だから言ったでしょう?

わらびもち

文字の大きさ
18 / 25

そういうところだぞ

 村長の家は他の住民の家に比べて大きく立派だ。
 中も広く、部屋もいくつもあり使用人までいる。

 ライアスは子供の頃、こんな広く大きな家に住みたいと願ったことを思い出した。
 その願いが叶い、村長の家よりも広く立派な邸に住めたのに、自業自得で台無しになったことにまた落ち込んだ。

「奥の客間で話すか。着いてきてくれ」

 村長に促され、ライアスは彼の後を着いていき、廊下の奥にある部屋へと向かう。
 その部屋の中はそこそこ高価な調度品が置かれ、まるで貴族の邸にある客間のような造りとなっていた。
 とても片田舎の村長の家に似つかわしくないほど品がいい。

 部屋の真ん中にある大きなテーブルの上へ、使用人が料理や酒を並べる。
 厚切りの肉を焼いたもの、新鮮な野菜をたっぷり盛り付けたサラダ、具沢山のスープ、何種類ものチーズ、それに焼きたてのパンに葡萄酒、果物まである。その豪勢な品揃えにライアスはゴクリと喉を鳴らした。

「豪華ですね……! こんな美味そうな料理、久しぶりに食べますよ」

「ああ、そういえばずっと入院してたんだものな? よし、退院祝いも兼ねてたっぷり食え!」

 村長の心遣いに歓喜したライアスは存分にご馳走を味わった。
 
「どれもこれも美味いです! こんなの久しぶりに食べました!」

「そうかそうか、いっぱい食え。……それにしてもライアス、お前さすが元貴族だけあって食事の仕方が綺麗だな?」

「へ? あ、そうですか?」

「ああ、そういうのは元嫁さんにでも習ったのか?」

 村長にそう言われ、ライアスは記憶を辿る。

「そう……ですね。結婚当初からマナーを叩きこまれましたよ。社交で会食はするのだから覚えなきゃダメだって……」

 貴族としてのマナーは食事作法以外にも散々勉強させられた。
 手紙の書き方、言葉遣い、エスコートの作法、それ以外にも沢山。

「……俺は勉強嫌いでね。どれもまともに身に着きませんでしたよ。食事作法だけは褒められましたけどね。ああ、それとシガー葉巻の吸い方も上手いと言われました。もう吸う機会もないですけどね……」

 平民となったライアスに、葉巻なんて高級品はこの先買う機会が訪れそうにもない。
 それは葉巻だけでなく、食事に関してもそうだ。
 彼が今食べたご馳走はロザリンドと暮らしていた頃なら普通に食卓に並んでいたものばかり。

 当たり前のように享受していた贅沢が、妻と共に自分のもとから離れてしまった。
 そう考えると悲しくて仕方ない。

「葉巻なら持ってるぞ。よければ食後に吸うか?」

 なんと村長は葉巻を所持しており、しかもそれをライアスに薦めてくれる。
 気前のよさに一瞬喜んだライアスだが、ふと、田舎暮らしの村長がどうしてそんな高級品を持っているのかと疑問に思った。

「それはありがたいですね。ですが村長……どうして葉巻を持っているのですか? 結構高いはずですよ、それ」

「ん? ああ、領主様がお土産に下さったんだよ。でも俺は吸い方を知らなくてな。だからといってそれを領主様に聞くのも図々しいだろう? だから吸わせる代わりに俺にやり方教えてくれ」

 そういうことなら、とライアスは快く承諾した。



「はあ……いい香りだ。葉巻なんて初めて吸ったが美味いものだな……」

 ライアスに吸い方を教わった村長は煙をふかしてその豊かな香りを楽しんだ。

「しかしその……カッターだったか? その葉巻を切るためのそれ。随分と立派な物だが、それは自分で買ったのか?」

「シガーカッターですね。いや、これは妻からのプレゼントです。これだけでなく持ち運び用のケースや灰皿なんかも貰いましたね……。もう使わないと思ってましたが、また使えるとは……」

