と告げてさっさとその場を後にする。


「先生……あの患者さん、毒の後遺症で脳に障害が出たんでしょうか?」

 病室から離れ、医師や看護師の待機所に着いてからあの場にいた一人がそんな言葉を口にした。

「いや、そんな診断記録は出ていないから、元からなんじゃないか?」

「うわ……だとしたら単なるヤバい奴じゃないですか!? 何なんですあの妄想? 別れた妻の父親が所有している邸に何食わぬ顔で戻れるなんて思う方がどうかしてますよ……」

「ああ……本当にな。ロザリンドお嬢様だけ出ていって、使用人は自分の帰りを待っているとでも思っていたのか? 使用人だって皆お嬢様が家から連れてきた者だし、給金だってお嬢様が支払っているのにな? あの男の思考が理解不能だ……」

「平民が貴族になると、そういうおかしな思考になっちゃうんですかね?」

「いや、皆が皆そうじゃないだろう。あの患者がおかしいだけだ。まあ、とにかく退院までは面倒を見てほしいとお嬢様から頼まれているし、その分の手間賃も貰っているからな。嫌でもそれまでは我慢しようか」

「お嬢様……。あんな馬鹿みたいな男にそこまでするなんて、本当にお優しいんですね。あの患者さん、馬車や手紙の代金がすら気にしないほど残念な人ですよ?」

 手紙を出すにしても馬車を手配するにしても結構な金がかかる。
 少なくても平民がおいそれと払える金額ではない。
 全てロザリンドが事前にまとまった金額を用意し、そこから支払うように手配したからこそ出せるのだが、当のライアスは全くそれに気付いてない。

「お嬢様は真面目で誠実な御方だから、あんなどうしようもない男でも愛していたのかもしれないな……。師団長閣下もどうしてあんな男をお嬢様の夫に推薦なさったのか……」

「師団長、馬鹿ですか? それとも見る目が無さすぎなんですか?」

「どっちもじゃないか? だから左遷なんかされるんだろうよ」

「うわぁ……。翻弄されたお嬢様が可哀想です。こんなんで経歴に傷がついちゃうなんて……」

「お嬢様の身分なら傷の一つや二つついても問題ないだろう。また新たな軍人と結婚なさるだろうしな」

「軍人で嫌な思いしたのに、また軍人と結婚しなきゃいけないんですか……。なんかやるせないですね」

「致し方ないさ。それも将軍閣下の息女として生まれた義務なのだし」

「義務かぁ……。煌びやかに見えるけど、貴族も大変ですね。私は平民でよかったかも」

 いくら贅沢できるといっても、勝手に結婚相手を決められたり、食事に毒が混入されるような生活はごめんだ。
 そんな看護師の言葉に医師はそうだなと頷いた。

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