貴方といると、お茶が不味い

わらびもち

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クリスフォードの来訪③

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「カサンドラへの気持ちはそんなふしだらなものではない! ただ彼女に憧れと尊敬を抱いているだけだ。学園でも彼女は他の令嬢と違い、光り輝いていた……」

「ふうん、そうですか」

「……嫉妬か? いくら自分よりもカサンドラの方が優れているからといって、女の嫉妬は醜いぞ」

「女だけでなく、男の嫉妬も醜いと思いますけどね。まあ、いいです。それでスピナー公爵令嬢は具体的にはどのように輝いていらっしゃったの?」

「え? 具体的に……?」

「ええ。そんなに褒めるのですから説明くらい出来るでしょう? 教えてくださいな」

 令息達が婚約者よりも優先するほどの魅力が彼女のどこにあるのか。それが知りたい。
 
「カサンドラは……不思議な女性なんだ。私も含めた数多の令息の抱えていた悩みを瞬く間に解決し、癒してくれてな……」

「悩みを解決……ですか? 例えばどのような?」

 まだ年若い令嬢が複数の人間の悩みを解決なんてできるものだろうか?
 しかもあんな非常識な方が。

「例えばだと? そうだな……ある伯爵家の子息は優秀な婚約者に劣等感を抱いていてな。だがそれを周囲に悟られるのは恥なのでずっと内に秘めていたそうだ。そしてその鬱屈した心をカサンドラが見抜き、彼に『貴方は貴方のままでいいのよ』と肯定してくれた。以来、彼はカサンドラを女神の如く崇拝するまでになったのだよ」

「崇拝ですか……。他には?」

 そうは言っても結果だけ見れば、婚約者に劣等感を抱いた挙句に別の女性に侍り、婚約を解消されただけ。
 しかも彼女に侍っていた子息達のほぼ全員が家の名誉を汚したとして勘当されたと聞く。

 悩みを解決しても意味がないような……。

 
「他? そうだな……とある侯爵子息なんかは長男だからと跡継ぎに任命された兄に鬱屈した想いを抱いていてな。自分の方が優秀なのに、先に生まれたというだけで栄華を約束された兄が許せないと。もちろん表には出さなかったのだが、聡明なカサンドラは気付いたのだろう」

「……なるほど。それでどうなったのです?」

 先に生まれたというだけで跡継ぎに任命されたのは貴方でしょう?

 という言葉を吐きだす前に急いで飲み込んだ。
 今それを出したら話が進まないし、絶対に面倒なことになる。

「それでカサンドラは彼に『両親に貴方の方が優秀であることを示すべきよ』と提案したそうだ。以来、彼はことあるごとに兄よりも自分の方が多方面で優れていると主張し、跡継ぎを自分に変えるよう父親に訴えたらしい」

 それはお家問題に発展するのでは?

 恍惚とした表情でスピナー公爵令嬢の素晴らしさを語るクリスフォード様だが、それが他家の世継ぎ問題に首を突っ込む行為だと全く気付いていない。

 そもそも跡継ぎを決めるのはその家の当主の権利。
 それを他家の、しかも婚約者でもない令嬢が待ったとかけるなど行き過ぎた行為だ。

 お家問題は最悪内乱を招くこともある。
 スピナー公爵令嬢のしたことは無責任にも他家を引っ掻き回し、争いの火種を生むような愚行だ。

「……そうですか。それで、その子息は跡継ぎになれたのですか?」

「いや? それが流行り病にかかってしまったらしく、途中退学したんだ。その後も彼が跡継ぎになったとは聞いていないし、どうなったか分からない」

 それは多分、彼は危険因子と見なされて幽閉されたのかもしれない。

 おそらくもう……彼は貴族として社交界に出ることすら叶わないだろう。
 まともな当主なら、世継ぎ問題に発展するような危険思想を持った息子を外に出すことはしない。

 侯爵家の子息であれば、余計なことさえ言わなければ他家に婿入りすることも可能だったろうに。
 そういった貴族としての華やかな未来は奪われ、以降は領地でひっそりと生きるか修道院に入れられるかのどちらかだ。

 いくら悩みを解決しても、その後の人生が暗いものでいいのだろうか?

 彼等はそれで満足なのだろうか?

 私だったらそんなの御免だ。
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