 ロザリンドは生家の家紋入りのシガーカッターやケース、灰皿をライアスにプレゼントしていた。
 道具にこだわるのも貴族の嗜みであると。

「ふーん、気前いいもんだ。そんな立派な物貰っちゃ、お前もお返しに何を贈ったらいいか迷っただろう?」

「え?」

 ライアスは村長が言った“お返し”という意味が分からずキョトンとする。
 すると村長は訝しげに彼を見た。

「ん? 嫁さんからプレゼント貰ったら、自分だってお返しに何か贈ろうと思うだろう? で、そんな立派な物貰ったら何をあげていいか困っちまうなって」

 贈り物? そういえば自分は妻に何か贈ったことがあったろうかとライアスは焦った。
 どれだけ思い返してみても、彼女に何かを贈った記憶がない。

「ライアス……? お前、まさか嫁さんに何も贈っていないのか?」

「えっ!? い、いや……その……妻は、何でも持っていたし、今更俺から買ってもらわなくても……」

「はあ? おいおいおい……それは違うだろう? 持っているならあげなくていいってどういう理屈だそれは? 俺の嫁さんなんて、一度誕生日プレゼント贈るの忘れたら数日口きいてくれなかったぞ!?」

 誕生日プレゼント、という言葉にライアスはロザリンドの誕生日すら知らないことに今更気づいた。

 村長は顔面蒼白となるライアスを一瞥し、全てを悟ったかのように呟いた。

「お前……不倫なんかしなくても、そのうち嫁さんから愛想尽かされていただろうな……」

あなたにおすすめの小説

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの? こちらは恋愛ファンタジーです。 貴族の設定など気になる方は、お避けください。

婚約者を借りパクされました

朝山みどり
恋愛
「今晩の夜会はマイケルにクリスティーンのエスコートを頼んだから、レイは一人で行ってね」とお母様がわたしに言った。 わたしは、レイチャル・ブラウン。ブラウン伯爵の次女。わたしの家族は父のウィリアム。母のマーガレット。 兄、ギルバード。姉、クリスティーン。弟、バージルの六人家族。 わたしは家族のなかで一番影が薄い。我慢するのはわたし。わたしが我慢すればうまくいく。だけど家族はわたしが我慢していることも気付かない。そんな存在だ。 家族も婚約者も大事にするのはクリスティーン。わたしの一つ上の姉だ。 そのうえ、わたしは、さえない留学生のお世話を押し付けられてしまった。

【完結】今さら執着されても困ります

リリー
恋愛
「これから先も、俺が愛するのは彼女だけだ。君と結婚してからも、彼女を手放す気はない」 婚約者・リアムが寝室に連れ込んでいたのは、見知らぬ美しい女だった―― アンドレセン公爵令嬢のユリアナは、「呪われた子」として忌み嫌われながらも、政略結婚によりクロシェード公爵家の嫡男・リアムと婚約し、彼の屋敷に移り住んだ。 いつか家族になれると信じて献身的に尽くすが、リアムの隣にはいつも、彼の幼馴染であり愛人のアリスがいた。 蔑まれ、無視され、愛人の引き立て役として扱われる日々。 ある舞踏会の日、衆前で辱めを受けたユリアナの中で、何かがプツリと切れる。 「わかりました。もう、愛される努力はやめにします」 ユリアナがリアムへの関心を捨て、心を閉ざしたその夜。彼女は庭園で、謎めいた美しい青年・フィンレイと出会う。 彼との出会いが、凍りついていたユリアナの人生を劇的に変えていく。 一方、急に素っ気なくなったユリアナに、リアムは焦りと歪んだ執着を抱き始める。 ・全体的に暗い内容です。 ・注意喚起を含む章は※を付けています。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
【第19回恋愛小説大賞】で奨励賞を頂きました。投票して下さった皆様、読んで下さった皆様、本当にありがとうございました(^^) 「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──